黒き龍は町を守る
黒野龍馬の学生生活
黒野龍馬は日夜明王町の平和を守る悪の組織、ブラックウィングの構成員にして、最高戦力の一人、ブラックドラゴンである。そんな彼は平日は明王町内にある明王高校にて高校生活を謳歌する年頃の少年である。
ジャスティスプリンセスとの邂逅があった翌日。
龍馬は少し眠たげにしながら自分のクラスの教室前まで行くと、扉を開いて中に入る。
教室内は既に人が集まっており、何人かのグループがいくつか生まれ、そこで雑談している。
そんな光景を見ながら龍馬は自分の席に座り、授業の準備のために学生鞄から教材を取り出していると、声をかけられる。
「おはよう。龍馬」
「健吾か。おはよう」
龍馬に挨拶したのは宮本健吾。明王高校剣道部の期待の星で、大会では負け知らずの有段者だ。
見た目はスポーツマン溢れる体格と、オールバックの髪型がベストマッチな健吾は、柔かに笑みを浮かべる。
「今日は少し遅かったな」
「昨日色々あってな」
「バイトか?」
「まあ、そんなとこ」
健吾が話を振り、龍馬がそれに応える。それが彼等の日常である。ふと健吾が笑う。
「なぜ笑う?」
「お前はいつも通りだと思うとついな」
「それの何が悪い?」
「いや、いつも通りで良かったと思ってるだけさ。後、そういえば昨日、またはぐれの怪人が出たみたいたが……やはりブラックドラゴンが倒したみたいでな、話題になってるよ」
「そりゃ、三人しか居ない特Sランクだしな。話題にもなるさ」
「違いないな。俺たちの町の守護神でもあるからな」
「そうだな」
自分の事を話されると、少しだけ恥ずかしいが、こうして平和を守れてるなら良いかと思いながら龍馬は健吾と話していると、横から別の男子生徒に話しかけられる。
「二人とも転校生が来ること知ってるか?」
「「転校生?」」
「あー。やっぱり知らなかったか。誰がくるか気になるか?」
どうだ?聞きたいか?と言雰囲気を醸し出す男子生徒。普通の高校生なら気になるだろうが、龍馬と健吾は
「いや全然?」
「俺もだな」
我関せずな二人の反応に思わずずっこける男子生徒。
「なんでだよ!普通気になるだろうが!」
「いや、桐生。俺は別に剣道の事じゃない限りは殆ど関心は無い。」
「そもそも俺は興味が無い」
「それでも男子高校生かよ!寧ろお前らに興味湧くわ!」
キッパリ自分の意思を伝える龍馬と健吾に垢抜けた髪型で、標準的な体格の男子生徒ー桐生星矢ーは驚きながらも説明してくる。
「実はな、今日俺が廊下を通ってたらな。知らない女子生徒。それも凄い美少女が居てな。その子が職員室は何処かって聞いてきたから教えた時に俺は感づいたのさ!これは転校生が来るってな!」
「「へー」」
「反応薄いぞ!ったく!」
とてもテンションの高い星矢と、正反対の龍馬と健吾のやりとりは習慣と言っていいほど普段通りであり、周囲からはいつも通りだなぁと見られながらも、話が進んでいく。
「それで気になって職員室に言ったらよ!転校生の対応をしてたのがこのクラスの担任だったんだよ!それで俺はピーンと来たのよ!俺達のクラスに転校生が来るってな!」
「そうなのか」
「クラスが賑やかになるのはいい事だな」
「だろ!それでー」
星矢が更に話を続けようとした瞬間。始業のチャイムが教室内に響く。それと同時にクラスの担任である日野薫子が「ホームルーム始めるぞ、席につけ」と言いながら教壇に上がる。
「さてと、えー、今日はホームルームを始める前に、転校生を紹介します」
薫子の発言にザワザワしだすクラスメイト達。それに薫子は喝を入れる。
「静かにしなさい!……それじゃ入ってきて」
「はい」
薫子の合図で教室内に入って来たのは一人の少女。腰の高さまである黒髪に黒い瞳。制服を持ち上げるほど豊満なバストにヒップ。スラリとした手足とスタイルと整った容姿からまるで大和撫子と言えるような雰囲気を持ち合わせている。
そんな彼女に薫子はチョークを渡すと自分の名前を書いてくれと頼むと、少女は名前を書く。
そして書き終えると、自己紹介する。
「姫路綾乃と言います。これからよろしくお願いします」
微笑みながら会釈する姿からはどことなく品の良さを感じさせ、まるで何処かのお嬢様の様にも感じさせる。
「それじゃあホームルームの時間は姫路さんについての質問タイムにするから、好きにしていいわよ」
薫子がそういうと、綾乃に対して質問するための挙手が上がる。特に男子は龍馬と健吾以外がうるさくなるほど挙手している。
それに辟易しながら薫子は男子に対して無慈悲に告げる。
「あー。今回は男子は無しね。どうせ貴方達彼氏いるのかって聞くだろうしね」
的を得た薫子の言葉にガッカリする男子一同。そんな男子達に蜘蛛の糸を垂らすかのように希望を与える。
「あ、でも黒野君と宮本君なら質問していいわよ。君達ならふざけた質問しないでしょうし」
その一言で星矢含めた男子生徒達は龍馬と健吾を見る。その目からは質問内容はわかってんだろうな?ああ!?と雄弁に伝わってくる。特に星矢は龍馬を射抜くように強い視線を送る。
龍馬と健吾は席が隣だったので、相談しあう。
「どうする?」
「どうするもなにも、特に聞くことは無いしな」
「同感」
「なら、言うことは一つだな」
二人の心が一致したので、声を合わせて薫子に伝える。
「「特にないです」」
「「「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」」」
龍馬と健吾のキッパリとした物言いに星矢含めた男子生徒達は怨嗟の叫びを響かせる。その煩さから龍馬と健吾を含めた残りの生徒達は耳を塞ぐ。
「黒野!お前は男としての本能は無いのか!?」
「宮本!いくら剣道バカと言えども、他に興味持てよ!」
等と男子生徒達は縋るように言うが、
「そんなこと言われてもなぁ」
「確かに剣道バカだが……酷くないかその言い方……」
二人はあまり乗り気ではない。本当に興味がないのだから。
「それじゃあ男子は終わりにして、女子は何か聞きたいことあるかしら」
龍馬と健吾の意見を尊重した薫子は女子生徒達に話をふると、すぐさま質問会が始まった。
「どこから来たんですか?」
「関東からです」
「めちゃくちゃ綺麗だけど化粧品とか使ってるの?」
「いえ、使っていませんが」
「彼氏とか居ますか?」
「居ませんよ」
等と女子からの質問に答える綾乃。最後の質問には男子も歓喜の乱舞をしていたが、すぐさま薫子から喝を入れられ、沈黙する。
そうこうしているうちに、ホームルームの時間が終わり、綾乃は女子のクラス委員長の隣の席へと案内され、授業が始まった。
昼休み。
授業の半分が終わった頃に来る長めの休み時間。学生達はこの時間を利用して学食や購買、または持参した弁当を楽しむ憩いのひと時。
転校生の綾乃目当てに沢山の生徒達が集まっていた教室を出て龍馬、健吾、星矢は屋上で昼食を取っていた。
屋上には三人だけでは無く、他にも何組かの生徒もいるが……
それを星矢が血涙流しかねない程睨んでいた。
「ちくしょう……なんでここにはリア充共ばかり居るんだよ!」
そう、星矢は見た目は整っており、垢抜けた髪型とマッチしてるのが幸いしたイケメンの類いではあるのだが、口を開くとボロを出してしまう所謂残念イケメンなのだ。
そう叫ぶ星矢を横目で見ながら、昼食を頂く龍馬と健吾。この二人はマイペースに会話していた。
「お、その卵焼き美味しそうだな」
「ああ、今日の卵焼きは会心の出来でな。良かったら一つ食うか?」
「頂こう」
「なら、ミートボールと交換でどうだ?」
「良いぞ」
「てかお前ら我が道通り過ぎてるだろ!せめてなんか俺に対して言ってくれよ!」
お互いの昼食のおかずを交換してる二人に対して星矢が構ってくれと言ってくる。
「いつもの事だしな。毎回構ってたら疲れる」
「同じく」
「冷てえぞ!それでも親友か!?」
「親友だからこそできる技でもある」
「そうだな」
「流石親友だよこんちくしょう!……んで?転校生の姫路さんの話になるけどよ。ぶっちゃけた話、タイプかお前ら?」
話を変えた星矢は少しだけ真剣な表情で聞いてくる。健吾はわからないが、龍馬はタイプは別として、少しだけ女子に求めるものがある。それは
「あれで何処かのお嬢様なら尚いい」
「でたよ。お嬢様求める発言」
星矢が龍馬を半目で見ながらため息をつく。
そう、この男。黒野龍馬は星矢が呆れるくらいお嬢様を求めている。何故そうなのかというと
(金持ちのお嬢様と結婚出来ればブラックウィングのスポンサーになってもらい、皆にもっと給料出せるかもしれないからな)
自分の家族が運営するブラックウィングのスポンサーを求めてるほど現実主義を持ち合わせているのだ。
龍馬はブラックウィングの地域密着型の組織運営は素晴らしい事だと思っているし、このまま続けて行きたいとも考えている。しかし、現実問題、収入源が龍馬ことブラックドラゴンを含めた十人の戦闘員によるはぐれ討伐と、各種依頼の報酬と、龍馬個人に来る仕事しかないのだ。
(世知辛い話……俺にはまともな恋愛するよりも、皆の生活守るための政略結婚か見合いのが良いんだよな。それなのに家族は普通の恋愛しろと勧めてくるし……)
溜息を吐きたくなるような思いを胸に秘めながらも龍馬は二人と昼食を食べきり、教室に戻ろうとする時。
ピリリリと龍馬の携帯端末に連絡が入る。
「ん?電話か?」
「ああ。悪いけど先戻っててくれ」
「わかった」
「また後でな」
先に健吾と星矢を教室に戻すと、携帯端末の連絡先を見る。そこには龍馬が見慣れた相手からの着信だった。
応答のボタンをタップして電話に出る。
「はい。黒野です」
『やあやあ龍馬君久しぶりだね』
「どうしたんですか?嘉門さん」
『実は今週の日曜日にモデルの仕事が有るんだけど、良かったら龍馬君にやって貰えないかなって思ってね』
「そうでしたか」
龍馬の電話相手は嘉門立美。明王町のある地域の都心部にマネジメント関係の事務所を構え、龍馬によく芸能関係の仕事を持ってくる女性で、ブラックドラゴンの正体を知る数少ない人物でもある。
「俺なんかで良いんですか?前も言いましたが、顔とか普通だからあまり芸能関係では映えないかと……」
『普通だったら持ってこないわよ。普段は顔隠してるから皆知らないだろうけど、とてつもなく美男子なのよ貴方。それでいて謙虚で、接しやすい子でこちらのオーダーをしっかりこなす子なんて滅多にいないし、こないだなんてマネジメントしてくれって頼まれた子を連れて現場行ったら大失敗の連続だったし。ああ、違約金はたんまりもらったから良いんだけどね』
電話先の立美の声からは少しお怒りと疲れ気味の気持ちを感じながらも龍馬は受け答えする。
「大変そうですね」
『そうなのよ。その点、龍馬君を連れた仕事は全部上手く行ってるし、私としてもやりやすいから良いのよね』
「言っちゃ悪いですが、依頼料かなり良いですからね嘉門さんは。俺は受けた仕事は必ずこなすだけですが」
『そのプロフェッショナル精神を持ち合わせてるのも高評価なのよ。貴方みたいな歳の子は自信家の割に基本が出来ない事多いし、流石は特Sランクのブラックドラゴンの中身ね』
「お世辞はその辺で……それで?場所と時間は?」
『あら、つい愚痴に夢中になっちゃったわ。えっとね。日にちは今週の日曜日。時間は13時、場所は明王駅前で集合でどうかしら?』
「分かりました」
『それじゃあよろしくね』
「よろしくお願いします」
それじゃあねと言われ、電話が切れるとすぐさま龍馬は手帳を取り出して立美との依頼と打ち合わせの内容を記入すると、自分の教室に戻った。
その際星矢からは彼女からの電話かと揶揄されたが、違うと否定してその場を乗り切った。
そして授業全てが終わり、学生達は部活やバイト、塾等それぞれの時間の使い道に奔走する中、龍馬は一人、帰路についていた。
健吾は部活、星矢はバイトがあるので、帰りはいつも龍馬一人だ。
彼の日常はいつもこんな感じで過ぎていく。今日は少し違って転校生や依頼があったが、基本的には平凡な一高校生として普通の青春時代を過ぎていくのだが、もしこの日常に邪魔者が現れるとしたら、その者はー
黒き龍に屠られるだろう。
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