黒野龍馬は今日も平和を守る

ブラックドラゴンとブラックエクレールが主に活躍し、見事にEVILを持ち込んだ犯人達を逮捕する事に成功した2日後の土曜日。



黒い龍の刺繍が特徴的な青のジャケットとに黒のTシャツとズボンとスニーカー姿に身を包む龍馬は綾乃をとある場所に連れていく為に彼女のマンション前迄来ていた。


「……早く来すぎたか?」


龍馬は時計を見ながら周囲を見渡すが、まだ綾乃の姿はいない。予定時間より早く着いたから何処かコンビニとかでも行くかと模索してると、眼前のマンションの玄関が開き二人の女性が出て来る。


その二人のうち一人は赤色のブラウスに黒のスカートにハイヒールを履いた綾乃と、もう一人は世間的にはメイド服と呼ばれるエプロンドレスを着ている中村奏だった。


龍馬は奏の方は見知らぬ人だなと思いながらも、綾乃の方へと歩いていく。


すると、奏は綾乃を庇うかのように前に出てくる。


「お嬢様に何用ですか?事と次第によってはタダじゃ済ませませんよ」


ボディガードの様に身を構えながらキッと睨む奏に、龍馬は率直に答える。


「姫路さんを迎えに来ただけなんですが……」


龍馬の応答に、奏は合点が言ったのか龍馬に問いかける


「迎えに?もしかして貴方が黒野龍馬さんですか?」


「はい。確かに俺は黒野龍馬です」


「そうでしたか……それは申し訳ありませんでした。まさかお嬢様の仰ってたお迎えの方とは知らず無礼な真似をしました。私は中村奏。お嬢様のメイドにしてお嬢様を守る盾でもあります。以後お見知りおきを」


「黒野龍馬です。よろしくお願いします」


瀟洒に自己紹介しながら両手でエプロンドレスのスカート部分を摘んで俯きながらヨーロッパのメイドの様な会釈をする奏に、丁寧な自己紹介で返す。


彼女からは所々優雅さを醸し出す彼女をメイドとして雇っている綾乃は龍馬が思っている以上の優雅な家系の人だと考えていると、奏が自分ををまじまじと見ているのに気づく。


「な、なんですか?」


「いえ、綺麗な瞳と中々好ましい面構えをしてるのでつい見つめてしまいました。ダメでしたでしょうか?」


「いえ、別に構わないんですが……」


「成る程。初対面でも気にしない胆力は中々有る模様。流石お嬢様が見初めよう「わー!わー!」……なんですかお嬢様」


色んな意味で奏の問題発言を完全に聞かされる前に綾乃が大声を出して掻き消す。


「それは秘密にしてくださいと言ったじゃないですか!」


「ああ、お嬢様は初心ですものね。黒野様にアレを聞かれたら恥ずかしさで彼に会えなくなりますね。そこまで考えず、申し訳ありません…そんな調子ではお嬢様はいつ旦那様と奥様に紹 介するんでしょうか…」


「そ、それはもう少し外堀を埋めて行って…兎に角その話は帰ってきてからします!」


「畏まりました。それでは行ってらっしゃいませ。お嬢様。黒野様もお嬢様の事をよろしくお願い致します」


「は、はい」


奏は綺麗な礼儀をして、二人を見送る奏を背に龍馬と綾乃は目的地に向けて歩き出す。


(なんか俺の知らない所で何かが進行してるような気がしてきた……)


龍馬は先程の奏と綾乃の会話を全部聞いていて、知らぬ間に人生のレールが一直線になり、その未来を選ぶしか無いところまで見えかけていたが、それは訪れないだろうとたかを括りながら、目的地迄向かうのだった。








「それでは!姫路綾乃さんの歓迎会として!」


「貸し切りビュッフェバイキング始めるわよー!皆楽しんでね!かんぱーい!」



「「「かんぱーい!」」」


「か、かんぱーい……です」


「……乾杯」


龍馬が綾乃を連れてやってきたのは駅前のビルのテナントであるビュッフェバイキングの店だった。


今日ここに居るのは、乾杯の音頭を取った総司と遥香と、その娘の香澄とブラックウィングの構成員30名。そこに龍馬と綾乃が加わる形で歓迎会が始まる。


宴の席ではアルコール等が出て来るが、今回は龍馬、綾乃、未成年の構成員達も居るのでアルコールは禁止にした。


席は基本男性と女性、大人組と子供組に分かれているが、恋人同士は同席させたりして、二人の時間を大切にしもらえる形をとりながら楽しんでもらう。


そして何故か龍馬は同い年の女性構成員と綾乃の方に座らされながらも(最初はやんわりと断るも相談事が有ると言われてやむを得ず了承した)この歓迎会を楽しむことに決めた龍馬は適当に料理を取りに行く。


料理の置かれたながら長テーブルにはサラダ、肉料理、肴料理、米料理にナゲットやスクランブルエッグのようなオードブルも完備してあり、暖かいコーヒーや紅茶の入ったドリンクバー、ピッチャーに入った果実のジュースが氷で冷やされてるコーナーもある。


龍馬はバランス良く料理を取り分け、乾杯前にコップに注いできた紅茶を少し飲んで喉を潤すと、両手を合わせて頂きますと言い、食事を開始しながら同席で相談の有る女性構成員、立花の話を聞く。


「それで、相談事とはなんですか?」


「実は……私、好きな相手ができたんです」


女性構成員は勇気を持って龍馬に話す。


好きになった相手は、ブラックウィングに物資の搬入をしてくれる輸送業の歳上の男性で、きっかけは話していて楽しくて一緒に居たいと思った事から自分の気持ちに気づいたらしい。


好きだと伝えたいけど、未成年だからダメだと断られたり、ほかに好きな人が居たらどうしようと悩んでいたら今日まで何も言えてない事に焦りを持ったようで、誰かに相談しようと考えていた矢先にこの歓迎会が有ったので折角だから同い年の男性に告白した方がいいか聞いてみようと、思いついて龍馬に話したのだと。


話を聞き終えた龍馬は一考した後、紅茶を一口飲んで自分の考えを伝える。


「俺はした方が良いと思います」


「本当ですか!?」


「はい。やらずに後悔するより、やって後悔した方が良いと思いますし。何より伝える事で悩みは消える筈です」


「やっぱり玉砕覚悟で告白した方が良いんですね。ありがとうございます!」


「いえいえ」


立花の相談事を聞き終えた龍馬はいつの間にか食べ切ってた料理をお代わりしに行き、再度食事を楽しみ出す。


「……」


そんな龍馬を、綾乃は料理を食べながらジッと見つめている。その視線は龍馬の全ての挙動を観察しているようにも感じる。


「なに綾乃さん?俺に何か変な所有る?」


「いえ、話をしながらなのに綺麗な食べ方しているなと思いまして……」


「そう?」


「龍馬君の歳でそこまでのレベルは出来ないですし……食べ方で精一杯になって会話を楽しむ事は出来ない方のが多いです。因みにですが、テーブルマナーとかは学んでますか?」


「一応独学だけど」


「独学ですか…じゃあ今度私が教えましょうか?テーブルマナー。何処かで使えるでしょうし…特に結婚した後とか」


「最後何か言った?」


「いえ。なんでもありません。どうでしょうか?」


龍馬は綾乃の最後の呟きが気になったが、彼女の提案をどうしようか考え、彼女の好意を受け取る事にした。


「それじゃあ、お願いしようかな」


「ふふ、お任せください」


龍馬と綾乃は約束を交わすと、その後は他愛もない雑談で時間が過ぎていく。同席の立花も二人の会話加わりブラックウィングの人間全員が楽しむ中、宴もたけなわか総司がブラックウィングの構成員全員にまもなく終了の時間を告げる。


「もうすぐここの貸し切り時間も終わるから撤収準備に入ってくれ」


残念そうに告げる総司は構成員達を少しばかり急かすように準備させる。食べ残しが無い、忘れ物がない、外に出る準備が出来ている事を確認した総司は遥香と共に支払いへと向かう際にビルの前で待つように指示する。



龍馬達が外に出ると外は暗くなっており、大人の時間と言わんばかりの人の賑わいが駅前を静寂させない。


総司と遥香がビルから出て来ると、総司が全員に終わりの挨拶を始める。


「今回はブラックウィング全員集まれた事を光栄に思う。我々はこれからも一致団結し、この明王町を守り、悪を倒す悪の組織として活動していく。その為にも皆の力が必要になる。これからも私について来てくれるかな?諸君」


真剣な表情と共に助力が必要だと述べる総司の言葉をにブラックウィングの龍馬達と構成員達の心は一つとなる。



この明王町を必ず悪から防ぎ、守り続ける。



その気持ちで皆の意識が一つになると、自然と声が揃う。


「「「「はい!」」」」


総勢34名が織りなすハーモニーは総司の耳から心臓に心強さを届ける。その心強さに心打たれながら総司は不敵な笑みを以って返す。


「よろしい!これにて今日は解散とする!大人組は未成年の構成員達を親御さんの元へ怪我なく帰してから帰宅するように!以上!」


総司の一言をきっかけにブラックウィングのメンバーはそれぞれの帰路へと向かっていくのだった。






「ありがとうございます龍馬君。わざわざ送ってくれて」


「気にしなくて良い。弟子を守ることも師匠の勤めって奴だ」


帰り道。龍馬は綾乃と共に彼女のマンション前まで来ていた。


「今日は本当に楽しかったです。龍馬君と話せた事もそうですが、立花さんとも話せたのは楽しかったです」


「そうだな」


龍馬と綾乃は立花との会話を思い出す。立花は化粧品やファッションに詳しく、綾乃が脱帽するくらいには化粧品の薬効のメリットデメリットの説明や流行を先取りしたファッションセンスが会話の中に見えた事。


雑談のネタも豊富なお陰か途切れる事なく会話が続いたのも大きく、とても有意義な時間になったと二人は記憶している。


そんな今日の事を思い出しながら龍馬は別れを告げる。


「それじゃあ俺は帰るから。また明日、学校で」


「あ、龍馬君!」


「ん?何?」


「え、ええと。ま、また明日!」


綾乃は恥ずかしげに挨拶を交わすと、脱兎の様にマンション内へと入っていく。何事だと思いながらも龍馬はそのまま自宅への帰路へと向かう。



(最近、色んなことがあったな)


一人の帰り道、龍馬は最近の出来事を思い出しながら歩く。


(最初は怪人と間違えられて出会ったジャスティスプリンセスの正体が姫路さんで、彼女をブラックウィングに勧誘したり、お弁当を作ってもらうようになったり、手の怪我を心配して食べさせてくれたりとか、ブラックウィングの初仕事で少し無茶かなって思った指示もきちんと熟して……あれ?俺姫路さんの事しか思い出してないな。)


龍馬は不思議だなと思う。実はそれが龍馬が一番したい普通の恋愛に必要な感情だと分からないまま家路つきかけた頃。


「うわぁぁぁぁ!」


近くから悲鳴が聞こえる。龍馬は悲鳴の発生源へと走って向かうと、タコの怪人が仕事帰りの男性を襲いかかる寸前の所だった。


龍馬は直様タコの怪人迄の距離をダッシュで詰めると、飛び蹴りで怪人を吹っ飛ばす。


「早く逃げてください!」


「あ、ああ!」


男は龍馬に避難を促されると一目散に逃げる。人目の無くなった事を確認すると、龍馬はドラゴニックバックル取り出し装着する。



「ドラゴンチェンジ」



黒野龍馬は黒き鎧の龍、ブラックドラゴンへと変身すると、タコの怪人との戦闘を開始する。



これが黒野龍馬の日常。明王町を守るブラックウィングの象徴にして守護神である彼は今日もまた戦いに身を投じるのだった。





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黒き翼は今日も平和を守る SIXX @crooud

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