第2話 銀の斧の力

 アルドとベネディトは月影の森に来ていた。

 剣の泉の精霊に教えてもらったごくごく普通の質の良い斧の3振りのうちの1振り目がここにあるというのだ。


「確か池に浮かぶ月が三日月になる時、月光と共に現れる…だったっけ?」

「ああ、たしかあのキノコはそう言ってたはずだ。」

「キノコじゃなくて泉の精霊な。」


 アルドとベネディトは月影の森の奥にある池のそばで泉の精霊のくれたヒントを元に斧を探していた。


「今、池に浮かんでる月は満月だけど、これを三日月になるまで待たなくちゃいけないのかな?」

「そんな悠長なことはしていられないぞ。俺には今すぐにでも斧が欲しいんだ。」

「そうはいっても月の満ち欠けは今すぐどうこうできる問題じゃないし。いや待てよ…。」


 アルドは考え込み始めた。


「どうした?斧を手に入れる方法が分かったのか?」

「もしかしたらと思っただけだけど。」

「今はどんな案でもいい。斧を手に入れるためならどんな方法でも構わないぞ。」

「泉の精霊は池に三日月が浮かぶ時って言ったよな?」

「ああ。」

「つまりそれって池の水面の月を三日月にすれば空に浮かぶ月が三日月である必要はないんじゃないかって思ったんだ。」


 ベネディトは如何にも解を得たりといったように


「それだ!」


 と言った。


「でもどうやって池の月を三日月にすればいいのか思いつかないんだ。」

「案ずることは無い、俺にいい考えがある。」

「何か思いついたのかベネディト?」

「簡単な話だ。池の月が三日月になるように人為的に影を作ってしまえばいいんだ。」

「そんなことできるのか!?」

「ああ、こうやってその辺にある丸い石を使えばきっと…。」


 そういうとベネディトは適当な大きさの石を拾って、池の上に翳してなんとか池の月が三日月になるように位置調整をし始めた。


「どうだベネディト。三日月にできそうか?」

「う~む、どうにもうまく影が作れないな。石だとどうしてもきれいな円形に影ができないし、石を持つ手が変な影を作ってしまう。それにこの森に満ちる月光は微量な魔力があるせいか光が滲んでしまうようだ。一番影の濃いところもゆらゆらと光が滲みこんできている。」


 そういうとベネディトは石を地面に放り、腕組みをして考え込み始めてしまった。


「やはり三日月を待つしかないのか。俺の斧よ一体いつ俺の手に来てくれるというのだ。」

「影の形に、腕の影に、魔力を帯びた月光か。…もしかして!」

「アルド、何か閃いたのか?」

「ああ!ベネディトのそのバトルアクスだよ。それを使えば上手く影を作れるんじゃないか?」

「なるほどな。確かにこれなら扇状の影を作れるだろうし、腕も柄の部分もそう邪魔にならない。しかし、魔力はどうする?」

「それならきっと大丈夫なはずだ。その斧には金と銀の力が吸収されているだろう?」

「そうか!銀の力は力を蓄える、つまりこの辺りに漂う程度の魔力なら光ごと吸い込んでしまうということか。早速試してみるぞ。」


 ベネディトはバトルアクスを取り出すと池の月が三日月になる位置に掲げた。

 するとバトルアクスの周囲から魔力を帯びた光を吸収し始めた。


「どうだアルド。俺は斧を掲げて魔力を吸収するように集中するので手一杯で池の月を確認できん。」

「ちょっと待ってくれ。」


 アルドは池の水面をのぞき込んだ。


「だめだ。まだ少し光が漂ってるみたいだ。」

「くっ、おいバトルアクスよ。お前は俺の斧ではないが俺の手に握られているんだから最高の仕事をしてみせろ!」


 ベネディトがそういうとそれに応えるようにバトルアクスの光の吸収量がぐんと増えた。

 そしてアルドは再び池の水面をのぞき込んだ。


「すごい!きれいな形の影ができてるし光も滲んでない。ただあともうちょっと左かな?」

「左だな。」


 ベネディトがアルドに言われた通り斧を少し左にずらすと池の水面にきれいな三日月ができた。


「いいぞ!三日月ができている!」


 アルドが声高に言ったその時、水面の月が光り、ゆっくりと斧が浮かび上がってきてアルドたちの足元に落ちた。


「ベネディト、斧が出てきたぞ。見てみてくれ。」

「ああ。けれどその前に…。」


 ベネディトは掲げていた斧を降ろし、戦闘の態勢に入った。


「しまった、騒ぎすぎたか。」


 アルドもベネディトに続いて戦闘態勢に入った。

 すると当たりの木の陰から二人の騒ぎ声に気づいたのかアベトスとハイゴブリン3体がぞろぞろと出てきた。


「とっとと片付けて俺は自分の斧を手に入れさせてもらうぞ!」


 そういって二人は戦い始め、危なげなく魔物たちを倒した。


「ふん、このキノコからもらった斧も存外悪くないな。しかし今は…。」


 そういうとベネディトは池から出てきた斧に近づいた


「この斧を確認させてもらうとしよう。」


 ベネディトは池から出てきた斧を手に取って確認した。


「どうだベネディト。ええっと、しつのいいごくごく普通の斧として使えそうか?」

「…ダメだな。」

「なんで!?」

「これはクレセントアクス。確かに俺が見てきた斧の中でも最高品質の斧だが、これも戦闘向きだし、何よりこの形状。こんな鎌に近い形状では木に打ち据えるのに不向きすぎる。月影の森の斧はハズレだったな。」

「そうか…。」


 アルドは残念そうにしていた。


「まあそう残念そうにするな。こちらのバトルアクスは魔力を吸って力を得たようだからな。何も得るものが無かったわけではない。」


 そういうとベネディトは手に持っているバトルアクスを軽く小突いた。


「そうかなら良かったよ。それでベネディト、そのクレセントアクスはどうする?」

「それは当然…。」


 ベネディトはそういってクレセントアクスをそっと池の水面に付けてゆっくりと手を離した。

 するとクレセントアクスは光に包まれ、吸い込まれるようにゆっくりと池の中に消えていった。


「返すだけだ。」

「ええ!?そんなので返せるのか?」

「池から出てきたんだから池に返せるのはごくごく普通のことだろう。そんなことより次の斧だ。次は確か暗黒大陸、魔獣城だったな。」

「あ、ああ。たしか猛き魔獣が得物にしてる…だったか。」

「よしならば急いで魔獣城へ行くぞ!」

「ああ、行こう!」


 そして二人は魔獣城へと向かった。


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