俺が大好きな女の子と付き合うためにクラスのギャルを脅して協力させて幸せになる話

サンボン

俺が大好きな女の子と付き合うためにクラスのギャルを脅して協力させて幸せになる話

「やあ、よく来たな」


 俺は放課後の、しかも誰もいない教室に、クラスメイトの“葛城菜月“を呼び出した。

 場所と時間を指定した内容の手紙を下駄箱に入れてな。


 もちろん、それだけで彼女が怪しげな手紙の呼び出しに応じるわけがない。

 だから手紙には一文を加えてある。


『俺はお前の“秘密“を知っている』


 と。


 その結果、案の定彼女はノコノコとここに来たという訳だ。


 そして今、彼女は忌々しげな、それでいてなぜか恥ずかしそうな、そんな表情を浮かべていた。


「…………………………」

「だんまりか……まあいい。お前が毎朝この教室でコソコソと何かしてるってことは前々から知っている。で、だ。俺がお前を呼び出した意味、分かってるよなあ?」


 すると、葛城は俺をキッ、と睨む。


「……なんなの、早く言いなさいよ」

「ああん? それはお前の”秘密“についてか? それとも、ここに呼び出した理由か?」

「そんなの! 両方に決まってんでしょ!」


 ハハ、そんな啖呵を切ったところで、主導権はコッチにあるんだ。

 別に怖かねーよ。


「おおこわ。さすがはクラス一のギャルであらせられる葛城さんは違いますなあ?」

「っ! いいからさっさと……!」


 そんな皮肉を一つ返してやったら、癇に障ったのか眉根を寄せながら俺に突っかかってきたので、俺はそれを手で制する。

 あまりこれ以上逆なでするのは得策じゃないからな。


「オーケーオーケー、じゃあまず、お前の”秘密“についてだが……」


 葛城の息を飲む音が聞こえる。


「……それについてはまだ言えないなあ? ま、あえて言えるとすれば、“朝の教室”。ここまで言えば、お前も理解できるんじゃないか?」

「っ!?」


 フン、図星だろう?

 お前のその態度が、ソレを肯定しているようなものだ。


 俺は自分の優位性を改めて確認し、いよいよ本題に入る。


「次に、俺がお前を呼び出した理由……それは、お前に協力してもらいたいことがあるからだ」

「協力?」


 そう言うと、葛城は訝しげな表情で俺を見る。


「ああ。実は、俺はクラスメイトのとある女の子に恋をしている……」

「……それで?」

「俺はなんとしてもその子と恋人同士になりたい。だから、お前にその手助けをして欲しい……簡単だろ?」


 すると、なぜか葛城は悲しそうな表情になり、視線を床に落とした。


「……嫌だと言ったら……?」

「そりゃもちろん、お前の“秘密”をクラスのみんなにバラすだけだ。もちろん、断らないよな?」

「…………………………」


 そう言うと、葛城は押し黙った。

 悔しいのか、少し肩を震わせながら。


「オーケー、その沈黙は肯定と受け取ろう。で、早速だが、女の子についての情報が知りたい」

「はあ? だったら早くその、ア、アンタが好きな奴……教えなよ。ま、まあ、と言ってもアタシはクラスで浮いてるから、大した情報はないけどね」


 な!? コイツ馬鹿じゃないのか!?

 そんなこと、この俺がこの場で言えるわけないだろ!


「いいいいや、そそ、それは言えない! と、とにかく! 俺が聞きたいのは、一般的な女の子が好きなものだったり、流行ってるものとかが知りたいだけだ!」

「はあ……そ、それならまあ、いいけど……」


 すると、ようやく観念したのか、葛城は渋々了承した。


「よし! じゃあまず……」


 俺は女の子について、葛城から根掘り葉掘り聞いてやった。


 好みの食べ物、流行のファッション、話題のスポット、好かれる行動や嫌われる行動、女の子から好かれる男のタイプ等々……。


「……なるほどなるほど。で、お前はどうなんだ? そういったスイーツは好きなのか?」

「アタシは好きだよ。休日はよくスイーツ巡りしたりするからね……って、別にアタシの情報なんて聞いても仕方ないだろ?」

「いや、非常に参考になる」

「……そうかよ」


 葛城は恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてそっぽを向いた。


「さて……大体情報は揃ったな。要は、清潔感のある髪型と服装をして、基本的に女の子の話を真剣に聞いてあげて、デートではちゃんと女の子をエスコートして、さりげなく気遣ってあげて、女の子の意見は尊重しつつ決めるべきところはしっかりと決断して、初デートで映画はできれば避けて、ウインドウショッピングに付き合いつつ、疲れたら美味しいスイーツを食べに行って……といったところか……」


 おおう……なかなか要求が高いな……。

 だが、葛城がそう言ったんだ。これこそが正解なんだろう。


「……なあなあ、いい加減教えてよ。その……アンタの好きな女の子って誰なのか……」


 フン、そんな頬を赤らめながら上目遣いで尋ねたところで、俺はその手には乗らんぞ!


「それは言えん! そんなことより!」


 俺はビシッと彼女に向かって指差す。


「いくら知識を得たところで、使わなければ意味がない……つまり」

「つまり?」

「次は実践だ! ということで葛城、今度の日曜朝十一時、駅前に集合な」

「ハ、ハアッ!?」

「何を驚いてるんだ?」

「チョ、チョット待ちなよ! なんでアタシがアンタとデートする流れになってるんだよ!?」


 コイツは何を言ってるんだ?

 今の話の流れから、そうなるに決まってるだろう。


「というか聞いてなかったのか? 実践を積まなきゃ話にならんだろうが。とにかく、異論は認めん!」

「むうううう………!」


 フン、そんなに肩を震わせたところで、俺の指示は変わらんよ。


「ということで、今日のところは話は終わりだ……っと、大事なことを忘れていた」

「まだあるのかよ!?」


 油断したな、バカめ。

 というか俺も油断して忘れてたけど。


「ホレ、お前のRINEのIDを教えろ」

「ハア!?」

「何を驚いてる。連絡先を交換したほうが、万が一の時に都合がいいだろ」

「い、いや、そりゃそうだけど……」


 なんだよ、たかがRINEのID交換するだけでモジモジしやがって。

 俺だって女の子とRINE交換なんてドキドキなんだぞ。


「ホレ、早く」

「わ、分かったよ!」


 葛城はカバンからスマホを取り出すと、RINEアプリを操作してQRコードを表示する。


「ホ、ホラ……」


 葛城がおずおずとスマホを差し出すと、俺はQRコードを読み取り、さっそくスタンプを葛城に送った。


 ——ピコン。


 うむ、ちゃんと届いたな。


 葛城は届いたスタンプをまじまじと見つめ、なぜか口元を緩めた。

 アレ? 俺のスタンプ、そんなに変だっけ?


 まあいいや。


「ということで、日曜日の朝十一時に駅前、忘れるなよ? 来なかったら……」

「分かってる、ちゃんと行くよ……」


 葛城の承諾の返事に満足すると、彼女を残し、俺は教室を出た。


 ◇


「全くもう、なんなのアンタ……毎日RINE送ってきてはやれ当日の天気はどうだの、何着て行けばいいかだの……」


 日曜日、待ち合わせ場所に来るなり、葛城は開口一番、そんなことをいいながら肩を竦めやがった。


 よろしい。ならば、俺も言わせてもらおう。


「俺は本番で失敗しないようにするため、綿密にシミュレーションしただけだ。それよりお前こそ何だよ。毎度毎度授業中におもしろスタンプ送りつけやがって。おかげで笑い堪えるの大変だろうが」

「あはは! 何よアンタ、ウケてんじゃない」

「うるせー」

「それよりさ、その……」


 ああ、もちろん俺は葛城が何を求めているか分かっている。

 何せ、様々な文献を読破し、予習復習に余念もない。

 知識だったら、どこぞのイケメンすら凌駕する……はずだ。


「ああ……すごく似合ってるよ、葛城」

「あ……えへへ……」


 俺が葛城の服装を褒めると、彼女は嬉しそうにはにかんだ。


 だが、実際に葛城のコーデは完璧だった。


 肩口が露出したフィッシュテールの淡い水色のワンピースに、白のノースリーブのインナーで合わせ、黒のウェッジソールサンダルを履いていた。


 なんでこんなにファッションに詳しいかって? 勉強したからだ。


 だけど、少し意外だったな。

 俺はてっきりギャルっぽい服で来るんだと思ってたんだが。


「それよりさ、今日はちゃんとアンタがエスコートしてくれるんでしょ?」

「もちろんだ。そうでなかったら、実践の意味がない」


 すると、葛城は一瞬だけ切なそうな顔になるが、すぐに気を取り直すと。


「あ……うん、じゃあさこうしたほうが良くない?」


 そう言って、俺の手を握った。

 いわゆる恋人つなぎというやつだ。


「あ、ああ……そそ、そうだな」


 くそう葛城の奴! お前はこんなの慣れてるかもしれんが、俺は所詮知識のみの男なんだぞ!


 女子と手をつなぐのなんか、幼稚園時代を除けば体育祭のオクラホマミキサーくらいしかないわ!


 俺はチラリ、と隣に並ぶ葛城を見る。


 すると、葛城は顔を赤くしながらはにかんでいた。


 くっ! 俺は屈しないぞ!

 最後までシミュレーション通りに進めるのだ!


「じゃ、じゃあ行くぞ!」

「う、うん」


 ◇


「いやー! 水族館楽しかったな!」


 ファミレスで遅めの昼食を取りながら、葛城が嬉しそうに話す。


 俺は今日のデートコースとしてビルの上にある水族館をチョイスした。


 何でも、水族館という場所は静かで休憩できる場所も多いし、空気を変えたい場合は他の水槽を巡ればいいし、イベントも充実してるしで、いいこと尽くしらしい。


 俺はそのアドバイスに従ったわけだが、葛城が予想以上に食いつき、終始はしゃぎっぱなしだった。


 やれペンギンの水槽が見たいだの、サメと小魚が一緒の水槽で食べられないのかだの、一緒にいる間、ずっと会話が尽きなかった。


 いや、それは今も同じか。


「はあ……ペンギン可愛かったなあ……家で飼えないかな?」

「無理だろ。過ごしやすい環境を整えるだけでもなかなか大変だしな」

「うーん、そうかあ……といっても、家はペット禁止だから元々飼えないんだけど」


 そう言うと、葛城は「残念」と呟いた。


「ま、マンションによっては鳥類なら飼えるところもあるみたいだけどな」

「イヤイヤ、いくら鳥類だからってペンギンはどうなの!?」

「えー、お前が言い出したのに」

「あはは! まーね!」


 うん、水族館の後の会話もちゃんと弾んでいる。ここもシミュレーション通りだ。


 そして俺達は楽しく食事を終え、同じビル内に併設されているショッピングエリアへ向かう。


 このビルは巨大な複合施設で、水族館のほかにも映画館やスポーツジム、様々なショップが立ち並ぶエリアがあるなど、人気のスポットだ。


 ここなら天気に左右されることもないし、トラブルが発生してもすぐに対処することもできる。まさにうってつけの場所だ。


 ということで、俺達はウインドウショッピングを楽しんでるんだけど。


「うわあ……可愛いなあ……」


 葛城は雑貨店にディスプレイされているクローバーをあしらったシルバーのペンダントを見ながら、目をキラキラさせている。


 ほうほうどれどれ……って、思ったよりも高くないんだな。


「うーん……買ってもいいけど、どうしようかなあ……」


 葛城はかなり気に入ったのか、そのペンダントを眺めながら思案している。


「……うん、今日のところはやめとこ」

「そうなのか? 見た限りかなり気に入ってたみたいだけど」

「うん。かなり後ろ髪引かれるけどね」


 そう言ってその場を離れるが、葛城は何度も振り返ってはそのペンダントを見つめていた。


「それより喉が渇いたからカフェに行こうよ!」

「ん、ああいいぞ……ってそうだった」


 せっかくここに来たんなら、ついでに欲しかったものを買っておくか。


「スマン、ちょっと買っときたいものがあるから、先行ってて。すぐに合流するから」

「え? それならアタシも付き合うよ?」

「い、いや、できればそれは……何というか、その、俺の趣味を知られたくない……」

「えー? なになに? エロいやつ?」

「違うわ! とにかく、後でな」

「ハイハイ」


 俺は一旦葛城と別れ、目的のものを買うと、すぐに葛城にRINEで電話する。


『用事終わった?』

「おう。今どこにいる?」

『えーと、西館の三階にあるカフェだよ。連絡通路のエスカレーターを乗れば目の前にあるから』

「了解」


 俺は通話を切り、スマホをポケットにしまう。


「さて、急がないと」


 俺は足早に葛城のいるカフェへと向かった。


 ◇


 夕方になり、俺達は複合ビルを出て駅に向かう。


 実践デートの最後として、俺は海の見える公園を選んだ。

 少し遠いが、そこから見える夜景は絶景で、デートの締めとしてはかなりのお薦めだそうだ。


 そう……告白をするならまさにここ。

 そこで告白すれば当然俺の恋も必ず成就するはずだ。


 ということで、俺のシミュレーションはまさに完璧……そう思っていた。


 俺達は駅前に着き、改札をくぐろうとしたところで、葛城が急に立ち止まった。


「どうした?」

「……ねえ、アンタの好きな人って、クラスの誰?」

「ななな、何を言ってるんだ!? 俺は言わないって言っただろ!?」


 何!? 急にどうしたの!?


「いいから答えてよ! 誰が好きなの? ……やっぱりあの子? “小鳥遊舞華たかなしまいか”?」


 “小鳥遊舞華”……葛城が告げたその女の子は、クラス……いや、学年でもトップクラスの美人だ。


 これまで多くの男子達が彼女にアタックしてはやんわりと断られ、見事に撃沈しているので、別名“微笑の撃墜女王”とも呼ばれている。


 確かこの前もバスケ部のイケメンキャプテンが来て、彼女にアプローチしてたなあ。


 などと考えていると。


「……そっか……やっぱり彼女が好「いや、違うぞ?」……そうそう違う……って、違うの!?」

「当たり前だろう。俺にだって選ぶ権利はある」


 そうなのだ。

 彼女はその容姿と明るい性格から多くの男子に好かれているが、俺は知っている。


 彼女、裏表が激しいんだよねー。


 だってさあ、クラスメイトが見ている前ではすごくいい子ぶって、色々面倒な仕事とか引き受けたりしてるけど、あれ、後で彼女のことが好きな他の男子にやらせてたりしてるんだよなあ。


 なにより……。


「そ、そうなんだ……」


 彼女は俺の答えを聞き、安堵の表情を浮かべた。

 葛城もあの女の性格、知ってるんだろうなあ……だから心配してくれたのかな。


「そ、それじゃ、アンタの好きな人って……?」

「言わないとダメ?」


 正直何度聞かれても、今ここで答えたくないんだけど……。


「……アタシ、アンタが教えてくれるまでここから動かない……」

「ええー……」


 なんなの!? なんでここで嫌がらせするの!?


「……お願いだから、教えてよお……! そうじゃなかったら、アタシ、アタシ……!」

「ちょ!?」


 待て!? さすがに泣くのは反則だろ!?

 ホ、ホラ、通行人の皆さんも、俺達のほうをチラチラ見ていらっしゃる!


「あああああ!? いや、ええと、その!?」


 ダメだ……一向に泣き止む気配がない……。

 ……それに、俺も葛城のことを泣かせたいわけじゃないし……。


 仕方ない……シミュレーション通りにいかなかったけど、予定変更……だな。


「……葛城、分かった。言うよ……」

「っ!」


 すると、葛城は顔を上げ、その泣きじゃくった顔で俺をじっと見つめる。


 ああもう、クソ! 罪悪感半端ないんだけど!


「いいか、よく聞け……」


 葛城が息を飲む。


「俺は……葛城、お前が好きだ……」

「え……?」


 ああもう! せっかく今日のために色々シミュレーションして、最高の舞台で告白しようと思ったのにいいいい!

 そうすれば葛城も雰囲気に流されて、少しはチャンスが上がるかと思ったのに、泣かせてからの告白じゃ、マイナスじゃねえかああああ!


「ね、ねえ……それ、本当……?」

「……本当だよ」


 何だよ、どうせ断るんだろ?

 俺なんて、所詮はクラスにいるモブの一人でしかないしさあ、顔も普通だし、成績だって別に良いわけじゃないしさあ……いじけるぞ?


「……どうして?」

「へ?」

「どうして、アタシのことが好きなの……?」

「どうしてって、それは……」


 半年前、俺は学校の帰りに見ちまったんだよ。


 葛城、お前が捨て猫を撫でてるとこ。


 もちろんそれだけだったら俺も、カワイイ先行で無責任なことするよなー、で片付くんだけど、葛城はそれだけで終わらなかった。


 あの後、葛城はその子猫を抱えて動物病院へ行ったんだ。


 何で知ってるかって? もちろん後をつけたからだ!


 で、二時間くらいしてから、葛城は病院から出てきた。

 その手には捨て猫はいなかったけど、葛城は何度も何度も振り返っては、心配そうに動物病院を眺めていたのを覚えてる。


 それからもマメにその動物病院に通い、しかも、彼女は捨て猫の里親を探すために、チラシを作って配ったり、愛護団体に相談したりしていた。

 本当はクラスメイトに頼んだりできればいいんだろうけど、葛城は見た目がギャルなせいでクラスでも浮いていて、友達らしい友達がいないんだよなあ。


 だけど、頑張ったかいもあって、その捨て猫は無事引き取られていった。


 そのことを知った時の葛城は、嬉しそうな、だけど、少し寂しそうな、そんな表情をしていたのが印象に残っていた。


「……それから俺は、気がついたらいつも葛城のことを目で追ってたよ。そしたら、もっともっとお前の良いところが見えてきて、そして、もう俺は葛城のことしか考えられなくなってた」

「……そっか……けど、なんでそのこと、そんなに詳しく知ってんの?」

「あん? そりゃもちろん、その捨て猫の飼い主は俺だからな」

「ええ!?」


 そう。


 葛城の行動に胸を打たれた俺は両親を説得し、猫を家で飼うことを許してもらうと、捨て猫が預けられている動物病院に行って、捨て猫を引き取りたいと申し出た。


 ただし、葛城には引き取り主の情報を伏せてもらうことを条件にして。


 なんとなく事情を察したのか、動物病院の先生は快諾してくれた。


 そして今では、ふてぶてしいくらい我が者顔で家の中を闊歩してやがる。


「で、その猫の名前は“ニースケ”。保護されてた時にニーニー泣いてたからな」

「……良かった……」


 俺が経緯を説明すると、葛城は嬉しそうな表情を浮かべた。


「だからさ……俺、そんな葛城が……葛城さんが好きです。どうか俺と付き合ってください」


 俺は改めて告白し、全力で頭を下げた。


 や、俺、結果を聞くのが怖くて葛城の顔が見れない。


 すると。


「アタシも……アタシも、アンタのことが好き……だから、よろしくお願いします」


 そう告げる葛城の顔は、思いきり涙を流しながら、最高の笑顔を浮かべていた。


「こ、こちらこそ! よろしくお願いしましゅ!?」


 しまった!? 舌噛んだ!?


「プ……アハハハハ! もう、本当に締まらないなあ……!」

「し、仕方ないだろ! 本当は海の見える公園でもっとロマンチックに……」

「いや、別に場所は関係なくない?」

「うるせー! ……あ、そうだ」


 俺はカバンから、綺麗にラッピングされた箱を取り出すと、それを葛城に渡した。


「……これ」

「開けてみてよ」


 そう言うと、葛城はよく分からないといった表情で、丁寧にラッピングを外し、箱を開けた。


「あ……これ……」

「や、葛城気に入ってたみたいだったから、その……告白が上手くいったら渡そうと思って……」


 俺は恥ずかしくなって頭をポリポリと掻いた。


「嬉しい……アタシ、一生大事にする」


 そう言って、葛城はペンダントをキュ、と抱き締めた後、自分の首にペンダントを掛けた。


「どう? 似合う?」

「最高に似合う」


 俺はサムズアップしてそう言うと、彼女は照れくさそうに笑った。


「とりあえず、アンタは実は私のことが好きで、脅迫するっていう体でアタシの好みなんかを聞き出してデートに誘い、こうやって告白したかった……っていうのは分かったよ。しかし……メチャクチャ回りくどい」


 だって、面と向かって誘うの、恥ずかしかったんだもん。


「だけど、まだまだだね。アタシはこんなくらいじゃ満足できないから!」

「ええー……」


 葛城さんはこれ以上をお求めでいらっしゃると……。


「だから、これから覚悟してよね! “桜井みなと”!


 ◇


■葛城菜月視点


 アタシが桜井湊を好きになったのは一年前。


 彼とは高校で一年二年と同じクラスで、最初の印象はパッとしない男子だなってくらいしか思ってなかった。


 アタシはといえば、中学の時に両親が離婚した影響で、両親への反抗のためにこんなギャルみたいな恰好をしていた。

 だけど、クラスでも浮いた存在で、しかも根がギャルじゃないアタシはギャル達とも馴染めず、結局家にも学校にも居場所なんてなかった。


 そんな一年の秋、クラスで事件が起こった。


 文化祭のための資金が入った封筒がなくなったのだ。


 クラス全員で教室中を探したけど結局見つからない。


 そんな時、小鳥遊舞華がポツリ、と言った。


『ねえ……ひょっとして、葛城さんが取ったんじゃ……』


 そこからクラスメイトの疑いの目が一斉にアタシへと向けられる。


 そして。


『隠してるんなら早く出せよ!』

『大体、葛城ならやると思ったんだよねー!』

『ていうか、なんで学校に来てるの? いらなくね?』


 みんなの罵詈雑言がアタシへと浴びせかけられる。


 アタシはこれ以上耐えきれず、教室を飛び出そうとした。


 その時。


『お前等さあ、葛城が犯人だっつーなら、証拠見せろよ』


 みんなが私を非難する中、たった一人だけアタシを擁護してくれる人がいた。


『何言ってんだよ! 小鳥遊さんだって言ったろ! 葛城が犯人に決まってる!』

『だからあ、その証拠見せろって言ってんの。大体、小鳥遊さんもさあ、どうして葛城が犯人だって思ったの?』

『え? そ、それは……』

『それは、何?』

『桜井! 小鳥遊さんは何も悪くないだろ!』

『お前さあ、今自分が何言ったか分かってんの? なんで葛城は悪くて、小鳥遊さんは正しいことになってんの? そもそも、文化祭の資金を管理するのは誰の役目だったんだよ』

『だ、誰って……』


 ミナトの反論に口籠った男子は、思わずチラリ、と小鳥遊舞華へと視線を向けると、ハッとなってまた視線を逸らした。


『だよな。小鳥遊さんの担当だったよな。ならさ、もし誰かを責めなきゃいけないならちゃんと管理してなかった小鳥遊さんが責められるべきであって、無関係の葛城はとばっちり以外の何者でもないよな。ねえ? 小鳥遊さん』

『…………………………』


 小鳥遊舞華は、ミナトの言葉に押し黙る。

 だけどその顔は、ものすごく悔しそうな、恨みがましい表情だった。


『で? どうする? みんなで小鳥遊さんを糾弾するの? ま、俺は反対だけど』

『『『『『…………………………』』』』』


 クラスメイト達も同様に押し黙った。


『じゃあさ、もう一回みんなで探そうよ。こういうのって案外こんなところに!? っていうようなところから見つかったりするもんだしさ』

『そ、そうだな……』


 結局クラスメイト達はミナトの提案通り、再度封筒を探すことになったんだけど、結果は、小鳥遊舞華が自宅に置き忘れていただけというオチだった。


 それからアタシはミナトのことが気になりはじめ、いつしかミナトのことを目で追うようになり、気がつけばミナトのことが好きになっていた。


 ……好きになった経緯が、途中からなんだかミナトと同じみたいになってるけど、アタシのほうが先に好きになってるからね?


 そして。


「ほらほらニースケ、こっちにおいで!」

「いやいやニースケ、もちろん飼い主の俺のところにくるよな? な!」


 アタシは今、ミナトの家で、どっちのほうがニースケがなついているか、勝負をしていた。


 まあ結果は、三回やって三回ともアタシが勝ったんだけど。


「ところでミナト」

「んー?」

「結局ミナトのアタシを脅迫するネタって、何だったの?」


 アタシは三回目の勝利の後、ニースケを膝に乗せて撫でながら、ミナトに尋ねる。


「あれかー。ほら、いつも朝は一番に学校に来てたじゃん? で、俺、見ちゃったんだよね」

「な、何を……見たの……?」

「えー、今さら口に出して言うのもなあ……」


 いや、確かにミナトの言う通り本当に今さらではあるんだけど……うう……やっぱり恥ずかしい……。


「そ、それでも、やっぱりちゃんと知りたいから……」

「そう? じゃあ……俺が教室で見たナツキなんだけど……」


 アタシは固唾を飲んでミナトを見つめる。


「ナツキって実は毎朝、教室の花瓶の水とか花、マメに取り替えてくれてたんだよね。や、そういったところも好きになったポイントではあるんだけど、それでもギャルだったナツキからしたら、クラスに知られたら……」


 ええ!? アタシ、そんなことで脅されてたの!?


「イヤ、別に知られても構わないから!」

「ええー、でも、クラスの奴等に知られたら恥ずかしいんじゃないの? 特にあの小鳥遊に」

「あー……」


 確かにそれはあるかも。

 小鳥遊だったら、そんなアタシに媚びてるだの調子に乗んなだの、いろいろ言ってきそう……。


 だけど。


「なあんだ……アタシはてっきり……」

「ん? まだ他に何かあるのか?」

「いいいいいやいや! 何もない何もない! ないからね!?」

「怪しい……」


 あうう……実は毎朝コッソリとミナトの席に座ったり、机に頬ずりしたりしてただなんて言えない……。


 そんなことを思い出していると、ミナトがやれやれといった表情で肩を竦めた。

 だけど、アタシを見つめるその瞳は、すごく優しかった。


「ねえミナト」

「んー?」

「えーっと……大好きだよっ!」

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