黒き龍はクズなヒーローに怒る
それは龍馬が家路の半分位まで歩いていた時。
龍馬の通る街道の先にある、交差点の先から怪人と思わしき存在がこちらに向かって走ってきている。
それは全身が黄色ベースの体毛に覆われつつも、所々黒の斑点があり、体毛の下からでもわかるほど筋肉の発達した体を持つ、豹の顔をした怪人なのだと、遠目から判別する。
「くそ!あの小娘まだ追いかけてきやがる!一人は巻いたがもう一人がしつこい!……ん?」
悪態を吐きながらも走る豹の怪人は龍馬の姿を見つける。立ち止まってる龍馬を見て豹の怪人は何かを思い付いたのか、ニヤリとした表情を浮かべ出す。
「あいつを人質にして、ここから逃げてやる!小僧!俺の為に人質になってもらうぞ!」
叫びながら龍馬へと接近する豹の怪人。ここで彼は何も疑問に浮かばなかった事を後悔するだろう。
何故、龍馬のような一般市民に見える少年が逃げないのかを。
それを知るのは……怪人が屠られた後だった。
「学生生活の一日の終わりを、邪魔するんじゃねぇよ……」
龍馬はため息を吐きながら、懐からドラゴニックバックルを取り出し、腰に装着する。
持ち手を握り、ブラックドラゴンへと変わるキーワードを口にする。
「ドラゴンチェンジ」
掛け声と共に持ち手を引き、ドラゴニックエンブレムを展開すると、黒い炎が龍馬を包み、その姿を、高校生の黒野龍馬から、ブラックウィング最高戦力のブラックドラゴンへと変化させる。
「へ、変身した!?ちぃ!予定変更だ!」
姿の変わった龍馬を見て、豹の怪人は踵を返して、進路を変える。
豹をモチーフとしているからか、その逃げ足はとても速く、ぐいぐい距離を離していく。はずだった。相手がブラックドラゴンでなければ。
「たかが、豹如きに、龍が負けるわけないだろ」
龍馬ことブラックドラゴンは豹の怪人の何倍もの速度で街道を疾風の如く駆け抜ける。
最初は距離が有ったが、ブラックドラゴンの圧倒的な速さで詰めていき、後数秒もすれば手が届く距離になった。
ブラックドラゴンは怪人を斬り伏せんが為に、右手で左腕にマウントされた太刀の柄を掴み、抜刀する。
「お前は……お前はなんなんだよぉ!」
抜刀音と日の反射で水面に映る太陽のように煌めく太刀を見て、豹の怪人は叫ぶ。
「俺の名はブラックドラゴン……明王町にて活動する組織、ブラックウィングの象徴だ。覚えておけ」
ブラックドラゴンは一段階速度を上げ、更に距離を詰めた所で豹の怪人を斬り裂き屠る。
「がっ!関わるんじゃ無かった……」
斬り裂かれた怪人は苦悶の表情を浮かべながら倒れていく。一度ピクリと痙攣した後は身動き一つしない。討伐完了だ。
「怪人なんてもんは……出来る事なら俺がブラックウィングの活動時に出てきて貰いたいが…そうは言ってられないか……ん?」
一人呟きながら太刀を納刀するブラックドラゴン。そんな彼の耳に足音と荒い息遣いが聞こえて来る。
(数は一人、息遣いからして女性か……気配の近寄り方からこちらへと向かって来ているな)
ブラックドラゴンは何者かの到来を待ち構えるように、最大限警戒する。そして、遂にこの現場へと現れる。
その人物は、昨日会ったジャスティスプリンセスだった。
「はぁ、はぁ!漸く追いついたわよ!パンサリオン!……あれ?倒されてる?」
目が点になりながらもジャスティスプリンセスは倒れ込む豹の怪人、パンサリオンを見ていた。
「えっ?誰が倒したの……?」
「俺だが?」
「えっ!?……あっ!ブラックドラゴンさん!ですよね?」
「合ってるぞ」
「良かったぁ……間違えてなくて」
「初対面では怪人と間違えていたしな」
「うぐっ。……それは、すみませんでした」
素直に自分の非を認めながら、プリンセスは謝る。謝る姿に罪悪感を持ちながらブラックドラゴンは話しかける。
「いや、もう済んだ事だから良いんだが…それより、この怪人、パンサリオンだっけか?こいつを追ってたのか?」
「あ!そうでした!実はー」
彼女がパンサリオンを追いかけてた経緯を話す。
パンサリオンは明王町の隣町で悪事を働いていたのをプリンセスともう一人ヒーローが駆けつけ、戦闘状態へと入り、パンサリオンを追い詰めた所まではうまく行けたが、隙を突かれて逃げられたらしい。
「そういう訳なんです」
「成る程…それで?もう一人はどこに?」
「もう一人とは連絡がついてるので、そろそろー」
「もうプリンセスちゃん探したよー」
ブラックドラゴンとプリンセスがもう一人について話していた時、へらへらとした口調で会話に割って入って来た人物がいた。
それは口以外を覆い隠す、赤を基調とした、白の縦線が2本入ったヘルムを被り、全身を赤のタイツで包み、赤の手袋とブーツを装着し、腰には西洋剣を刺している。
声からして男だろうその者はパンサリオンを見て驚く。
「お、俺らが追ってたパンサリオンじゃん。プリンセスちゃん一人で倒せたんだー。凄いねー」
「いえ!私ではなくてー」
「てかもう一人怪人居るじゃん。さっさとプリンセスちゃん倒しなよ」
「えっ?でもブラックドラゴンさんはー」
「バカなの君?特Sランクのブラックドラゴンがこんな所で活動してる訳ないでしょ。ほら早く倒した倒した」
面倒そうにブラックドラゴンを見るヒーロー。どうやらブラックドラゴンのことを知らない様だ。
そんなヒーローとブラックドラゴンを交互に見て、オロオロするプリンセス。
この二人を見ながらブラックドラゴンの中身、龍馬はため息をつく。
(はぁ……昨日といい今日といい、よく間違えられるな。やっぱり鎧のせいか?しかしー)
ブラックドラゴンは側から見れば確かに怪人に見えるという事を彼は知っている。子供が見れば泣くこともあるし、大人ですら腰が引ける人もいるが、それでもデザインを変えるつもりは無かった。何故なら
(父さんが長年かけて作った最高傑作。変えるつもりは一切ない)
ブラックウィング総統であり開発者でもある父総司が作り上げたこのブラックドラゴンを龍馬は愛しているからだ。
そんなブラックドラゴンを怪人扱いされるのは百歩譲って許そう。だが、龍馬が一番気に入らないことがこの場で起きていた。それはー
(怪人だと思ったのならテメーで倒しにこいよヒーロー。男が女の子に任せっきりってのが許せねぇんだよ。最初から彼女に任せるつもりで動いてた野郎が……)
後からヒーローは息切れせずヘラヘラ来たところからプリンセスとは違って追いかけることすらしてなかったと龍馬は確信していた。
現に今もプリンセス任せにしようとしている。そんなヒーローらしからぬ男に対して怒りの炎が燃え上がりかけていた。
そんなことを露知らず、プリンセスとヒーローは問答に入っていた。
「この人はブラックドラゴンさんです!昨日ヒーローライセンス見せてもらいました。なので、本物です!」
「今の時代、ライセンスも偽造出来るんだよプリンセスちゃん。大方騙されたんでしょ?最近のは巧妙だからねぇ」
「騙されてなんていません!」
「あーもうどうでもいいからさ、速く倒して帰ろうよ。彼女待たせてんだからさぁ」
必死にブラックドラゴンを本物だと説明するプリンセスの真剣な言葉をのらりくらりとかわしながら自分の大したことの無い目的のために急かすヒーローの言葉にプリンセスは唖然とする
「彼女……?」
「そ、だから速く倒してよ。そもそもプリンセスちゃんが逃さなければパンサリオンを追わなくて済んだんだしさー」
「私が逃した……?あれはソードさんが携帯を見てなければ逃がすことは無かったんですよ!」
ヒーロー、ソードに対して弾劾するように返すプリンセス。それに対してソードは面倒そうにしながら動く。
「あ、そんなこと言うんだ。ふーん……」
ソードは携帯端末を取り出すと、何やら操作しだす。すると、プリンセスに異変が起きた。
なんと、変身が解除されたのだ。
ピンクの髪は黒く染まり、コスチュームは龍馬の通う明王高校の制服へと変わると、その正体に龍馬は気付く。
(姫路綾乃……!?)
なんとジャスティスプリンセスの正体は今日転校してきた綾乃だったのだ。
「嘘……?変身が、なんで…」
「あー知らなかったんだー」
突然の変身解除に狼狽える綾乃に対して、何かをした張本人であるソードが説明する。
「ジャスティスセイバーのAランク以上にはある権限が有ってね。それは下のランクの所属者の変身権限と、所属履歴の抹消が出来るのさ。これは無闇に力の行使をさせない為にね。まあよく使われるのは、命令違反だけどね」
三日月のように釣り上がったソードの口元から発せられる声はとてもいやらしく、まるで楽しんでるようにも聞こえる。
「そんな……私!命令違反なんて!」
「したじゃん。そこの怪人を倒せと言った命令に背いたからね。これは正当な理由さ」
「……」
くつくつと嘲笑うソードの説明を聞いた綾乃は膝から倒れ落ちる。彼女の表情からは、深い絶望を感じさせる。そんな彼女を尻目にソードは剣を抜き、ジリジリと静観を決めていると思ったブラックドラゴンへと迫る。
「まあ俺が倒すことになったのはしょうがないけど、怪人倒せばボーナス貰えるし、悪いけど倒させてもらうよ!はぁぁぁぁ!」
剣を構えたソードはブラックドラゴンへと肉迫し、上段から剣を振るう。その一撃はかなりの速さで振られている。Aランク以上は伊達では無く、直撃をもらえばひとたまりもないだろう。しかし、ソードは相手を間違えた。
なんせ相手はブラックドラゴン。最高ランクの特Sランクを戦闘力のみで勝ち取った存在なのだから。
ブラックドラゴンは自身へと迫る剣の速度を見切り、左足を軸に後ろへ90度右足を引くことで回避すると同時に左腕の太刀の柄を剣に当てることで腕ごと剣を弾く。
「なっ!?」
ブラックドラゴンの動きと撥ね上げられた腕への痺れに驚くソード。それを無視してブラックドラゴンは右腕に力を込め左足をソードへと向けて踏み込むと、その拳を顔面、露出している口元目掛けて叩き込む。
「ぶべら!」
手加減一才無く、全力全開の拳を叩きつけられたソード情けない声を出しつつ、数メートル吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ道筋にはソードの歯らしきものがいくつか転がり、血痕も生まれていた。
ソードが大の字で倒れ、ピクピク痙攣しながら立ち上がる事は無いことを確認すると、ブラックドラゴンは閉じていた口を開く。
「これからは入れ歯で暮らしな」
そういうと、ブラックドラゴンは元ジャスティスプリンセスの姫路綾乃へと向かい、声をかける。
「なあ。一つ聞いても良いか?」
「……なんでしょう」
絶望感からか、体に力の入っていない彼女立つことすら出来ず、俯きながらブラックドラゴンからの問いかけに応じる。
それは彼女にとって意外な質問だった。
「お前、ブラックウィングに入らないか?」
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