うち、元は普通の家だったんです

高町 凪

第1話:俺、木霊祐介の家事情

どうもみなさんこんにちは。俺は木霊祐介こだまゆうすけ、16歳の高校二年生です。成績普通、運動神経普通、普通の性格に普通の家を持つ、まぁいわゆるどこにでもいそうな人間です。


さて、なぜ冒頭からこんな話をしているかというと、理由は#家__うち__#にあるのだが、順を追って今日一日の出来事を話していこうと思う。



――4月1日。

少し田舎寄りなこの○○町のとある団地に俺の家がある。両親は海外に転勤しており、今はこの家に一人暮らし。

今日もいつも通りに朝起きて、いつも通りの朝食を取り、身支度をして登校する。

学校につけばそこそこ仲のいいクラスメイトたちと話し合ったり、退屈な授業を受けたり、放課後は特に部活に所属してるわけでもないので早々に帰宅したり。

本当になんてことない、つまらない日々だ。そんなことを思っていた。


(今日も相変わらずな一日か・・・)


そう心の中でつぶやいた直後、ふと通りがかった道の端に、仏像のようなものがあり、その下にはお供え物なのか分からないが、赤い石が置いてあった。


「なんだ、この石、赤い色なんて見たことないが」


言いながら近づき、特に深く考えずにその石に触れた――瞬間、カッと赤く強い光を放った。


「うわっ!! なんだ!?」


思わず腕で目を隠した。しばらくすると光が消えていくのを感じて目を開け、再度同じ場所を見てみると。


「え。・・・石が、無くなってる?」


なんと赤い石が無くなっていたのだ。慌てて周囲を見渡すが、どこにも見当たらなかった。


「・・・・・・これ、やらかした?」


祟られたりしないよな、なんて思いながらも、俺は早々にその場を立ち去ることにした。あの赤い石といい、光といい、なんだか気味が悪かったが、気にしすぎても仕方ないと強引に割り切って速足で家に帰る。玄関の扉を開けて家の中に入ると、リビングの電気がついていた。


「あれ、朝つけてたっけ?」


不思議に思いながらもリビングに近づくと、何やらいい匂いが漂ってきた。


「これ、シチューか?・・・でもなんで? 作り置きなんてしてないけど」


さらに不思議に思いリビングのドアを開ける。すると中には――。


「おやぁ、帰ってきたわね、坊や」

「ふん、ずいぶん待たせるではないか、小僧」

「あ、お帰りなさい、祐介さん。晩御飯今用意してますので、先に着替えてきちゃってくださいね!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


中には知らない美少女三人が我が家のように寛いでいた。まぁ一人は料理しているが。というかあれケモミミ?

あっちは小さいけど角っぽいの生えてる? なんでこの子はこんなエラそうなの?


あれこれ考えながら固まっている俺に、何やらエラそうな美少女が再度話しかけてきた。


「おい小僧、聞いているのか」

「・・・・・・・・・・・はっ。あ、えっと、どちら様で?」


ようやく我に返った俺にエラそうな美少女が話を進める。


「ふん、はよう返事せい、知れ者が・・・というか我を知らぬというのか貴様」

「知るわきゃないでしょ」


初対面の人相手に何を言ってるんだと思った。


「まったく・・・まぁよい。よく聞け、我は崇徳天皇すとくてんのう。現代で言えば”あやかし”というものに当たるな。そして我の前で酒を飲んでいる女が・・・」

酒呑童子しゅてんどうじよ、よろしくね、坊や」

「は、はぁ。よろしく」


坊やて。というかこの子、まだ子供なのにお酒飲んでる。止めたほうがいいだろうか。


「そして今厨房に立っている女が玉藻前たまものまえだ」

「よろしくお願いしますね、祐介さん」

「あ、はい・・・・・・じゃなくて!!!」


普通に自己紹介をしてくる彼女たちに思わずツッコミ、気になっていることを全部聞き出そうとする。


「なんで勝手に入ってんだよ!? つーか名前は分かったけどあんたらどっから来たんだよ!? ていうかその耳とか角とかはなんだよ本物か!? 後、酒呑童子とやらは未成年だろ、お酒のんでんじゃねぇ!!!」


一気に捲し立てた俺は、ぜぇっはぁっと息を切らしながら三人を睨む。しかし彼女たちはどこ吹く風といった感じであった。玉藻前さんは「お水です」と差し出してくれたが。この人優しい。


「やれやれ、質問は一度に一つと習わなかったのか、小僧」

「ふふ、お疲れみたいねぇ・・・お酒飲む?」

「飲むかっ!!」



玉藻前にもらった水を飲み干し、落ち着いたところで崇徳天皇が口を開く。


「さて、小僧の質問じゃが、まず我らがなぜここにおるかじゃが、小僧貴様、仏像のそばにあった赤い石に触れただろう」

「・・・っ!? な、なんでそれを。見てたのか」

「見ておらん。・・・いや見ていたとも言えなくもないが。要するに、我らはあの赤い石の中に居ったのだ。それも長い年月な」

「・・・・・・・・はい?」


言っている意味を理解できなかった。あの石の中に? この人たちが入っていた? なにを言ってるんだ?


「貴様の脳は飾りか? だから、我らはあの石の中から出てきたのだ、貴様が石に触れ、光を放った瞬間な」

「・・・まじか」

「まじよぉ」


それまで黙っていた酒呑童子がおっとりした声で肯定した。つまりなにか、こいつらが出てきた原因は俺にあると?


「・・・で、なんでうちに」

「貴様が触れた瞬間、貴様という人間の情報が我らの中に入ってきたからだ。その情報の中に貴様の家の場所も含まれていたからな」

「な、なるほど」

「そして我らに行く当てなどないため、貴様の家に仕方なく住むことにした、というわけだ。理解したか、小僧」

「ああ、なんとなく・・・って、え、今なんて。うちに住むって言ったか?」

「うむ、言ったな」

「・・・・まじ?」

「まじよぉ」


再びおっとりした声で肯定する酒呑童子。案外面白い人なのかもしれない。


「・・・ふぅ、うちに住むかどうかはひとまず置こう。じゃあ次に、酒呑童子の玉藻前さんのその頭に生えてる? のは一体」

「ですから祐介さん、私たちは酒呑童子と玉藻前という妖ですので、生えていても不思議ではありませんよ?」

「そうよぉ、だからウチはこうして、お酒も飲めるってわけ」

「な、なるほど」


妖、妖かぁ。ほんとに実在するんだな。・・・うん?そういえば三人の名前って結構有名な名前では。そう思い携帯で調べてみることに。

そしてわかったことを簡単にまとめるとこうだ。


酒呑童子・・・姫様攫うやばいやつ。酒好き。

玉藻前・・・化け狐(九尾)。呪う。

崇徳天皇・・・後継者争いの末流刑。呪う。


・・・・・・・・うん、ひとまず俺から言えることはただ一つ。


「こいつらやべえ」


しかも日本三大妖怪ではなく、日本三大妖怪である。まじでやばい連中だった。


「理解したか小僧」

「あ、うん。とりあえずは」

「それで祐介さん、私たちが祐介さんの家に住むというお話はいかがでしょうか・・・やはりお嫌ですか」

「う、それは」


正直なところイヤだ。いきなり過ぎて困惑気味なのもそうだが、なによりこんな癖の強い、しかも生前悪いことをしていたとされる妖怪と同居だなんて、とても耐えられる気がしない。

しかし――――。


「うち以外に、行く当ては無いんだよな」

「そう言っておろう」

「・・・・はぁ。わかった、うちに住むのは良しとする」

「あ、ありがとうございます! 祐介さん!」

「ただし! 住むからにはルールをきっちり守ってもらうからな、これは絶対だ」

「るーる? 何かしらぁ」


俺は三本指を立てて告げた。


「一つ、家事は全員が担当して行うこと。二つ、三人の正体を他所の人には口外しないこと。三つ、俺が通う学校には来ないこと。以上だ」

「ふむ、二つ目までは良いが、三つ目のそれはなぜだ」

「お前たちが俺の知り合いだと知ったら目立つだろうが」

「なぜだ」

「なぜって、そりゃ・・・」


三人はベクトルこそ違うが揃って美少女なのだ。まあ玉藻前と崇徳天皇は20前後の女性って言った方がいいだろうが。しかしそれを素直に言うのもなんだか恥ずかしい。


「こほん、とにかく今の三つを守ってくれるなら、うちに住んでもいい」

「まぁ難しいことでもなさそうだし、ウチはええよぉ」

「はい、私も問題ありません」

「ふん、少し癪だが、まあよかろう」


みんな承諾してくれたことにホッと息を吐き安心すると、急にお腹が空いてきた。そんな様子を悟ったように玉藻前がさてっと立ち上がる。


「ご飯にしましょう。祐介さんお腹空きましたよね?」

「ああ、うん。そういえば作ってくれてたんだな。ありがとう」

「ふふっ、いえいえ。これも私のお仕事ですので。祐介さんは着替えてきてくださいね」


と楽しそうにキッチンへ向かい、料理をお皿に盛りつけていく。そういえば着替えも何もしてなかったっけ。


自分の部屋へ入り着替えながら、大変なことになったと改めて思う。


「大変ではあるけど、端から見たら役得なのかな」


いくらその正体が悪妖怪であろうと、彼女たちの容姿はまさに絶世の美女。誰かに知られたら羨ましがられるどころの騒ぎではない。


「これからどうなるんだろ」


つい先ほどまで、うちは普通の家だったのに。あんな不可思議な石のせいでその普通が壊されるなんて。


「・・・・はぁ」


いくら考えても、出るのはため息ばかりだった。

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