甘えてくる幼馴染み

「いや~、やっぱ樋山さんはかわいいな!悠真」

「うんそうだな」

「ああいう子と付き合いたいよな~」

「うんそうだな」

「……お前それしかいってなくね」


 今は昼休み。昼食も食べてしまい、今は学校での唯一の友達、藤崎 和希(ふじさわ かずき)と談笑している。


 和希とは高校で初めて会ったが、色々と共通点が多く、意外なほどに仲良くなった。


 そんな和希と話している内容は(和希が一方的に話している)、学年一の美少女、樋山 雫のことだった。


「そんなに好きなら話しかけてくれば良いのに」

「そんなことできるわけないだろ~。ほら見てみろよ、周りの人を」


 そう促され、雫の方を見る。周りには常に人が集まっており、また集まっている人たちも、リア充っぽい人種だ。


 この光景を見ると、和希が話しかけることが出来ないという理由も頷ける。


「悠真は好きな人とかいないのか?」

「好きな人……か。特には」

「へぇー、もったいないな」

「そうかよ。じゃあ俺は寝るから、後で起こしてくれ」


 そう言いきり俺は机に突っ伏す。


 昼休みの喧騒を聞きながら、俺は寝ることにした。




____________________________________________




 放課後、俺はまっすぐ家に帰り、部屋でごろごろしていた。


 俺の部屋には雫はいなく、もしかしたら今日は来ないかもしれない。


 そんなことを考えつつ、近くにあった漫画本をとると、俺の部屋の扉が空いた。


「お邪魔しまーす。あ、悠真起きてた」

「さすがにこの時間には寝ないよ」


 もちろん入ってきたのは雫。ここで一人しか思い浮かばない辺り、俺の交遊関係は乏しいということが分かってしまう。


 俺は雫にベッドを譲ろうと、床に座ろうとすると、止められた。


「あ、降りなくて良いよ」

「え?雫、ここに座るだろ?」

「うん、座るよ。けどそこに普通に座ってて」


 俺は雫の要望通り、普通に座る。


 すると、雫はベッドに上り、俺の太ももに頭を乗せる。


 ……つまり、膝枕というものだ。


「……雫?何をしてるんだ」

「膝枕だよ?」

「いやそれは見れば分かるんだけど……」


 さも当たり前かのように言い、気持ち良さそうに寝転がる雫。


 俺の鼓動は早まる一方で聞かれていないかと不安になるが、一旦冷静になり、会話を続ける。


「もう一つお願いして良い?」

「ん?なんだ?」

「頭を撫でてほしい」

「はあ?!」


 いきなり予想だにしない言葉を投げ掛けてきた雫。


 俺は動揺を隠せないまま、呆然としていると、雫の方から理由をしゃべってきた。


「普通に優しく撫でてくれたら良いよ」

「いや、撫でかたが分からないわけじゃないからな?ただ単純に何故?って思ってるだけだから」


 そう言うと、雫はどこか拗ねたように言う。


「昔は撫でてくれたじゃん」

「昔と今は違うからな?」

「いいからは・や・く」


 促されるように、半ば強引に撫でらされる。


 雫の髪はさらさらで、撫でる度に爽やかな匂いが充満する。


「んぅ……」


 撫でられている雫は気持ち良さそうに、身を委ねている。


 だが、撫でている時に思わず綺麗な形をした、耳に触れてしまった。


「ひゃう!」


 色っぽいく、艶っぽい声を出す雫。


 俺はこのままではいけないと思い、雫を起こし、強制ストップをする。


「こ、ここまでな!」

「え~、これで終わり?」

「ま、また今度してやるから。今日のところは終わりな?」

「分かった。ありがとう」


 また今度するという約束をしてしまったが、これくらいなら構わない。


 日も傾き始め、雫は帰ることになった。


「じゃあまた明日」

「ああ、また明日」


 扉が閉まり、そのうち玄関から雫が出ていく音がなった。


 その瞬間俺は直ぐにベッドに横になり、今日と、昨日からの雫の変化を考える。


 仮に、あの日俺の一言で雫が変わったとしよう。


 今まで雫があんなに甘えてくることも、感情を表に出すことも少なかった。


 雫はクールで、可愛いというよりは、カッコいいという言葉が似合う女の子だ。


 雫は言った。昔は撫でてくれたと。


 確かに昔は自分に自信がなく、常に俺の後ろを歩いているような女の子だった。


 しかし、年を取り成長するにつれ、それはどんどん直っていき、今や一人で何でもこなせるくらいになってしまった。


 それは悪いことではなく、むしろ本人の努力が報われて、俺も喜ばしく思う。


 だけど、そんな雫とは対照的に、なにも変われていない自分に嫌気がさした。


 だから俺は、雫に迷惑をかけないように、学校で関わるのを止めた。適切な距離で関わることにした。


 結局それも、自分が傷つきたくないだけの、臆病者でしかない。


 だから、本来俺が雫と関わっていること自体もおこがましいのだ。


 いつか、自分に自信を持つことが出来たなら、変わることが出来たなら、俺も昔のように接することが出来るのだろうか。


 そんな希望的観測を掲げながら、俺は一眠りしようと、ベッドに身を預けた。




____________________________________________




 夢を見た。幼き頃の記憶。


『ぐすっ、ぐすっ』

『どうした、雫』


 いつも一緒にいた雫が、泣いていた。


『女の子なのに、ボクって変だって、おかしいって』


 雫が泣いていたのは、女の子には珍しい、ボクという一人称について言われたからだった。


 俺は何とか雫に泣き止んでほしくて、自分の思っている事をそのまま告げた。


『全然おかしくないよ。雫はむてきなんだよ』

『むてき?』

『うん、カッコいいもかわいいもどっちも持ってるから、むてきなんだよ』


 今思えば、もっとましな言葉がなかったかと思うが、雫は元気を取り戻し、笑って言った。


『じゃあボクがむてきになれたら結婚してくれる?』

『うん。分かった!』

 

 昔の事を思いだし、懐かしく感じる。


 そういえば、ベタに結婚の約束なんてしたっけな。


 今は通じない、二人だけの約束。


 そんなことを考えながら、深い眠りについた。


 

 


 


 

 




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