第4話:崇徳天皇、意外と優しい一面を持つ

さっちゃんのお酒騒動があってから2日後の平日。朝いつも通りに身支度をしてリビングへと向かう。


「あ、おはようございます、祐介さん。朝食の用意できてますよ」

「ああ、ありがとう、玉藻・・・・いただきます」


白ご飯に味噌汁、鮭にサラダとバランスの良いメニューになっている。しっかりした朝食を食べるのは、玉藻に作ってもらうようになるまでほとんど無かったから、一週間近く経った今でもかなり新鮮に感じる。しかも超うまい。


「そういえば、平日俺がいない時って、みんな何して過ごしてんの?」

「むっ?そうだな・・・それぞれ思い思いに過ごしているが、我はげーむやぱそこん、けいたいなんかを使って今の最新技術とやらを学んでいる」

「・・・ほんと順応するの速いよな、今じゃ俺より詳しかったりして」

「ふっ、貴様程度に後れを取るほど、軟弱ではないぞ」

「なんか無性に腹が立つんだが・・・。さっちゃんは?」

「ウチは外出してるわよぉ、主にお酒の物色かしらぁ。最近は新潟の○○山が気になってるんだけどぉ」

「あ、うん。ほんと好きだねお酒。玉藻は?」

「はい、主に掃除洗濯に料理、あとはお買い物でしょうか」

「・・・あれ、スウさんとさっちゃんは?」

「もちろんやっている・・・のだが、我らが何か一つやっている間に、玉藻が他のことをほとんど終わらせてしまってな。やれることがなくなるのだ」

「玉藻は容量が良いからねぇ」

「そんなことありませんよ、十分助かってますよ、二人とも」


笑顔でそう言う玉藻。けど確かに玉藻は何でも完璧にこなすからなぁ。弱点とか無いんだろうか。


「玉藻がそれでいいならっていうか、負担にならないならいいけど。当番決めた意味、無くなったな」

「だが玉藻が基本家事全般をこなし、我らが手伝えることは手伝う。このやり方の方が速く終わるのも確かだ」

「玉藻がいいならぁ、そうするぅ?」

「はい、全然かまいませんよ。私、他に趣味とかやることなんてありませんし、強いて言うなら家事がそうですから」

「ん、じゃあ任せるよ。俺も手伝えることはなんでもやるからさ」

「ふふ、ありがとうございます、祐介さん」


そうこう話しているうちに登校する時間となっていた。


「おっと、もう行かないと。じゃあ後のことよろしくな、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」


見送ってくれた玉藻を背に、俺は学校へ向かうのだった。




「さて、それでは我も出かけてくるか」

「あら、どこへ行くのぉ」

「ちと○○バシへな、色々気になっている電化製品があるのだ」

「あ、でしたらスウ、ついでにお砂糖を買ってきてくれませんか?」

「うむ、任せるがいい」


そう言って我は外出した。


赤い石から解放され、小僧から現代知識を得たとき、真っ先にその技術に興味を持った。なにせ昔にはなかったものばかりなのだ。しかもどれも利便性を図った素晴らしいものだ。それらに関することなら何でも知りたい。


我は昔から知識欲があった。何でも気になるものは徹底的に調べ上げる。そうして得た知識は数知れない。まあそのせいで我は石にされたのだがな。まあそんなことは今やどうでもよい。こうしてあやつに解放してもらったのだから。



10分ほど歩くと目的地に着く。店の中へ入り、さっそく電化製品を見て回る。まあ先ほどさっちゃんには気になっていると言いはしたが、別に買うわけではなく、あくまでどういったものがどういう意図で使われるのか、それを知りたいのだ。ねっとで済ませられることもあるらしいが、それは何とも味気ない。


「っと、これは・・・せんぷうき?・・・ふむ、自分で扇がずとも風を送るのか、何と便利な」

「むむ、これはえあこん? これも風を送るのか。しかも夏は涼しく冬は暖かく?二面性があるとはやるな」


自分の知らない未知のものがあることを楽しみ、2,3時間ほどで我は満足して帰宅することにした。


「そういえば、玉藻に砂糖を買ってくるよう言われていたな」


玉藻からの言伝を思い出し、すーぱーに寄ることに。


「ふむ・・・・お、これだな。さて、目的のものを見つけたし、後は買って帰るだけ・・・・・むっ?」


ふと、お酒売り場が目に移り、そういえばと思う。


「さっちゃんが飲みたがっていたのは・・・これか。ふふ、買ってやるとするか」


以前さっちゃんと買い物に来た時、彼女が物欲しそうに見ていた酒を思い出し、買ってやることにした。しかしそうなるとさっちゃんにだけというのもな。玉藻にもなにか買ってやるとしよう。


「しかし、何が良いか・・・あ、そういえば昨日タッパが欲しいと言っていたな。これを買ってやろう」


そう決めてタッパをかごに入れる。さて、後は小僧の分だが、あやつは何が好みだろうか。そもそも、我はまだ小僧のことをほとんど知らないな。赤い石から解放されたときに得た情報に、小僧に関することはほとんど無かったか。・・・うむ、帰ったら色々聞いてやろう。


そんなことを考えながら歩いていると、デザートコーナーにたどり着く。


「おお、これは新作のぷりんとやらか・・・そういえば、2日ほど前に小僧が美味そうにでざーとを食していたな。これにしよう」


そうして買い物を済ませて、我は帰宅するのだった。




その日の授業が終了し、真っ直ぐ帰宅することにした俺は、ふと自分が家に帰ることを楽しみにしていることに気が付いた。


「まあ、理由はなんとなくわかるが」


最初の頃は億劫だったが、今はみんながなんだかんだ優しいことを知っているし、退屈せずに済むのだ。ずっと一人だったことに不満があるわけではなかったが、やはり誰かと一緒の方が楽しいのかもしれない。


そう思いつつ家に着いた俺は、玄関を開けて中へと入る。


「ただいまー」

「お帰りなさい、祐介さん」

「あらぁ、おかえりぃ坊や」

「うむ、帰ったか、今日もご苦労だった」


・・・おや、スウさんが俺を労うなんて珍しい、というか初めてか?


「スウさん、何かいいことでもあった?」

「むっ?なぜだ」

「なんか機嫌良さそうに見えるけど」

「ふむ、まあ少しな、それより」


スウさんは冷蔵庫から何かを取り出し、俺に差し出す。


「これは、新作のプリン!え、これどうしたの?」

「どうしたも何も、小僧に買ってきてやったのだ。感謝するんだな」


そう言って自慢げに胸を張るスウさん。・・・・ほんとに珍しいな、明日は槍でも振るのか?


「・・・何か失礼なことを考えてるな?」

「い、いやそんなことないって。それより、ありがとうな」

「けどほんと珍しいですよね、スウが私たちにプレゼントなんて」

「ふふ、こう見えて意外と優しいところがあるのよねぇ、スウは」

「・・・ふん、別にそういうのではないわ」


と、照れたようにそっぽを向くスウさん。あれ、なんか可愛く見える。いや元から美人さんだけど。


「・・・ほ、ほれ、それより玉藻、速く夕飯の支度をせんか。我は腹が空いたぞ」

「ふふっ、はいはい、もうすぐできますから。祐介さんも手を洗って着替えてきてくださいね」

「ああ、わかったよ」

「玉藻ぉ、お酒出してくれるぅ?」

「もう、さっちゃん、お酒は食事の後にしてください!」

「ケチやなぁ」



俺たちは夕飯を食べながら、その日あった出来事をそれぞれ話し合う。みんなほんとに思い思いに過ごしているみたいだ。スウさんがそこまで現代技術に興味を持っているのは意外だった。ついでに優しい一面があることも。


・・・・うん、やっぱり俺、今の生活を少し気に入ってるんだろうな。こんななんてことない時間が楽しいと感じるし。



「・・・そろ~り」

「あ、こらさっちゃん!お酒は後でって言ったじゃないですか!」

「えぇ~、いいじゃない後でも先でも変わりはないわよぉ」

「飲みすぎなんです!この間極力抑えるって誓ったんじゃなかったんですか!」

「くふふ、まあ少しくらい良いではないか」

「よくありません!だいだいですね・・・・」


と玉藻のお説教タイムが始まった。というか前言撤回、スウさんのあれは優しいのではなく、ただ甘いだけだった。

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