第3話 金の斧の力
魔獣城。
その正門の前にアルドとベネディトの二人は到着した。
アルドたちは正門の周囲を見回すと、まずアルドが口を開いた。
「魔獣城に着いたけど泉の精霊が言っていた斧はどこにあるんだろう。猛き魔獣が得物として持っているって言ってたけど、今まで戦ってきた魔獣の多くが斧を使ってきてたよなぁ。」
「まあ俺たちが探しているのは質の良いごくごく普通の斧だからな。おそらく並みの戦士ではなく階級の高い歴戦の戦士の振るっている斧のことだろう。とりあえず斧使いの魔獣と片っ端から腕比べならぬ斧比べをしてけちょんけちょんにしていけば、いずれはキノコの言っていた斧に辿り着けるだろう。早速乗り込むぞアルド!」
「っておい、まさかこの城にいる斧使いの魔獣全員と戦うつもりなのか!?いくらなんでもそれは無茶だって…。」
アルドがベネディトの物騒な発言に驚愕していると、物陰から何者かが二人に話しかけてきた。
「やれやれ穏やかじゃないにもほどがありますね。その気は無いかもしれませんが、そこまでしたら宣戦布告してるようなものですよ。再び戦争を起こす気ですか?」
そういうと声の主は物陰から姿を現した。
その姿は魔獣の人型形態でメガネをかけており、アルドもコニウムでよく目にする今となっては馴染み深い姿であった。
「ヴァレスじゃないか。なんでここにいるんだ?」
アルドは驚きながらヴァレスに尋ねた。
「なぜここにいるかを訊きたいのは私の方ですよまったく。先ほどの会話から察するとあまり平和的な用事ではなさそうですが。まああなたの質問には答えましょう。私はここにコニウムに持っていき忘れた荷物があるのを思い出してそれを取りに来ていた、ただそれだけですよ。さて、あなた達はなぜここへ?」
「ああ、実はな…。」
アルドは自分たちがここにきた理由をヴァレスに話した。
ヴァレスはそれを思案するような仕草で黙って聞いていて話を聞き終えると呆れたように言った。
「なるほど位の高い歴戦の戦士の使う斧を探してきたと。しかしそのために魔獣と片っ端から戦おうとは発想がぶっ飛んでいるのにもほどがありますよ。」
「そうだよな…はは。」
アルドはまあ当然といった表情だった。
しかしベネディトはいたって真剣な面持ちでヴァレスに自分たちが探しているような魔獣がいないか訊いた。
「ヴァレスといったな、ならばお前が教えてくれ。俺たちの探している魔獣に該当する者を。」
「あなたはたしかアルドの仲間……ベネディトといいましたね。ふふ、安心してくださいその件ならもうほとんど解決していますよ。」
「どういう意味だ?」
ベネディトが問うとヴァレスは唐突に唸り声と共に魔獣形態へと変身した。
「ヴァレス、いきなり変身してどうしたんだ!?」
アルドが驚いて訊くと、ヴァレスは己の武器をジャキリと金属音を立てて取り出して答えた。
「俺はなぁ魔獣の中でも魔王様の隣に置かれるほど位が高い。そして魔獣戦士の位の高さは実際の強さと戦いでの貢献度に応じて決まる!つまりお前たちが探している歴戦の斧使いの魔獣とはまず間違いなく俺様のことなんだぜ!」
そういうとヴァレスは己の得物をぐるぐると振り回してベネディトに突き付けて言った。
「さあ、ベネディト!俺と斧比べといこうじゃないか!」
ヴァレスの豹変ぶりに流石にアルドも突っ込みを入れた。
「いやさっきまで人のことを物騒だと言ってた割には意気揚々と戦おうとしてるじゃないか!」
「自分が戦士で、目の前にいる者が戦いたいと探している相手が自分だったら戦いを引き受けるのは当然のことよ!」
「まったく調子がいいというかなんんというか。というかその武器斧だったのか、ずっと変な形の剣だと思っていたぞ。」
「ふっ…アルドもまだまだ甘ちゃんだな。戦争の最前線において剣は剣、斧は斧とカテゴライズすることは無意味だなんてこと兵士にとっては常識だぜ?必要に迫られれば剣で木を切り倒し、斧で敵を斬るなんてのは序の口、兵士によっちゃ壕を掘る道具で敵の頭をだな…。」
「もういい分かったって。…それでベネディト、やるのか?」
ベネディトはすっとバトルアクスを掲げた。
「もちろんだ。」
ヴァレスはアルドの問いに対するベネディトの返事を聞くと咆哮した。
「いい答えだ!ではベネディトよ、勝負はお互い渾身の力で武器をぶつけ合い武器の壊れた方の負けということでどうだ?」
「いいだろう。お前が負ければここの斧もハズレだったということだし、俺が負ければ……ん?」
「はっはっは気づいたか。安心しろベネディト、お前が負けた時は俺の武器をやろう。お前自身が斧のせいで負けたと思えるのならな!!」
「わかった。俺が負けた時は大人しく斧探しを諦め、ユニガンの鍛冶屋で量産品のごくごく普通の斧を買うとしよう。さあ、いざ勝負だ!はああ…」
ベネディトはそういうと、気合をバトルアクスに集中していきヴァレスも同じように気合を斧に集中させ始めた。
「なんかもう色々おかしくなっている気がするけど…。」
アルドは呆れ顔でそう呟き、
「とりあえず危なそうだから離れておこう。」
と言って物陰に隠れた。
その時ベネディトはバトルアクスの力が自分を通して高まっていくのを感じていた。
「はああ…。(斧が、自分の体がどんどん軽くなっていくのを感じる。今ならこれ以上ないほどの渾身の力で斧を振るえる気がする。これがもしや金の斧の力か。斧の力を高めるとかキノコは言っていたな。なるほどこういうことだったか。)」
「いくぞベネディト!」
「来いヴァレス!」
対峙していた二人は渾身の力を込めて互いの武器を互いの武器へと一閃した。
武器がぶつかると耳を劈く激しい金属音と眩しい閃光のような火花が散り、アルドは思わず目を閉じた。
アルドが再び目を開けるとベネディトとヴァレスは斧を振り終えた姿勢のまま互いに元々いた位置が入れ替わっており、そのまま硬直していた。
「どっちが勝ったんだ?」
アルドは固唾を飲んだ。
そして最初に口を開いたのはヴァレスだった。
「存外脆いものだなぁ…」
ヴァレスがそういって姿勢を正すと
「歴戦の斧というものも…。」
という悲しげな呟きと共にとその手に持っていた斧は粉々に砕け散った。
一方のベネディトはすっくと立ちあがりバトルアクスをくるくる軽やかに回して肩に担ぐと誇らしげに言った。
「ここの斧もハズレだったな。」
戦いを見届けたアルドは物陰から出てきた。
「やったなベネディト。」
「ああ。」
そしてアルドはヴァレスに近づき感謝を述べた。
「ヴァレスもありがとうな。俺たちの斧探しに付き合ってくれて。それとその…武器を壊してしまったが大丈夫か?」
ヴァレスは光り輝くと人型形態になって答えた。
「いえいえいえいえいえ構いませんよ。お互い納得の上での斧比べでしたし、それに予備くらいあります。」
「そうか。なら良かったよ。けどなんか怒ってる?」
「いいえ別にぃ。では私はコニウムに帰らせていただきますね。子供たちと遊ぶ約束をしていますから。」
そういうとヴァレスは魔獣城から去って行った。
「さてとベネディト。今回も質の良いごくごく普通の斧が手に入らなかったし、当然次の斧を探すんだろ?」
「ん?当たり前だ。」
「じゃあ次はルチャナ砂漠だな。早速向かおう。」
「…なんか乗り気になってきてないか?正直アルドはこの斧探し面倒くさがると思ってたぞ。」
「ここまで付き合ったし、俺も質の良いごくごく普通の斧が一体どんなものか実はかなり気になり始めてるってのもあるんだ。」
「ふっ、そうか、まあいい。ならルチャナ砂漠へ行くぞ。」
「よし次元戦艦に急ごう!」
そういってアルドはベネディトを置いて駆け足で次元戦艦に向かっていった。
残されたベネディトはもう一度バトルアクスを取り出しくるくると鮮やかに回して掲げて、
「うむ、とてもいい具合だ。お前も存外負けず嫌いだな。」
と呟いてアルドの後を追った。
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