甘えてくる幼馴染み
「いや~、やっぱ樋山さんはかわいいな!悠真」
「うんそうだな」
「ああいう子と付き合いたいよな~」
「うんそうだな」
「……お前それしかいってなくね」
今は昼休み。昼食も食べてしまい、今は学校での唯一の友達、藤崎 和希(ふじさわ かずき)と談笑している。
和希とは高校で初めて会ったが、色々と共通点が多く、意外なほどに仲良くなった。
そんな和希と話している内容は(和希が一方的に話している)、学年一の美少女、樋山 雫のことだった。
「そんなに好きなら話しかけてくれば良いのに」
「そんなことできるわけないだろ~。ほら見てみろよ、周りの人を」
そう促され、雫の方を見る。周りには常に人が集まっており、また集まっている人たちも、リア充っぽい人種だ。
この光景を見ると、和希が話しかけることが出来ないという理由も頷ける。
「悠真は好きな人とかいないのか?」
「好きな人……か。特には」
「へぇー、もったいないな」
「そうかよ。じゃあ俺は寝るから、後で起こしてくれ」
そう言いきり俺は机に突っ伏す。
昼休みの喧騒を聞きながら、俺は寝ることにした。
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放課後、俺はまっすぐ家に帰り、部屋でごろごろしていた。
俺の部屋には雫はいなく、もしかしたら今日は来ないかもしれない。
そんなことを考えつつ、近くにあった漫画本をとると、俺の部屋の扉が空いた。
「お邪魔しまーす。あ、悠真起きてた」
「さすがにこの時間には寝ないよ」
もちろん入ってきたのは雫。ここで一人しか思い浮かばない辺り、俺の交遊関係は乏しいということが分かってしまう。
俺は雫にベッドを譲ろうと、床に座ろうとすると、止められた。
「あ、降りなくて良いよ」
「え?雫、ここに座るだろ?」
「うん、座るよ。けどそこに普通に座ってて」
俺は雫の要望通り、普通に座る。
すると、雫はベッドに上り、俺の太ももに頭を乗せる。
……つまり、膝枕というものだ。
「……雫?何をしてるんだ」
「膝枕だよ?」
「いやそれは見れば分かるんだけど……」
さも当たり前かのように言い、気持ち良さそうに寝転がる雫。
俺の鼓動は早まる一方で聞かれていないかと不安になるが、一旦冷静になり、会話を続ける。
「もう一つお願いして良い?」
「ん?なんだ?」
「頭を撫でてほしい」
「はあ?!」
いきなり予想だにしない言葉を投げ掛けてきた雫。
俺は動揺を隠せないまま、呆然としていると、雫の方から理由をしゃべってきた。
「普通に優しく撫でてくれたら良いよ」
「いや、撫でかたが分からないわけじゃないからな?ただ単純に何故?って思ってるだけだから」
そう言うと、雫はどこか拗ねたように言う。
「昔は撫でてくれたじゃん」
「昔と今は違うからな?」
「いいからは・や・く」
促されるように、半ば強引に撫でらされる。
雫の髪はさらさらで、撫でる度に爽やかな匂いが充満する。
「んぅ……」
撫でられている雫は気持ち良さそうに、身を委ねている。
だが、撫でている時に思わず綺麗な形をした、耳に触れてしまった。
「ひゃう!」
色っぽいく、艶っぽい声を出す雫。
俺はこのままではいけないと思い、雫を起こし、強制ストップをする。
「こ、ここまでな!」
「え~、これで終わり?」
「ま、また今度してやるから。今日のところは終わりな?」
「分かった。ありがとう」
また今度するという約束をしてしまったが、これくらいなら構わない。
日も傾き始め、雫は帰ることになった。
「じゃあまた明日」
「ああ、また明日」
扉が閉まり、そのうち玄関から雫が出ていく音がなった。
その瞬間俺は直ぐにベッドに横になり、今日と、昨日からの雫の変化を考える。
仮に、あの日俺の一言で雫が変わったとしよう。
今まで雫があんなに甘えてくることも、感情を表に出すことも少なかった。
雫はクールで、可愛いというよりは、カッコいいという言葉が似合う女の子だ。
雫は言った。昔は撫でてくれたと。
確かに昔は自分に自信がなく、常に俺の後ろを歩いているような女の子だった。
しかし、年を取り成長するにつれ、それはどんどん直っていき、今や一人で何でもこなせるくらいになってしまった。
それは悪いことではなく、むしろ本人の努力が報われて、俺も喜ばしく思う。
だけど、そんな雫とは対照的に、なにも変われていない自分に嫌気がさした。
だから俺は、雫に迷惑をかけないように、学校で関わるのを止めた。適切な距離で関わることにした。
結局それも、自分が傷つきたくないだけの、臆病者でしかない。
だから、本来俺が雫と関わっていること自体もおこがましいのだ。
いつか、自分に自信を持つことが出来たなら、変わることが出来たなら、俺も昔のように接することが出来るのだろうか。
そんな希望的観測を掲げながら、俺は一眠りしようと、ベッドに身を預けた。
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夢を見た。幼き頃の記憶。
『ぐすっ、ぐすっ』
『どうした、雫』
いつも一緒にいた雫が、泣いていた。
『女の子なのに、ボクって変だって、おかしいって』
雫が泣いていたのは、女の子には珍しい、ボクという一人称について言われたからだった。
俺は何とか雫に泣き止んでほしくて、自分の思っている事をそのまま告げた。
『全然おかしくないよ。雫はむてきなんだよ』
『むてき?』
『うん、カッコいいもかわいいもどっちも持ってるから、むてきなんだよ』
今思えば、もっとましな言葉がなかったかと思うが、雫は元気を取り戻し、笑って言った。
『じゃあボクがむてきになれたら結婚してくれる?』
『うん。分かった!』
昔の事を思いだし、懐かしく感じる。
そういえば、ベタに結婚の約束なんてしたっけな。
今は通じない、二人だけの約束。
そんなことを考えながら、深い眠りについた。
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