第2話:玉藻前、かなりの世話好き

それは、酒呑童子、玉藻前、崇徳天皇がうちに住むことのなった、次の日の土曜日のこと。


「ところで、みんなのことこれから何て呼べばいいんだ?」

「・・・?どういうことですか?」

「いやほら、仮に外でみんなのこと呼ぶとき、そのままの名前だと変に思われるだろ」

「むっ・・・貴様、我らの名を愚弄するというのか」

「傷ついたわぁ」

「あ、いやごめん、そうじゃなくてだな」


確かに普通に聞けば三人に対して失礼だったな。反省しないと。


「くくっ、わかっておる。現代の情報は貴様から得たと言ったろう。・・・そうだな、なら貴様には特別に、我らが互いに呼び合っている愛称で呼ぶことを許可しよう」

「愛称?」

「はい、では私のことは”玉藻”とお呼びください。・・・まぁ愛称といってもそのままですが」

「ウチは”さっちゃん”と呼ばれてるから、そう呼んでねぇ」

「そして我のことは”スウ”と呼ぶがいい」

「わかった、玉藻にさっちゃんにスウ・・・さん、だな」

「なぜ我だけさん付けなのか・・・まぁよいが」


いやだって、スウさんはエラそうな態度と口調だから、というか完全に高貴な人だったわけだし。


「それじゃあ呼び方はこれでいいとして、次は皆の生活用品だよな。買い物に行かないとなんだが・・・」

「何か問題でもあるのか」

「うーん、スウさんはまぁ服さえどうにかすればいいとして、玉藻とさっちゃんの尻尾なり耳なりは何とかならないのか?」


そう、玉藻には九本の尻尾ときつね耳、さっちゃんには短いが角がある。これらをそのままにして外出なんてしたら不必要に注目を集めてしまう。どうしたものか考えていると。


「ああ、それでしたら隠せますよ?・・・ほら」

「・・・・・・・え、どうなってんの、それ」


パッと消えてしまった尻尾と耳に驚いた。まじでどうなってんの。


「そりゃぁ、妖やからねぇ。・・・それぇ」


やはりおっとりした掛け声でさっちゃんも角を消した。・・・・なんでも妖だからって通す気じゃないよな。


「もう何が何だか」

「これで貴様の危惧していたことは免れるのだから、いちいち文句を言うでない。それより、服はどうする気だ」

「うーん、玉藻とスウさんは母さんの服でどうにかなると思うけど、さっちゃんには俺の小さいころの服を着てもらうしかないかなー」

「まぁ、ウチはそれでええよぉ」

「じゃあ決まりだな。今持ってくるから、ちょっと待っててくれ」

「あ、私もお手伝いします」


玉藻と母さんの部屋に向かい、服を漁っていると、玉藻がそういえばと聞いてきた。


「ご両親はどちらに?・・・朝は見かけませんでしたが」

「あれ、それも石から出てきたときに知ったんじゃないの?」

「その時に得た情報は、今のこの日本の一般的と言われる知識と祐介さんご自身の断片的な情報だけですから。その中にご両親の情報までは含まれていませんでしたので」

「ふーん、そうなのか。・・・二人ともうちにはいないよ。海外に仲良く転勤してるからね」

「そうでしたか、では今までこの家に一人で?」

「ああ、まぁそれも、昨日までの話だが」

「・・・・・・・」


ふと、玉藻の手が止まったのを見てそちらを向くと、少し困ったような、不安そうな顔で聞いてきた。


「あの、昨日も聞きましたけど、やっぱり迷惑ではないですか?いきなり押し掛けるような形になってますし」

「・・・ああ、そのこと。それなら別に良いって言っただろ」

「ですが・・・」

「いいって。ほかに行く当てもないやつらを追い出したりなんてしたら、それこそ呪われそうだし」


安心させるべく、笑いながらそう言った。それを見た玉藻もホッとしたのか笑ってくれた。可愛い・・・ではなく。


「それなら、良かったです。・・・あの、改めて、よろしくお願いしますね、祐介さん」

「ああ、よろしく」



母さんの服と俺の服を取り出した後皆に渡し、着替えてもらった後、さっそく買い物へ行くことになった。

大きなショッピングモールの中へ入るなり、スウさんがこちらを向いて聞いてきた。


「して、買う物は決まっておるのか?」

「ああ、ひとまず今日は服に小物系の日用品は買うとして、あとは各自欲しいものがあったらってとこかな」

「あ、でしたら私、新しいフライパンが欲しいです。昨日見たらだいぶ使われていて、もう汚れが落ちなくなってましたので」

「わかった。他にはあるか」

「ならば我はあれがやってみたいぞ」


そういって指さした先にあったのは、ゲームコーナーだった。


「ゲームに興味あるのか」

「うむ、画面の中で人が動くやつであろう?どういう原理なのか知りたいのだ」

「うーん、まあ買えなくもないが、うちにもあるぞ?」

「貴様の持つげーむとはひと昔まえのものであろう。我が興味を持つのは最新の技術だ」


なぜ俺より大昔に生きたやつが、俺より最新の技術に興味を持つのか。・・・いや、だからこそなのか。


「・・・わかった。けどソフトは一つにしてくれよ、今日はそこまで持ち合わせないんだから」

「わかっておる。では先に・・・」

「先に日用品だ。ほら行くぞ」

「あ、こら、引っ張るなバカ者ー!」


そんなこんな必要なものを順調に買い揃えていく・・・のだが、途中で問題が発生した。というのも。


「いや待て、さすがに俺はここには入れないぞ」

「あらぁ、どうしてぇ?」

「いやだってここ・・・・・女性用の下着売り場じゃねぇか!!」

「だが我らに現代の下着の知識は皆無だぞ」


そう、三人は下着が今着ている一着しかないと言い出したため、急遽買いに行くことになったのだが、問題は今スウさんが言った通り。だから、と俺を下着売り場に入れようとしているのだ。


「いやだから店員に聞けばいいんだって!俺が入る必要ないから!」

「ですがその、お金を支払う際も、今の私たちでは・・・」

「どうしてその辺の情報は得られなかったのか・・・」


本当に不思議だった。


「・・・・・くそ、腹を括るしかないのか」

「ふん、諦めてさっさと入るがいい」

「ついでにどういう下着がいいか選んでくれるとうれしいわぁ」

「お前たちはもう少し恥じらいを持て」


言いながら結局入ることに。うう、周りの視線がめっちゃ気になる。速く済ませてとっとと出よう。


「とは言うものの、やっぱ俺じゃ女性用の下着の良し悪しなんてわかんねぇから、店員に聞くのが一番だぞ」

「そうですね、では祐介さん、ここで待ってていただけますか」

「ああ、わかったから、速くしてくれ・・・」


なんとも居た堪れない気持ちになりながらも、その場で待つことに。しばらくすると何やらこの色がどうとかこのサイズがどうとか聞こえてくる。思わず耳を塞いだ。変な想像をしてしまいそうになるのを必死にこらえた。


「・・・貴様、何をやっておるのだ」

「・・・何でもない。それよりまだか」

「うむ、それなのだが」


そこで区切り、何かを胸のあたりに掲げて、俺に見せてきた。・・・まあ当然、ブラだった。ピンクの。


「ボフゥッ!!?? ちょ、何してんだ!?」

「何って、貴様に見てもらおうと思ってな。どうだ、中々かわいいと思うのだが」

「だから俺に聞かれても」

「貴様の素直な感想を聞いているのだ、バカ者」


いやそれも聞かれてもなお困るのだが。


「・・・・まあ、その、いいんじゃないか」

「なんともつまらん感想だが、まあよい。うむ、これにするぞ」


よほど気に入ったのか、嬉しそうな顔をしながら、店員に「これをもう2,3着くれ」といって去っていった。まったく、心臓に悪いったら。


そう思っていると、今度はさっちゃんがやってきた。


「どうした、さっちゃん」

「えぇ、坊やに意見を聞こう思ってなぁ」


・・・なんか嫌な予感しかしないが。さっちゃんが取り出したのはきれいな薄い黄緑色っぽい下着だった。やっぱり。


「これにしようと思ってるんだけどぉ、どうやろぉ」

「・・・ああ、うん。いいと思う」

「そうでしょぉ、じゃぁこれにするわぁ」


ご満悦なようでなによりです。俺はもう諦めます。考えることを。


その後もこれはどうだ、あれはどうだと二人はもはやカラかい交じりに聞いてきていた。正直かなり疲れた。そういえば、玉藻は一度も聞いてこなかったっけ。まあそれならそれで助かるんだけど。



時間はあっという間に過ぎていき、気付けばもう夕方になっていた。


「そろそろ帰るか」

「そうですね、夕飯の準備もしなくてはなりませんし」

「・・・そういや、今日も玉藻が作ってくれるのか?」

「いけませんでしたか?」

「いや、むしろありがたいけど。毎日は大変だから、当番制にするなりしても」

「ふふ、お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫です、好きでやっていることなので」

「うーん・・・・じゃあお願いしていいか?」

「はい!お任せください!」


気合を入れて両手を胸の前で握る玉藻。うん、やっぱこの人可愛いな・・・じゃなくて。


「なら、それ以外の家事については当番制にしよう。みんな均等にやった方がいいだろうし・・・・・・と思ったけど、玉藻はいいとして、さっちゃんとスウさんって家事出来るのか?」

「むっ、舐めるでないぞ小僧、それくらいの常識は得ているからな」

「えぇ、問題ないわぁ」

「そうなんだ、じゃあその辺は帰ったら決めるか」



帰宅してすぐ玉藻が料理に取り掛かった。彼女の後姿を見ながらふと気になることを正面の二人に聞いた。


「そういえば昨日も、帰ったら家の中掃除されててめっちゃきれいになってたけど、あれも玉藻が?」

「うむ、貴様が帰ってくるからきれいにしておかないと、といって家に入るなり掃除を始めていたな」

「そうだったのか、なんだか申し訳ないな」

「気にしなくてもいいわよぉ。あれはかなりの世話好きだからぁ」

「世話好き?」

「昔もよく我らの世話をしてくれていたな、おかげでかなり助かった」

「まぁそんな訳だからぁ、むしろ好きにさせるのがいいわよぉ」

「なるほどね、わかったよ」


まあ手伝えることは手伝えばいいか。そう納得して再び視線を玉藻に戻す。




(まぁ、今の玉藻の様子を見る限り、それだけではなさそうだが・・・小僧には内緒にしておくか、面白そうだし)


崇徳天皇はそう思い、新しく買ったゲームを起動するのだった。

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