黒き翼は今日も平和を守る

SIXX

プロローグ

時は2XXX年。


特撮でお馴染みのヒーローや変身ヒロイン達が空想ではなく、現実で活躍しているこの時代。


正義があるならば、悪もあると言わんばかりに悪の組織も暗躍していた。


そんな中で、一つの悪の組織「ブラックウィング」が今日もまた、今後の活動の為の会議をしていた。



「これより!第25回!正義の味方が我々悪の組織ブラックウィングと戦ってもらうにはどうすれば良い?会議を始める!」



「「イェーイ!」」


「……はぁ」



ここは悪の組織ブラックウィングの会議室と言う名のリビングで、総統「黒野総司」が会議の始まりを宣言し、総司の妻である「黒野遥香」とその娘「黒野香澄」が拍手しながら叫び、

同じく総司と遥香の息子であり、香澄の弟の「黒野龍馬」が溜息をつく。


「どうした龍馬?溜息なんかついて」


「いやさあ……」


総司の心配を他所に、龍馬は口を開く。


「うちの組織、どちらかと言うと正義の味方みたいな事やってね?」



「「「!?」」」


「驚くことか!?」


家族がええっ!?っと表現する様な反応に思わずツッコム龍馬は更に溜息をつくと、頬杖をつきながら半目で総司を見ながら説明する。


「だってうちの組織のやってる事って、町内の清掃や警備だったり、警察と共同したパトロールで安全を守ったり、女性の夜道での帰り道の護衛依頼を受けたり、地上げ屋などの悪い手口で生活を脅かそうとする奴らの排除だったりと、主な活動からして悪の組織じゃ無いだろ……それに俺のメインの仕事だって正義の味方みたいなものだし」


そう、ブラックウィングは明王町に密着した活動をしており、龍馬の言った事をメインに、人々の平和を守っている自称悪の組織なのだ。


龍馬の的を得た意見に総司は反論する。


「それは私達の活動拠点である地域を、他の悪の組織の幅を利かせないためにも必要な事だし、それにご町内の人たちからの信頼を得てるからこそ活動出来てるのもある。寧ろ正義の組織よりも有り難いとも言われるが、ブラックウィングは悪の組織なのだ!これだけは譲れん!」


「そうよ!ブラックウィングは歴とした悪の組織よ!」


「寧ろ他の組織は私達の活動真似して欲しいくらいだよね?」


「そもそもご町内からの信頼を得た活動の時点で悪じゃねぇよ……」


総司の鉄の様な意思を肯定する様に遥香は頷き、香澄はブラックウィングの活動が正しいと発言し、龍馬は深い溜息をつく中、着信音が鳴り響く。


「誰だ?会議中にマナーモードにしてない奴は?」


「ああ、ごめん。俺だわ…もしもし」


総司に詫びを入れながら龍馬は電話に出る。



『ブラックドラゴンさん!明王町3丁目で救援要請です!至急!現場に向かって下さい!』


どうやら龍馬への助けを求める電話だった。


「分かった。直ぐに向かう。父さん。行ってくる」


「しっかり町内と人々を守ってくるんだぞ」


「だから悪の組織が言うセリフじゃ無いって……分かってるよ」


龍馬はそういうと、リビングを出て行く。


「……なんだかんだ、龍馬が一番ブラックウィングの活躍してくれてるよな」


「そうね。あんなにも真面目で良い子なんだから、彼女とか居ても不思議ではないわねー」


「居そうに感じるが……居ないと仮定して、龍馬に彼女が出来るとしたらどんな子だろうな」


「きっと龍馬と似て、真面目な子だと思うかな、私は。具体的に言うと、正義の味方の子とか」


「はっはっは。もしそうなら、お父さんから香澄にお小遣いをあげようではないか」


「言質取ったからね」


「構わんよ。それに、龍馬に寄り添ってくれる子なら私達も大歓迎だしな」


「そうね……あの子、自分を犠牲にするところがあるし」


龍馬の居ないリビングで和気藹々と話す三人。今日も今日とて、会議は進まないのだった。




話は変わって、龍馬へと視点は戻る。



龍馬は家を出て道路を走りながら、上着の懐からある物を取り出す。


それは長方形の機械的な物で、バックルの様な形をしており、中心はひっくり返せる様な形になっており、片側には引っ張れる様な持ち手が付いていた。


龍馬はそれをードラゴニックバックルーを腰に当てると、バックルからベルトが飛び出し、龍馬の腰を一周すると、先端がバックルに突き刺さり、固定される。


そして龍馬がバックルの持ち手を握りながら叫ぶと同時に引っ張る。


「ドラゴンチェンジ!」


持ち手を引っ張ると、中心部がひっくり返り、龍をモチーフにした紋章ードラゴニックエンブレムーが展開されると、龍馬の体を黒い炎が包み込む。


その炎が消えると、龍馬は黒い鎧をその身に纏う。


所々エッジの効いた仕上げの鎧の背中には翼を折り畳んだ様なシルエットの装甲とマント、ヘルムは龍の顔を人に合わせたかの様な形、腕には長めの太刀が両腕にマウントしているその鎧はまさに、戦う為の力の化身だった。


鎧を纏った龍馬ーブラックドラゴンは背部の翼を広げる。翼を2度バサバサと動かすと、風を地面に叩きつける様に羽ばたき、龍馬は空を舞う。


空を飛びながら彼は状況を聞くために鎧に仕込まれた無線を開く。


「こちらブラックドラゴン。状況はどうなっている」


『こちら、ブラックウィング第三部隊。蜘蛛をモチーフにした怪人が逃走中。はぐれと思われる。ブラックドラゴンさんには先回りをして貰いたい』



「了解した。……最近多くなってきたな、はぐれ怪人。これも無意味に悪の組織の本部を叩く正義の味方の尻拭いってやつか」


龍馬は一人呟く。


この時代の悪の組織は多数あり、その殆どが怪人の製造を行い、人々を苦しめている。それを打破するための本部攻撃なのだろうが、実際はその影響で、はぐれとなった怪人が多数生まれ、被害が増える現状だった。


(まあ、現実問題。国から怪人を倒す組織として認められてるからお金は貰えるし、良いんだけどな……組織の運営にはお金も必要だし)



現実的な考えを浮かべながらもブラックドラゴンは空を飛び、現場へと到着する。空から見ると、確かに蜘蛛をモチーフにした、背中に8本の足を持つ人型の怪人が軍服の様な黒い服装に包まれた者達に追われてるのが見える。どうやらブラックウィングの構成員が追跡してるようだ。



ここで真の悪の組織なら、怪人を保護するか助けるだろうが、ブラックウィングは明王町の安全を脅かすやもしれない存在を許さない。



故に、ブラックウィングの戦闘員の一人にして、最高戦力のブラックドラゴンに要請して、討伐するのが確実な安全を守れるのだ。



彼は状況を確認するや否や、急降下し、蜘蛛の怪人の進路を塞ぐ様に降り立つと、左腕の太刀の柄を掴む。



「邪魔だぁ!どけえ!」


蜘蛛の怪人は龍馬目掛けて糸を放つが、それが鎧へと到達する前に黒い炎が焼き尽くす。


「なに!?」


炎に驚く怪人を他所に、ブラックドラゴンは駆け出す。そして龍馬は怪人と交差する瞬間を狙い、抜刀、左下から右上に斬り上げる。



怪人がブラックドラゴンの横を通り過ぎると同時に斬り裂かれた場所はズレ落ち、倒れ込む。討伐完了だ。


「ふー」


彼が一息ついていると、構成員の一人がこちらへ向かってきた。


「お疲れ様です。ブラックドラゴンさん」


「そちらこそ、よく追跡してくれた。お陰で被害が出る前に倒せた」


「いえ!これが我々の仕事でありますので!寧ろドラゴンさんのその強さにはいつも感謝しております!」


「はは、そう言ってもらえると助かる……ん?」


ブラックウィングの構成員と話しながら龍馬が太刀を納刀していると、背後から人の気配がした。


ブラックドラゴンが振り返ってみると、そこに居たのは一人の少女。腰の高さまであるまるでアニメキャラの様なピンク色のロングストレートに、これまたピンクと白のコントラストが綺麗なゴスロリ服に身を包み、まるで魔法少女が持つ様なステッキを持っていた。


そんな彼女は彼を指差し


「見つけました!龍怪人、ドラゴニル!」


と叫ぶ。そんな彼女を見ながら構成員達はヒソヒソ話す。


「あの子……ドラゴンさんの名前間違えてる……頭大丈夫かな?」


「最近の若い子ってよく分からないから……」


「それ言ったら先輩若くない……」


「確かに」


「なんか言った?」


「「い、いえ!何も!」」


等と、コントをしていると、龍馬が魔法少女?に問いかける。


「ドラゴニルとはなんだ?」


「えっ?貴方自分の名前覚えて無いんですか!?」


「いや、俺の正式名称はブラックドラゴンなんだが……一応国にもその名前で登録してるし。これ、ライセンス」 


「えっ?ええっ!?」


龍馬の発言と見せられた免許証みたいなカードに思わず狼狽える少女。彼女は「ちょっと待ってください!」と言うと、後ろへ向き、服のポケットから携帯端末を取り出していた。どうやら調べるみたいだ。


彼女が龍馬ことブラックドラゴンについて調べている間、構成員達に龍馬は「後は任せろ」と言うと、本来の職務ーパトロールーに戻らせた。


それから約5分後。


「すいませんでした!」


彼女から謝られる龍馬の図が出来た。



「私としたことが、まさかヒーローライセンス……それも特Sランクのブラックドラゴンさんと、怪人を間違えるなんて……!本当にすいませんでした!」


頭が千切れるほどの勢いで頭を下げる彼女に、ブラックドラゴンは溜息を吐きながら話す。


「……俺は他に居る特Sランクの二人の様にメディアには出てないしな。認知度が低いのは当たり前だ。だから君が謝ることは無い」


そう、龍馬ことブラックドラゴンは日本ヒーロー活動ライセンスの中でも最上位、特Sランクに位置しているのだ。


ヒーロー活動ライセンスとは、日本で悪の組織の怪人やその本部を倒すときに必要となる許可証で、これが無いままヒーロー活動をすると無免許ヒーロー活動執行罪で捕まるのだ。


龍馬の所属するブラックウィングの構成員が蜘蛛の怪人を追跡してただけなのはこれが理由でもある。


龍馬はブラックウィングの活動のために仕方なく取ったのだが、数多の怪人を連れた悪の組織「ダーク」が明王町へと侵攻してきた時に他のヒーローでは出来ないような一騎当千の活躍と、「ダーク」本部の完全破壊及び、全怪人の討伐を単独で成功したことから、龍馬ことブラックドラゴンは特Sランクの座についている。



他の二人の特Sはアイドル活動をやっているが、龍馬は地域密着の仕事しかしてないので知名度は三人の中ではかなり低い。


それでも知る人は知るブラックドラゴンの強さと鎧のカッコ良さからファンがいる事を龍馬は知らない。



そんな龍馬から許しを得た少女はお礼を言いながら「あっ、そう言えば自己紹介がまだでした」と言うと自己紹介する。


「私は「ジャスティスセイバー」所属のジャスティスプリンセスです!まだヒーローランクはBですが……」


「「ジャスティスセイバー」か……あの大手の組織に入っているのか。競合多い中でBランクは中々だな」


ジャスティスセイバーとは、このヒーロー変身ヒロインが本格的な活動する前から有った組織で、今みたいに悪の組織が増える前から人々を守ってきた、まさに正義の組織の体現とも言える組織に所属している彼女ジャスティスプリンセスは相当な実力を持っている事が分かった。


「はい!まだまだ新参者ですけど……」


ジャスティスセイバーに所属している事を誇らしそうにしているプリンセスを見ながら。ブラックドラゴンの中身である龍馬は彼女が正義感あふれる少女なんだと思ったのと、それ以外にも、彼女の瞳からは自分への憧れと、もう一つ別の何かを感じていた。


(こういう子は応援したくなるな)


と思いながらも、プリンセスに別れの言葉を告げる。


「それじゃ、俺は今回の怪人討伐の報告あるから…」


「はい!それではまた!」


と言ってプリンセスは走り去って行く。それを見送った龍馬は怪人を回収した後、自宅でもあるブラックウィングの本部へと戻り、報告書をまとめ出した。



国への報告書を書き終え、担当の構成員に渡した後、夕食と風呂を終え、自室に戻ると、ベッドに転がる。


「ふぅ……今日も疲れたな」


まるで社会人の様に呟く龍馬は天井を見ながら今日の事を反芻しながら目を瞑る。


(はぐれ怪人は出たが、それ以外はいつも通りで良かった……いや、少しだけ違ったか)



ジャスティスプリンセス。その存在が現れた事だけは普段通りではなかったが、それ以外は特に何も無くて良かったと安堵しながらも襲いかかる睡魔に身を任せて、意識をシャットアウトした。



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