モテモテな幼馴染み

「好きです!付き合ってください!」


 昼休みが始まってすぐ、一人の男子生徒が教室にやって来て、雫に告白した。


 靴の色を見るに、三年生ということが分かったが、目を惹くのは声の大きさだけではない。


 顔立ちが整っており、運動神経抜群と見て分かるくらい、爽やかなイケメンだった。


 この告白に、男子は憎しみと嫉妬心を露にした眼差しを、女子は黄色い歓声を上げている。


 教室の外にもギャラリーがいる辺り、この男子生徒も人気者なのだろう。


 しかし、そんな男子生徒の告白は受けいられることなく、雫が頭を下げる。


「ごめんなさい。今は誰とも付き合う気はないんです」

「……そうか。ありがとう、時間を割いてもらって悪かった」


 そう言うと、颯爽と教室を出ていく。


 男子からも女子からも安堵の声が聞こえたのは気のせいだろうか。


 ほどなくして雫はいつものように、クラスの人と談笑していた。


「いやー、あのイケメン先輩でもダメだったか~」

「お前何か知ってるの?」


 前の席にいる和希が振り向きながら、そう口にする。


「もともと噂にはなってたんだよ。そろそろ告白するんじゃないかって」

「へぇ~」

「で、誰にも靡くことがない樋山さんもついには、変わるんじゃないかってみんな期待してたんだけど、そう上手くはいかなかったな」

「……もったいねぇな、あいつ」


 誰とも付き合う気はない。

 

 その言葉に嘘偽りはないだろう。今までの告白もそうやって断ってきたと和希が言っていた。


 今までの人たちは知らないが、今の男子生徒は文句のつけようがないくらい、完璧な男子生徒だったと思う。


 少なからず、男子生徒の方も自信はあっただろう。


 だがそれも失敗に終わり、また一つ、振られた人数が増えただけだ。


「なあ和希、樋山はどうして断るんだ?」

「ん~、俺もちょくちょく考えるんだけど、本当に分からないんだよな~。俺みたいなふつめんなら分かるんだけど、この学校のイケメンたちも、あえなく失敗してるからな~」

「上手くいくときは来るのかねー」

「何、悠真、お前も樋山さんが好きなのか?」


 和希が面白そうなものを見るような瞳で、俺を見てくる。


「いや、あり得ねぇよ。どう見ても釣り合わないし」

「そうか?お前は整えれば、全然見れると思うけどな」

「ラブコメ主人公でもあるまいし、そんなことはねぇよ」


 会話が終わると和希は、誰かに呼ばれそっちの方にいってしまった。


 俺は次の時間の準備をし、もう一度寝ることにした。




____________________________________________





 六時間目、今は体育の時間。


 広い体育館を半分に分け、男子と女子に分けられている。


 行っている競技はどちらもバスケットボール。運動神経が良くない俺は、壁に寄りかかり、試合を見ていた。


「お前ほんとやる気ないよな」

「運動は苦手なんだよ」


 そんな俺をあきれたような視線で見てくる和希。勉強はあまり得意ではない代わりに、運動は人並み以上に出来る和希は、綺麗な汗を流し、俺の隣に座った。


 といっても、静かに男子の試合を見ているのは、俺ぐらいだろう。他の男子生徒は、ある一点に集中している。


 俺もそちらの方を見ると、綺麗なフォームでシュートを放ち、得点を入れている雫が目に入る。


 シュートを決めると、周りの男子や女子の歓声が聞こえる。あいつ他の男子より女子にモテてないか?


 雫は、勉強も出来るし、運動能力も抜群、天は二物を与えないなんてよく言うが、雫を見ていると、そんな言葉は嘘なんじゃないかと、疑ってしまう。


 だが、それも本人の努力の賜物と知っているのは、ほとんど知らないんだよな、と思うと、少し報われないと感じてしまうが、それは俺には関係ない。


 華麗にドリブルをし、どんどんシュートを決める雫を見る。


 周りの男子生徒も女子生徒も雫に夢中だったが、俺はあえて視線を反らし、誰一人見ていない男子の試合を見ることにした。


 



____________________________________________





「はぁー、疲れた。ちょっとだけ横になっても良い?」

「ああ、大丈夫だぞ」


 放課後、いつものように雫が来ていたが、今日はさっきのバスケの試合でくたくたらしい。


 あんなに大活躍していたら、そうなるのも無理はない。


「大活躍だったな」

「そうかな?普通に試合をしただけたよ?」


 あれが普通?試合が始まってから終わるまで、ずっと走り続け、しまいには得点の大半は自分で決めていた。そんな事を俺がしたら、一週間は筋肉痛に苦しむだろう。


「カッコいいところを見せるために、人一倍頑張ったから、それもキテるのかも」

「カッコいいところ?ああ、クラスの人たちにか、大変だな」

「……そうだね」


 人気者というのは大変なものだ。もしかしたら気の休まるところなんてないのかもしれない。


 もし自分が人気者になれるとしても、俺はならないだろう。疲弊しきってしまう。


 やっぱり少なからず、周りの期待には答えなくてはいけないのだろう。人気者ゆえの苦労だな。


「……少しだけ寝ても良い?」

「わかった。少ししたら起こすよ」


 そう言うと、静かな寝息が聞こえる。


 俺はそっと布団をかけ直し、床に座る。


 あまり見てはいけないと理解しているのだが、ついつい端正な顔立ちをした雫の顔を見てしまう。


 美少女は寝ているときでさえかわいいというのは、ものすごくずるいと感じてしまう。


 俺は雫が起きないように、軽く頬を触る。


 柔らかくすべすべな肌をしており、いつまでも触っていられるような感覚が手に感じる。


 気がつくともう一度触ろうと、無意識に手を動かしていたが、直ぐにストップをかける。


 俺は起こさないように、静かに部屋を出る。


 だが、俺はこのとき見逃していた。


 さらさらな髪の間から覗く耳が、真っ赤に染まっていたことを。

 




 


 

 

 

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