冷たくあしらう委員長に俺は今日もめげずに凸した結果

サンボン

冷たくあしらう委員長に俺は今日もめげずにチャレンジした結果

「委員長、おはよー!」

「げ!?」


 朝の教室に入るなり、俺はいつものように委員長である“川崎りん”の席へと足を運ぶと、委員長は露骨に顔をしかめた。


「高木……相変わらずだらしのない恰好をして……」

「ん、これ?」

「そうよ! シャツの裾はちゃんとズボンに入れる! 上のボタンもしっかり留める! 昨日も言ったでしょうが!」

「えーでもでも、このほうが楽だしかっこよくない?」

「よくない!」


 うーむ、今週はこのスタイルを試してみたけど、委員長のお気に召さなかったようだ。


 ……また来週から考えないと。


「しかも! 何でアンタはいつもいつも私にウザ絡みしてくるの! まるで私があなたのお母さんみたいじゃない!」


 委員長が大声でそう叫ぶと、クラスメイト達がクスクスと笑う。

 これがうちのクラスのいつもの風景だ。


「えー、そんなの……」


 そんなの、俺が委員長のこと好きだからに決まってるじゃん。


 そう……俺、“高木周兵”は、中学三年のあの時から、委員長に恋をしている。


 委員長はネコのようにクリっとした瞳に少し小さめの鼻、薄く淡い桜色の小さな唇、黒髪のボブカットをしており、まさに俺のストライクだったりする。

 また、何と言っても全校集会の時も一番前に並ぶほど背が低く、その姿は小動物さながらだ。


 だけどその性格は真面目……いや、真面目過ぎてクラスのみんなからは少し敬遠されがちだけど、何よりクラスのことを考えている、ザ・委員長とは彼女をおいて他にはいない。


 だから、わざわざ友達の伝手を使って委員長の志望校を調べて、同じ高校に行くために必死で勉強したのだ。


 そして、その甲斐あって俺は念願の委員長と同じ、この高校に通うことができたのだ!


 それでも、一年の時はクラスも違うせいで委員長に積極的に絡むことができなくてもどかしい日々を過ごしていたが、二年の始業式の時のクラス発表では、思わず掲示板の前で絶叫したね。


 そして今! 俺は委員長に積極的にアタックして、何とか委員長に振り向いてもらおうと努力を重ねているわけなのだ!


「はあ……どうせアンタのことだし、くだらない理由だろうからこれ以上聞くつもりはないけど……とにかく! あんまり子犬みたいに私に懐くな!」

「えー、子犬カワイイよ?」

「子犬はね! アンタは可愛くない!」

「ヒドイ」


 ――キーンコーン。


 お、もう朝の委員長との楽しい時間は終わりか……。


 仕方ない、次の休み時間までお預け、だな。


 ◇


「……で、なんでついて来るワケ?」


 休み時間、職員室へと向かう委員長の隣を歩く俺をジト目で睨む。


「え? だって委員長、プリント取りに行くんでしょ?」

「そ、そうだけど?」

「だったら俺がいたほうが良くない?」

「ぐ、ぐむう……」


 ププ、悔しそうに唸る委員長も可愛いなあ。


 委員長は身体が小さいから、そんなに多くプリント持てないはずだし、わざわざ俺を追い返したら最低二往復はしないといけなくなっちゃうしねえ。


「し、仕方ないから手伝わせてあげるわよ!」

「ヤッター!」

「もう……調子狂うなあ……」


 喜ぶ俺を眺めながら、呆れた表情を見せる委員長。うん、それも良き。


 ――ガララ。


「失礼します」

「失礼しまーす」


 俺達は職員室に入ると、担任の岡田先生の席へと向かう。


「おお、川崎に高木、いつも仲が良いな」

「先生……冗談でもそんなこと言わないでください」

「えー、つれないなあ」

「ウッサイ!」


 先生の言葉に露骨に顔を歪める委員長を少しだけイジってみたら、メッチャ怒られた。


 うん、怒った表情も良きです。


「先生、それより」

「おおそうだ、あのプリントの山を教室まで運んでくれ」


 そう言って、先生は折り畳み式の会議テーブルの上に乗っているプリントの山を指差す……って、アレどう見ても委員長一人で運ぶの、絶対ムリじゃん!


「先生……」

「ははは、まあどうせ二人で取りに来ると思ったから、まあいいかな、と」


 うん、オッサンがテヘッと微笑んでも需要はないからな?

 むしろ委員長にあんな大量のプリント持たせようとしやがって! ギルティ!


「まあまあ、仲の良い二人の初めての共同作業ということで」

「間違ってもそんな失礼なことを言わないでください!」


 要はアレだろ? 俺と委員長が仲の良い新婚夫婦みたいに見えるってことだろ?


 俺はそんな先生に一生……は絶対ムリなので、二年の間だけついて行く所存。


「じゃ、よろしくな!」


 そう言うと、先生は手をヒラヒラとさせて職員室を出て行った。どこ行くんだよ。


「ハア……仕方ない、運ぶわよ」

「了解!」


 俺と委員長は三対一の割合でプリントを持つと、職員室を出て教室へと運ぶ。


「委員長重くない? あれだったもう少し……」

「だ、大丈夫よ……!」


 ウーン、息遣いも荒いし、そうは見えないんだけど……。


 どれ。


「あっ!?」


 俺はプリントを一瞬片手で持つと、もう片方の手で委員長の持つプリントの束を半分奪い、俺の持つプリントの束の一番上へと乗せた。


「も、もう! 私は大丈夫だって……!」

「いやいや、俺、まだ結構余裕あるから」

「…………………………アリガト(ボソッ)」

「え? 何か言った?」

「何でもない!」


 委員長は恥ずかしそうにしながら、プイ、と顔を背けた。


 フフフ、だけど委員長の今の言葉、バッチリ聞こえてたけど。


 しっかり俺の脳内に永久保存済みですとも。


 ◇


「委員長! 一緒に昼メシ食べようよ!」

「ハア!? イヤに決まってるでしょ!」


 おおう、いつもの事ながら、即答ですな。


「えー、でも俺、一人で昼メシ食べるのなんかイヤだし」

「ひ、一人で食べれば? 私も一人で食べるから……」


 そう言うと、委員長が少し悲しそうな表情を浮かべる。


「えーヤダ、俺は委員長・・・と食べたいの! 委員長が許可するまで、昼休みの間付きまとってやる!」

「……もう、毎日毎日何なのよ……」


 そう言いながら頭を押さえた委員長は、自分の席で弁当を広げ始めた。


 フフフ、これは委員長が一緒に食べてもいいというOKサインなのだ。


 これは何度もお願いしては断られ続けてきた俺だからこそ分かるのだ。


 ということで。


「……アンタ、相変わらずお昼ごはん、貧相ね」

「あー、俺ん家って両親共働きだからねー」

「あっそ」


 俺はビリッと焼きそばパンの袋を開けると、むしゃむしゃと食べ始める。


 委員長はというと……おお、今日のお弁当は、ふりかけをまぶしたおにぎりに、玉子焼きとタコさんウインナー、肉じゃがにプチトマト、レタスか。美味しそう。


「……何よ」

「え? いや、美味しそうだなあって」


 おっと、物欲しそうに眺めていたのがバレてしまった。

 だけど仕方ないよなー、ホントに超美味しそうなんだから。


 そりゃあ俺も手に持つ焼きそばパンと見比べたりもするってもんだ。


 すると。


「……ホラ」


 委員長が顔を背けながら、ずい、と弁当を俺の前に突き出す。


「?」

「……何してるの? いらないの?」


 …………………………まさか。


「こ、これ……食べていい、の?」


 俺はあまりの衝撃に声を失いそうになるのをなんとか堪え、おずおずと委員長に尋ねると、委員長は明後日の方向を向いたままコクリ、と頷いた。


「う」

「……う?」

「うおおおおおおおおおお! マジか! マジかよ! やった! やったぞ!」


 俺は歓喜のあまりクラス中、いや、外の廊下にまで聞こえるほど絶叫した。

 だって、廊下にいる奴が何事かと思ってうちのクラス覗いてるし。


 いや、だって、あの委員長が俺に食べてもいいって言ってくれたんだぞ!?

 そりゃもう食べずにお持ち帰りして俺の部屋の真ん中に永遠に鎮座してほしいくらいだとも!


「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「モ、モウ! いいからサッサと好きなもの食べなさいよ!」


 おっと、そうだった。

 嬉しさのあまり、食うのを忘れてた。


 だけど。


「な、なあ委員長……そ、その、食べずに家に持ち帰っても……」

「も、持って帰ってどうすんのよ!?」


 あ、どうやらダメっぽい。


 仕方ない……俺はこの一口に全身全霊を込めて咀嚼してや……もったいないからしばらくは口の中で舐め回して……はい、すいませんでした。


「はむ……」


 俺は玉子焼きを口の中に放り込むと、ゆっくりと噛み締める。


「………………………」


 俺の反応が気になるのか、委員長は素っ気ない振りをしつつもチラチラとこちらを見ながら反応を窺う。


 まあ待て。俺は今、この玉子焼きに全神経を集中しているのだ。


 ――ゴクン。


 俺は玉子焼きを飲み込む。


「…………………………ど、どうなのよ?」


 俺が反応しないもんだから、痺れを切らした委員長が俺に尋ねる。

 だけど、俺の答えなんて、そもそも一択でしかないんだけど。


「う」

「う?」

「美味いぞ! この甘さの中にあってしっかりと主張するダシの味といい、玉子のふんわりとした食感といい、こんな美味い玉子焼き初めて食ったよ!」

「そ、そう?」


 俺の反応が嬉しいのか、委員長が口元を緩めながらチラチラとコッチを見る。


「うんうん! ところでこの玉子焼き作ったのって?」

「…………………………私」


 ですよね。

 委員長の反応からもそれは分かってたんだけど、こういうのって、ちゃんと言葉にして確認したほうがいいよね。


「すげえ! 委員長、料理が超上手なんだな!」

「あ、あうう……」


 委員長が恥ずかしそうに、だけどすごく嬉しそうに俯く。


 はあ……玉子焼きも良かったけど、こうやって嬉しそうに照れる委員長……最高かよ。


「ね、ねえ」

「ん?」

「そ、その、他のも食べて……いいわよ」

「マジか!」


 おおおおお!


「じゃ、じゃあ……はぐ……うお、この肉じゃがも味が染みてて超美味い!」

「そ、そう?」


 何ですか委員長、反応がさっきから一々可愛いんだけど。


 そんな感じで、俺は委員長と楽しい昼休みを過ごした。


 ◇


「ねえねえ高木―、たまには一緒に遊びに行こーよ!」

「んあ?」


 放課後になり帰り支度を始めてる俺に、このクラス一カワイイ女の子、“井上美憂みゆ”が声を掛けてきた。


 この井上がどれくらいカワイイかっていうと、少しギャルっぽいところはあるけど、パッチリとした大きな目に整った鼻筋、少し厚ぼったいけど色香のある唇、ウェーブのかかった栗色の髪をツインテールに纏め、そのあどけない表情はクラス……いや、学年中でも非常に人気がある。


 実際、何人もの男が彼女に告白してるけど、全員見事に玉砕しているって話だ。


 そんな井上は、なぜか俺をいつも誘ってくるんだけど……ハテ?


「ええと、俺、今日も別件があって……」

「えー! 高木、いっつもそれじゃん! たまには委員長だけじゃなくて、私も構ってよ!」

「なんでそうなる」


 俺が委員長にべったりなのは委員長が好きだからであって、どっちを優先するかって言ったら、当然委員長に決まってる。


「とにかく、今日も用事があるから、また今度な」

「もー!」


 頬を膨らませてプリプリしてる井上を尻目に、俺はキョロキョロと教室内を見回す。


 あー……委員長はもう先に行っちまったかー。


 俺はそそくさとカバンを背負うと。


「んじゃ! 井上、また今度な!」

「絶対だかんね!」


 俺はヒラヒラと手を振ると、急いで図書室へと向かうと。


 …………………………いた。


 委員長は図書室で本を手に取ると、パラパラとページをめくっていた。


 だけど委員長……ちょっと機嫌悪い?


「委員長!」


 俺が声を掛けながら近づくと、委員長は俺をジロリ、と睨みつけた。


 ……俺、何かしたっけ?


「高木、ここは図書室よ? そんな大きな声で呼ばないで」


 おおう、辛辣う。


「わ、悪い……」

「それよりアンタ、こんなところにいてていいの?」

「へ? なんで?」

「ホ、ホラ、その……」


 委員長はゴニョゴニョともどかしそうに呟く。


 ? 何なの?


「委員長が何言ってるか分かんないけど、俺は別にここにいることになんの障害もないけど?」

「嘘」


 いや、嘘って……。


「ホントに何も予定もないし、全然大丈夫なんだけ「井上さん」……井上?」


 何でここで井上の名前が出てくるんだ?


「だって井上さん、アンタを遊びに誘ってたし……」

「ああ……」


 俺が井上と用事があるんじゃないかって、気遣ってくれてるわけか。


「あー、それなら俺、断ったけど?」

「え……?」


 そう言うと、委員長の目が一瞬見開く。


「な、なんで……?」

「なんでって?」

「ホ、ホラ、別に用事がないんだったら、一緒に遊びに行ったりすれば……」

「えー、そんなことしたら、放課後ここで委員長に逢えないじゃん」


 俺は委員長と四六時中一緒にいたいんだからしょうがないよね。


「なんで……」

「委員長?」

「も、もういい!」

「え……? 委員長!?」


 委員長は俯きながら、図書室から早足で去ってしまった。


「委員長……」


 俺はそんな委員長の背中を見つめながら、その場で立ち尽くしていた。


 ◇


「はあ……俺、なんかやっちゃったかなあ……」


 俺は中庭のベンチで一人頭を抱える。


 図書室でのアレ……絶対委員長怒ってたよなあ……。


「と、とりあえず何で怒ってるかは分かんねーけど、明日の朝、委員長に謝らないと……!」


 そ、そうだとも! このままギクシャクしたままで、挙句委員長に嫌われちまったら絶望しか残らねーぞ……!


「はあ……こういう時、委員長のRINE知ってたらなあ……」


 これまで何度もRINEの交換お願いしたけど、毎回拒否られてたもんなあ……。


「まあ、いつまでもここで悩んでてもしょうがない。明日ちゃんと謝って……って、あれ?」


 見ると、中庭の隅っこで井上とその友達二人と……委員長がいた。


「井上の奴、遊びに行ったんじゃ……それに、委員長と井上って仲良かったっけ? ……イヤイヤイヤ、二人が喋ってるトコ、見たことねーぞ?」


 なんか気になるな……。


 俺は委員長達に気づかれないように、隠れながらそっと近寄る。


 すると。


「ねえ委員長。あんまり高木に近づくの、やめてくれない?」

「……別に私は近づいたりしてない」

「どうだか。高木と一緒にいる時のアンタ、いっつも嬉しそうにしてるじゃん」

「そ、そんなこと! ……そんなこと、ない」


 そう言うと、委員長が俯く。


「はあ……友達もいないアンタがいつも一人で寂しそうだからって構ってくれる高木に甘えてるだけでしょ?」

「…………………………」

「大体、アンタに高木は不釣り合いだよ。お願いだから、もう高木と一緒にいたりするの、ホントやめてよね」


 井上の言葉に、委員長がその薄い桜色の可愛らしい唇を噛む。


 ……これ以上は、見てらんねーな。


「あれえ? 委員長に井上と……あとは知らん」


 俺は何食わぬ顔で四人の間に割り込む。


「た、高木……ア、アンタ、用事があるんじゃなかったの?」

「ん? おお、俺は委員長に用事があったんだよ。つーわけで、委員長借りてくぞ」

「あ……」


 そう言うと、俺は委員長の手をつかんで、その場を去ろうとして。


「ま、待ちなよ! な、なんで委員長なんか……!」

「なんでって……委員長だからだよ」


 俺はその一言だけ言い残し、今度こそ委員長を連れてその場を去った。


 ◇


「委員長のカバン、まだ教室に置いてあるんだろ?」


 あの後、俺と委員長は教室へと戻ってきた。


 委員長が放課後に図書館に行く時は、いつもカバンを教室に置きっぱなしにしてるからなあ。


「…………………………なんで」

「ん?」

「なんで高木は、誰も友達がいない、不愛想なこの私なんかに優しくするの?」


 そう言って俺を見つめる委員長は、今にも泣き出しそうな、そして何かに縋るような、そんな表情を浮かべていた。


「なんでって……」


 そんなの、決まってるじゃんよね。


「……俺が委員長のこと、好きだからだよ。それは薄々分かってるよね?」


 俺は確信に満ちた目で委員長を見つめる。


 ちょっとこんな告白の仕方、卑怯だとは思ったけど、でも今、口にしてちゃんと伝えないといけないと、俺はそう思ったんだ。


「なんでよ……」

「いや、だから、俺は委員長のことが……」

「だから! なんで私のことなんかが好きなのよ!」


 委員長が声にならないような声で叫ぶ。


 そして……委員長の瞳からは涙がこぼれていた。


「中学の時」

「……え?」

「中学の時、俺、委員長に一目惚れしたんだよね」


 俺は頭を掻きながら、ポツリポツリと話始める。


 一目惚れをしたのは中学三年の春。


 その日は朝練があって、いつもより早く学校に来てたんだけど、俺が一番乗りだと思ってたら、隣のクラスに俺より早く来てる奴がいたんだよ。


 それで、俺は興味が湧いてちょっと覗いたんだ。


 そしたら、委員長……川崎さんが花瓶の水を入れ替えてたんだよね。


 あの日は少し暑かったから、川崎さんは腕でグイ、と汗を拭って、だけど川崎さんの表情がすごくキラキラしてて……。


 で、その時に一目惚れってわけ。


 もちろん、たったそれだけでこんなに川崎さんのこと好きになった訳じゃないよ?


 決定的だったのは中学三年の夏に差し掛かる頃。


 あの時は野球部最後の試合だったんだけど……っていうか、俺が野球部だったの、意外って顔してるね。


 まあ、今はこんな格好してるから印象も大分違うもんなあ。


 これも、川崎さんの好みが分からないから、俺なりに勉強して、オシャレしてみた結果ではあるんだけど……いつも川崎さんには「だらしない」って怒られてたけどね。


 おっと、話が逸れた。


 それで、中体連のベスト四を賭けたその試合、川崎さんも知ってるように二点差で迎えた最終回、ツーアウトランナーなしのところで俺がピンチヒッターで出場したんだ。


 俺、真面目に野球部で練習してたけど、結局一度もレギュラーになれずにいつもベンチ要員だったけど、中学生最後ってことで、お情けで立たせてもらったんだ。


 当然ベンチも、応援に来てた学校の連中も俺なんかに期待する奴なんて誰もいなくて。


 そして俺も、自分自身打てるなんて思っちゃいなかったし、期待されてない悔しさと恥ずかしさで、俯いたままバッターボックスでただ立ってただけだった。


 だけど。


「がんばってー!」


 って。


 見ると、川崎さん……君だけが、俺のことを応援してくれていたんだ。


 他の生徒達は帰り支度を始めている中、君だけは目を離さずに、ただ俺のことを応援してくれて、腹の底から叫び続けてくれて。


「……まあ結果はご存知の通り、セカンドゴロで試合終了だったんだけどね。でも」


 俺はすう、と息を吸い込んだ。


「俺はあの時、君に救われた。そしてあの時から、君は俺にとって全てになったんだ」

「っ!」


 川崎さんが息を飲む。


「……それが、俺が君のことが好きな理由、だよ」


 あーチクショウ、口に出すと超恥ずかしいな。


 しかも、こんな告白の仕方ってアリかよ……。


「あ、の……わた、わた、し……」

「あ、うん。こんなこと言われて、川崎さん……委員長にしても迷惑だってこと、分かってる、よ……」


 ああ、チクショウ……こんなの、絶対委員長も引いてるわ……。


 こんな真似しかできねーから、委員長も俺のこと、嫌ったりするんだろうが。


「アハハ、そ、それじゃ俺、帰……「ま、待って!」」


 俺は泣いてる姿を見られたくなくて、慌てて立ち去ろうとしたんだけど、委員長が呼び止めた。


 何だよ……そんなことしないでくれよ。


 そんな風に呼び止められちゃうと、しちゃいけない期待、しちゃうじゃんかよ……!


「わ、私……私……その、私は本当の高木を知らない、から……」


 俺は怖くて委員長を見ることができないけど、委員長が一生懸命言葉を選んで話してくれているのが分かる。


 ああ……やっぱり委員長は優しい、なあ。


「だから! ……だから、私はもっと高木のこと、知ろうと思う。だから」


 そう言って、彼女は突然俺の目の前に躍り出た。


「だから、高木も高木のこと、これから教えて? 私があなたに負けないくらい、好きになれるほどに」

「っ! い、委員長……」

「わ、私は誰かを好きになったことがないから、好きになるっていうのがどんなのか、その、よく分からないけど、だけど、ね?」


 そう言うと、委員長は胸の前で両手を組んで、キュ、と握り締めて。


「高木のことを考えると胸が苦しくなるし、高木が褒めてくれるとすごく楽しい気分になるし、高木が他の女の子と話をしているのを見るとすごくつらいの」


 委員長、それって……。


「……この気持ちがなんなのか、高木が教えて? これが“恋”で間違いないのか……高木が教えて?」

「う……うん! お、俺! 俺……君を好きになって、良かったよ……!」


 俺の一世一代の告白は、何とも締まらない結果になってしまったけど……俺は、彼女に告白して良かった。


 委員長を好きになって、本当に良かった……。


 ◇


 ――キーンコーン。


「さーて、お昼だぞっと……委員長ー!」


 昼休みになり、俺は今日も委員長に声を掛ける。


 あの告白の後、俺と委員長の関係が劇的に変わる……なんてことはなく、むしろ今までとほぼ変わらない日々を送っている。


 ……いや、それでも多少の変化はあるようで。


 ――コトン。


「へ? 委員長?」


 俺の目の前に差し出されたもの……それは、委員長の手作り弁当だった。


「そ、その! こ、これはたまたま多く作り過ぎただけだから!」


 委員長は恥ずかしさからか、そんな言い方をしてしまうが、蓋を開けると……。


「唐揚げにハンバーグにポテサラに……これ、この前委員長に言った、俺の好物ばっかじゃん!」

「ち、違うから! 作り過ぎただけだから! あ、あうううう……」


 こんな風に、今日も委員長はその可愛くて愛おしい姿を俺に披露してくれていた。


「委員長」

「あうううう……な、なに!?」

「大好き」

「あうううううううう!? もおおおおおおおお!」


 うん、やっぱり俺は、この可愛くてたまらない委員長が大好きだ。

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