姫路綾乃は稲妻になる

自宅に帰った龍馬は直様父総司の部屋と向かって行った。


総司の部屋は地下室にあり、リビングの反対側にある階段を降りた先にある。


地下室の前まで行くと、龍馬はノックする。


『んー?どうしたー?』


「父さん。入っても良い?」


『ああ構わないぞ』


総司から許可を得た龍馬は扉を開けて室内に入る。室内は高額そうな機械が乱立し、所狭しに機械仕掛けの道具が散らばっている。


総司机は大きな机に40インチ程の大きさのあるパソコンの液晶画面を見ている。画面には幾つもの数式が展開されており、高校生の龍馬ではまだ理解できないものもあった。



「どうした龍馬。父さんの部屋に来るなんて久しぶりだな。なにか用か?」


総司はキーボードで打ち込みしながら龍馬に声をかける。



「実はー」


龍馬は綾乃の変身アイテムの進捗を聞きに来たと伝えると、総司はキーボードの打ち込みを止めて、此方へと向く。


「私は天才科学者、黒野総司だぞ?もう出来ているさ。今週の土曜日にでも姫路綾乃さんを呼んで実戦で使ってもらおうと思っているしかしだ……」


「どうしたのさ」


「彼女に似合う武器が選択し辛いんだ!あの大和撫子っぷりをみて薙刀を選んだら衣装とミスマッチするわ、逆に衣装を合わせると動きやすさが無くなってダメなんだ!ああー!もどかしい!」


「へ、へぇ……」


(しょうもない事で悩んでるのか……)


龍馬が心中でため息を吐いていると、総司が龍馬にお願いをする。


「だから龍馬。明日でも良いから姫路綾乃さんからどんな武器を使いたいか聞いてきてくれ。武器によって衣装を決めたいからな」


「分かった。今からでも良い?」


「良いが…まさかお前、話を聞きに行くついでに狼になってくるんじゃないだろうな!?父さんはまだお前が結婚するのは早いと思うぞ。せめて避妊だけでも……」


「そんなことするか!姫路さんと連絡先してるから今から聞けるだけだよ!」


「そうか、それなら安心だ」


「何が安心だよ……」


ホッと一安心してる総司を他所に龍馬は携帯端末を取り出して綾乃へと電話すると、1コール終わらない速さで応答する。


『はい姫路です』


「黒野です。姫路さん今時間あるかな?」


『はい!私はいつでも空いてます!』


「あ、うん。それなら良かった。実はー」


龍馬は綾乃に変身時に使用する武器の要望が無いかと説明すると、電話先の彼女は少し考えながら答える。


「要望ですか……それなら、銃が良いです。特に回転式拳銃とかなら嬉しいですね」


「拳銃か……姫路さん銃の扱い得意なの?」


女の子から出てくるとは到底思えない武器で龍馬は困惑しながら問いかける。


「はい。夏休みの時は海外に行く事が多く、怪人に襲われてからは護身用のために拳銃を渡されるんですよ。それで一通りの事を教えてもらったり、独学で学んだりしてきてるので、他の武器よりも手に馴染むと思うんです」


「成る程。それじゃあ伝えておくよ」


『よろしくお願いします』


綾乃の説明に龍馬は納得しながら綾乃との電話を切ると、総司に電話の内容を伝える。



すると総司はむむむと唸ると、何かを閃く。


「そうか!そうすればいいのか!」


総司はキーボードを操作し出す。そのタイピング速度は尋常では無く、常人が出来るような速度では無かった。


「ふふふ……銃とは良いセンスだよ姫路綾乃さん!この私の脳から君にピッタリな物を生み出させるとは……やはり彼女逸材

だぁぁぁ!!」


叫びながらキーボードを打ち、龍馬の存在を忘れながら開発に夢中になる総司。こうなると声を掛けても無駄なのを知っているので、龍馬は静かに部屋を出るのだった。



部屋を出てリビングに行った龍馬はソファーに座る遥香と香澄の姿を見つける。


二人はとても真剣な表情で話していた。


「お母さん。EVILがこの町に持ち込まれたのって本当なの?」


「ええ、龍馬からの報告に、柏木さんからの連絡から本当なのが確認されたわ」


どうやら二人は夕方の龍馬が捕らえた男達が持っていたEVILについで話していたようで、龍馬もその話に加わる。


「柏木さんから連絡が来たの?」


「あら龍馬。……ええ、貴方の報告通り、捕まえた男達が持っていたものからEVILが検出されたって」


「やっぱりか……」


「よく分かったね龍馬。大手柄だよ」


香澄がよくやったと龍馬の頭を撫でる。


「……恥ずかしいから辞めて」


嫌々ながらも心地よいのか、強く拒否せずに香澄のなさんがままにしながら龍馬は遥香に話を振る。


「それで、柏木さんは他に何か言ってた?」



「ええ。これは重要な話よ」


遥香の剣幕が真剣になった事で香澄は龍馬の頭から手を引く。


「三日後の夜、隣町の港の倉庫街で大きな取引があるみたい。その取引に来る犯罪者達を捕らえるために、ブラックウィングへの共同戦線の要請が来たわ。これには戦闘員達と龍馬に行ってもらうことになるわ」


「私も行った方が良いかな?」


香澄が真剣な眼差しで遥香を見て自分も行くと伝えるも、遥香は首を横に振り同行を不許可する。


「香澄ちゃんは別の依頼が有るからそっちをお願いするわ」


「……了解。龍馬、頑張ってね」


「うん……絶対に、EVILを持ち込んだ奴らは全員捕まえてみせるよ」


姉からの激励に龍馬は頷く。


その後はブラックウィングの誰を派遣するかを話し合いながら夜が更けていき、遥香が龍馬と香澄に就寝を促して、その一日は終わった。






三日後の夜。龍馬はブラックドラゴンに変身した状態で、隣町の港倉庫街の門の前に居た。勿論ブラックウィングの戦闘員達十人もだ。


その中に一人、龍馬の予定外の人物が居た。


綾乃だ。


綾乃の存在に戦闘員達も何故少女である彼女がここに居るのか理解できなかった。


「……何故ここに居る?」


ブラックドラゴンは突き刺す様な視線と冷たい声音で綾乃へと問いただす。綾乃はその視線に負けないように自分がここに居る理由を話す。


「えっと……遥香さんに呼ばれて来たのですが……」


「何を考えてるんだ…あの人は」


理解不能の行動を取る遥香に対して頭の痛くなる龍馬は綾乃を帰そうすと白の外套に包まれた服装で。


総司の登場にブラックウィングの戦闘員達は敬礼する。


「どうしたんですか…総統自ら来るなんて」


総統と幹部の関係でここに居るので、ブラックドラゴンは総司に敬語で何故と聞く。


ブラックドラゴンの問いに良くぞ聴いてくれたと言わんばりに含み笑いする。


「ふふふ、ブラックドラゴンよ。ここに来たのは他でもない。ここに居る姫路綾乃さんの変身アイテムとヒーローライセンスを届けに来たのだよ!みよ!これが我がブラックウィングの二つ目の最高傑作である変身アイテム!その名も、エクレールチェンジャーだ!」


総司は外套の懐からエクレールチェンジャーを取り出して天に掲げる。


それは漆黒の様に黒で染まり、縁を円状の黄金で型取り、正面側にも黄金の稲妻の様なエンブレム、月夜に煌めく女性もののコンパクトミラーのように見える。


総司はエクレールチェンジャーをヒーローライセンスと共に綾乃へと譲渡する為に近づく。


「新規のヒーローライセンスは一番下のCランクからしか取れ無いけど……このエクレールチェンジャーならランク以上の活躍が出来ると信じている。受け取ってくれ。変身の仕方はエクレールチェンジと言いながら胸元に当てる事だ」


「あ、ありがとうございます!」


「ふふ、君の活躍を期待しているよ。ブラックウィングの諸君!彼女は今日より戦闘員の一人として所属することになった変身ヒロインだ。仲良くしてやってくれ」


総司が戦闘員達に告げると、彼等は揃った声ではっ!と返答する。


「よろしい!それではブラックドラゴン、彼女の教育と今回の依頼…よろしく頼むよ」


「承知しました」


「では諸君!怪我のないよう職務を勤しんでくれ!」


そう言い残して総司は町の方へと向かうと、ブラックドラゴンは綾乃に話しかける。


「それじゃあ姫路さん。変身してくれ」


「は、はい!エクレールチェンジ!」


綾乃は総司から教わった方法で変身する。


エクレールチェンジャーを胸元に当て、キーワードを言うと、彼女を黒い稲妻が包む。


黒い髪は黄金のような金色の髪へと染まり、服装は黒を基調とし、所々に黄金色のラインの入る軍服の様なジャケットに同じく黄金のフリルのついた黒のスカート。



黒いガントレットとグリープで手足を守り、その両手には稲妻のモチーフが彫られた大型拳銃を握り、背中には2本の大型ナイフがマウントされている。


胸元にはエクレールチェンジャーを小型化したネックレスが装着され、後ろ髪には大きな黒のリボンが結ばれる。



「これが…私の新たな力……!」


綾乃は自分の新しい姿を見惚れながらヒーローライセンスを見る。自分のコードネームを知るために。


「ブラック、エクレール…黒き稲妻……」



綾乃、いやブラックエクレールは自分の名前を反芻して覚え込む。そして、ブラックドラゴンを含めた戦闘員達を見る。


「ブラックウィングの皆さん。私は、今日からブラックウィング所属のブラックエクレールです!若輩者ですが、これからよろしくお願いします!」


ブラックエクレールがお辞儀をしながら先輩達に挨拶をする。戦闘員達はこれからよろしく、と簡単に述べると、ブラックエクレールを歓迎する。


「よろしく頼む。ブラックエクレール。さとさてと、予想外のハプニングは起きたが、そろそろ警察の方も来てるはずだ。行くぞ」


「「「「はい!」」」」


ブラックドラゴンを先導にブラックエクレールを含めた戦闘員達が倉庫街に入っていく。


倉庫街はとても暗く、人の気配すら感じさせない程静かだ。


そんな中でブラックドラゴンはヘルムに備わっている暗視機能とマップ機能で、合流地点へと到着する。


そこには少人数ではあるが、身体を鍛え抜き、荒事に対応出来るであろう私服姿の警官達が居る。その中に柏木と佐藤も居た。


「警察の皆さんお待たせしました。ブラックウィング総勢12名。ただ今到着しました」


「やあ、ブラックドラゴン。今回は頼むよ」


「それで状況は?」


ブラックドラゴンは単刀直入に話を聞こうとすると、柏木が答えてくれた。


「今は犯人だと思う人物がこの先の倉庫内部に入っていくのを確認したところです。この後取引相手が来るのだと予想できます。その倉庫を気付かれないように確認したところ、正面と反対側に扉があります。そして、中を確認したところ……怪人が20体は居ました。EVILによる怪人へと変化した者たちでしょう。彼等を鎮圧する為の作戦を立てましたので、説明します」


柏木は作戦案を提示する。


作戦はこうだ。正面を警察とブラックウィングの戦闘員が抑え、裏からブラックドラゴンが突入し、怪人を殲滅する。


殲滅している間にEVILを取引する犯人達は正面から出てこようとするのを、取り押さえるシンプルな作戦だった。


「我々としては悔しいですが、多くの怪人と戦う力を我々警察は持っておりません。なので、ブラックドラゴンに頼るしかなく……」


「いえ、その為の俺ですから。皆はそれでいいな?」


ブラックドラゴンがブラックウィングの戦闘員達に問いかけると皆了承した頷きを得る。しかし、一人だけこの作戦に納得せず、提案をしてくる者が居た。


「いえ、私も師匠と共に突入します」


ブラックエクレールだ。


「私も一緒に行けば怪人の殲滅速度は上がると思います」


自分を連れて行けと、ブラックドラゴンを強い瞳で見つめる。しかし彼は首を横に振る


「ダメだ」


「何故ですか?」


「言っちゃ悪いが……君の戦闘力はまだ俺は把握していない。一つミスすれば大失敗に繋がる。そんな危険な場所に新人を連れていくことは出来ない」


「だったらこの作戦で、私の戦闘力を把握してください」


「……良いのか?もしミスをしたら首が飛ぶどころじゃないぞ?これは明王町とその周辺の町を守る為の作戦だ。絶対に失敗は出来ないんだぞ?」


「それでも一緒に行きます。多分……私が今日ここに呼ばれて、ブラックエクレールになったのには総統さんの思惑があると思うんです」



「思惑?言ってみろ」


ブラックドラゴンは命令口調ではあるが、真剣に聞く姿勢をとる。


「多分私がこの作戦に参加させてもらえたのは、師匠の為でもあります。所感ですが……総統さんは貴方の負担を減らしたいんだと思います。現に今の作戦も貴方頼りですし。少しでも良いから貴方と同等の存在をブラックウィングで作り上げたいんだと私は推測しました。それに…」


「それに?」


「私自身が師匠の力になりたいんです…ダメでしょうか?」


「……」


ブラックドラゴンはブラックエクレールの推測と思いを聞き、思考する。


(確かに今回姫路さんが呼ばれたことには疑問は有った。それに変身アイテムも今日みたいな重要な作戦の時に渡す必要もない。彼女の推測通りなら、父さんはブラックドラゴンのような象徴を生み出したいとも考えられる……)


ブラックドラゴンは総司の思惑を推測する。


仮にブラックエクレールの推測が正しければ、総司はブラックドラゴンの負担を減らしたいのだろう。だからこそこんな大一番の舞台にブラックエクレールを上げたのだと。


(それに、彼女の力を見てみたいしな……仕方ない)


そう考えれば総司の行動と彼女の想いに納得できたブラックドラゴンは一息着くと、ブラックエクレールに告げる。


「分かった。一緒に来い。お前の実力を見極める良い機会にさせてもらう」


「っ!ありがとうございます!」


ブラックエクレールはお辞儀をする程喜ぶ。そんな彼女の喜びにブラックドラゴンは喝を入れる。


「喜ぶな……これから先は戦いだ。冷徹に徹しないと勝てるものも勝てなくなるからな」


「は、はい!」


ブラックエクレールは体に力を入れて、緊張感を持つ。


「フォローはするから、お前は全力で怪人達を倒せば良い」


「分かりました」


「それじゃあ柏木さん。俺とブラックエクレールは裏口に回ります」


「よろしく頼んだよ」


「はい。行くぞ」


「はい!」


ブラックドラゴンはブラックエクレールを連れて裏口へと向かっていった。


二人の背中を見ながら柏木は呟く。


「あの子凄いね。ブラックドラゴンに物申すなんて。ベテランの警察官でも中々するのが難しいのに……」


その呟きに戦闘員の一人が頷く


「そうですね。あれで今日から入ったウチの新人ですから、将来有望ですよ」


「へぇ、そうなんだ。そんな新人が頑張るんだ。私達大人も頑張りませんとね」


「ええ。我々ブラックウィングの戦闘員一同、全力で事件解決に力を貸します」



柏木と戦闘員達は二人を見送りながら、犯人確保の準備を始めるのだった。

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