第3話:酒呑童子の教訓、お酒はほどほどに

妖怪三人がうちに住むようになってから早一週間が経過した。皆がいる生活も安定しつつあり、今のところ他人にバレて大騒ぎ、何てこともなく、至って平和な日々だった。


日曜日の今日もいつも通りに過ごしていると、昼間からお酒を飲んでいるさっちゃんが目に映った。


「そういえばさっちゃん、気づくと常にお酒飲んでるよな。酔ったりしないのか?」

「ふふ、ウチはお酒で酔ったこと、一度もないわよぉ」

「こやつは昔からの酒豪でな、その手の腕自慢と何度も飲み比べをしておったが、負けたことも一度も無いのだ」

「へぇ、すごいんだな」

「別に自慢できることでもないけどねぇ」


そういってまたお酒を口にする。本当に好きなんだな。


「けどそんな好きなら、この時代のお酒もいろいろ試したらいいんじゃない?」

「うーん、そうしたいけどぉ、ウチこの見た目だからぁ、お店では買えないのよぉ」

「あ~、そっか」


さっちゃんは見た目12,3歳くらいだし、さすがに子供相手にお酒売るお店なんてないしな。


「ん?けどそれなら今飲んでるそれはどうしたのさ」

「あぁ、これはあそこの戸棚の中にあったのよぉ。勝手に飲ませてもらってるわぁ」

「あ、そう」


いつの間に、というかそんなお酒あったのか、気づかなかった。


「でもあそこのお酒ももう無くなりそうだしぃ、どうしたものかしらぁ」

「うーん、なら玉藻かスウさんが買うとか?見た目は20前後で十分通るし」

「ふむ、構わぬが、”みぶんしょう”とやらを提示するよう求められたらどうする気だ」

「・・・そうか、それもあったな」


当然だが彼女たちに身分証はない。作ろうにも完全に偽名を使わないといけないし、バレたときのリスクを考えれば作らないほうがいいかもしれない。だがこういう時にやはり困ってしまうのだ。


「・・・いっそ禁酒するとか」

「坊やはウチを殺す気ぃ?」

「そんな大袈裟な」

「それくらいウチにとってお酒は大事ってことぉ」

「そっか~」


どうしたものか考えていると、そこへ玉藻がやってきた。


「どうしたのですか?」

「ああ、玉藻、お酒を買うにはどうしたらいいか考えてたんだ」

「お酒・・・ですか。それならお店で買えばよいのでは」


と言った玉藻にも先ほどの会話の内容を話した。


「なるほど、確かにそうですね。さっちゃんにお酒無しの生活はきついですし」

「うむ、ゆえにどうしたものか考えてたのだが・・・なかなか思いつかなくてな」

「・・・・・それでしたら、ネット通販で買うのはどうでしょう。それでしたら身分証の提示は求められませんし」

「あ、そっかそれがあった。ナイスだ玉藻!」

「ふふ、ありがとうございます」


すっかり忘れていた。というか玉藻、ネット通販のこと知ってたのか。ちょっと意外だ。


「ねっとつうはん?なぁにぃ、それぇ」

「ふむ、どこかで聞いたような気はするが・・・小僧、教えろ」

「ああうん、簡単に言うとお店に行かなくても買い物ができるんだ」


そう言って携帯を取り出し、通販サイトを開いてさっちゃんとスウさんに見せる。


「インターネットを使って、こういう通販サイトを開くんだ。んで、こん中から自分の買いたい商品を選んで・・・・こうすると、この商品を買えるってわけ」

「「おお~~」」


実際に操作しながら説明すると、二人は感嘆の声を上げる。


「ふむふむ、理解した。しかし、これは凄いな!かなり便利な技術ではないか!」

「えぇ、いい時代になったわねぇ」

「はは、まあ皆からしたらそうだろうな」


二人、特にスウさんはゲーム機にも興味を持ってたし、もしかしたらこういう現代の技術そのものに興味を惹かれるんだろうな。


「しかし玉藻、なぜネット通販のことを知っていたのだ?」

「ああ、以前テレビでそういった話題があったのを見たので、そこで知っただけですよ」

「なるほどな。・・・いずれにせよ、これで問題は解決だな、小僧」

「ああ。それでさっちゃん、さっそく注文しておくか?」


そう聞きながらさっちゃんに携帯を渡そうとするが、さっちゃんはどこか難しい顔をした。


「・・・うん?どうした?」

「ウチ、そのけいたいの使い方知らないのよぉ」

「あ、そっか。じゃあ教えるから、やりながら覚えよう」

「ふふ、ありがとう。お願いするわぁ」


そうして俺はさっちゃんに携帯の使い方を教えながら、お酒を注文しようとする。さっちゃんも結構物覚えが良く、ものの30分ですんなり使えるようになった・・・・のはいいんだが。


「あの、さっちゃん?」

「なにかしらぁ」

「・・・・・これはいくらなんでも頼みすぎでは」

「そう?これくらい普通よぉ」

「いや明らかに多すぎるって・・・・一度に瓶100本は」

「けどぉ、何度も頼むのは面倒じゃなぁい?」

「いやだとしても、せめて・・・30本にしてくれ。お金的な意味でも」

「・・・仕方ないわねぇ」


渋々といった様子で本数を減らすさっちゃん。正直かなりホッとした。なんせ100本選択したときの金額がマジでデカすぎたから。ウン十万以上だった。冷や汗掻いたわ。


「そしたらこれを押して、買い物完了だ」

「へぇ、ほんと便利ねぇ。それでこれはいつ届くのかしらぁ」

「えーっと、ここに書いてあるんだけど・・・・一週間後だな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「だから、一周間後に届くって」

「・・・・・・・いっしゅうかんご?そんなに待たなくてはならないの?」

「これでも速い方だと思うけどな。遅いときは二週間とかそれ以上の時もあるし」

「―――――――――――――」


そこまで言ったところでさっちゃんがついに固まった。それを見たスウさんが俺に聞いてきた。


「ああ~~、小僧、酒はあとどれくらい残ってる?」

「え?えっと・・・・・2本だな」

「・・・・・小僧、その発送とやらはもっと速められんのか」

「ううん、多分無理かな」


そう言うと玉藻が少し体を震わせながら言った。


「・・・あの、なんでしたら、やっぱり私がイチかバチかお店に行ってきますよ、大至急」

「え?けどさっき・・・」

「いや、玉藻、行ってきてくれ、頼んだぞ」

「はい!行ってまいります!」


玉藻は脱兎のごとく家を飛び出した。


「・・・なあ、なんで玉藻はあんなに焦ってたんだ?」

「そうか・・・小僧は初めてか。さっちゃんはな、酒がないと生きていけないのだ」

「いやそれ、さっきも聞いたけど・・・・え、なんかこう、趣味的な話ではなくて、本当に?」

「うむ、文字通り生きていけない。いや、妖に生きるという言葉が適切かは分からぬが、とにかく、無くてはならない存在なのだ」

「そ、そんなに重い感じの話だったのか。だからさっちゃんは固まったり、玉藻もあんな焦ったりしてたんだな」

「ああ。だが玉藻のあれはそれだけではないのだ」

「うん?というと?」


スウさんは一度目を閉じ、何かを思い出すようにしながら話し始める。


「うむ、あれはまだ我らが生きていた時代の話だが、ある日今と同じようにさっちゃんの酒が無くなったことがあってな。それでもさっちゃんが酒を要求したのだが、当然すぐには用意できるわけもなく、そのことを侍女が説明しようとしたとき、さっちゃんが突然暴れだしてな」

「あ、暴れ・・・?さっちゃんが?」


想像できないのだが。こんなおっとりした性格のさっちゃんが暴れている姿など。


「まあ無理もない、我らもその時は想像できなかった。あのさっちゃんがこれほど大暴れするなど」

「えっと、それでどうなったの」

「・・・その町が半壊したのだ」

「・・・・・は?」

「半壊したのだ、町が」

「まじかよ」

「まじだ」

「・・・そんな事ありえるの?というかそんな力持ってるの?もしかして今も?」

「ありえるし、持っておるし、今もだ」


到底信じられない話だが、今じゃ妖なんて存在になってることも加味すれば、ありえなくもないのか。


「ってことはまさか・・・」

「うむ、今のさっちゃんをそのままにしておけば、またあの日が再現されるであろうな」

「玉藻~~~~!!! はよ買ってきて~~~~~!!!!」


全速でお酒を買いに行った玉藻に、俺は全力で叫ぶのだった。




その日の夜、玉藻は無事にお酒を買えた。さっちゃんは満足そうにしながらお酒を飲んでいた。よかった、町が半壊するようなことにならなくて。


「んっ・・・んっ・・・ぷふぅ。やっぱりお酒は美味しいわねぇ」

「・・・はは、それはなにより」

「けどぉ、ウチも気を付けないといけないわねぇ」

「ん?なんのこと?」

「さっきの話、町を半壊させてしまったことぉ」

「あ、聞いてたんだ」

「えぇ・・・・ウチもあれ以来反省したのよぉ、死人こそ奇跡的に出なかったもののぉ、人が汗水垂らして築いてきた町を壊してしまったわけだしぃ。何とかお酒無しでも耐えられるようにしないとって思ってぇ」

「へぇ、そんで?」

「一度お酒無しで一日我慢しようとしたんだけど、欲求と力が暴走しそうになってダメだったのよぉ」

「一日も耐えられないのか・・・もうそれ依存症のレベル超えてないか」


いわゆるアルコール中毒、最近ではアル中とか言われてるっけ。何にしてもそのレベルはとうの昔に超えてるわけね。さっちゃんマジパネェっす。


「けどどのみちお酒無いと生きていけないってのも事実なんだろ?ならかえって無理に止めないほうがいいんじゃないか?」

「・・・そうねぇ、けどあまり買いすぎては坊やにも負担が掛かるしぃ、お酒はほどほどにしたいわねぇ」

「さっちゃん・・・」


なんだかんだでそのことも気にしてたんだな。。さっちゃんっておっとりしてて、性格も掴みどころがない感じがするけど、これで結構優しいとこあるし、気遣いもできるんだな。俺の中でさっちゃんの好感度が上がった。

・・・んだが、どうやらそれを聞いていた玉藻とスウさんは違ったらしい。


「貴様・・・そういう気遣いはあの日以降からして欲しかったのだが?」

「・・・そうですね。あの日もそれ以降も、私たちがそれだけ苦労したことか」

「けどぉ、それを言ったら二人もだしぃ、お互い様かなぁって」

「仮にそうだとしても、町を半壊させた貴様と同等なわけがなかろうがたわけめ!!」

「そうですよ!! さっちゃんはもう少し私たちに優しくしてください!!」

「もう、面倒ねぇ」


激怒した二人にさっちゃんはどこ吹く風。きっと昔から三人はこんな感じだったんだろうな。


そんなことを思いながら、俺は三人の言い争いを眺めていた。

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