第557話 男という生き物

後輩だった田村改め、タムランは今世の普通の家庭に生まれ変わったらしい。


「父ちゃんはまあ普通だったけど、母ちゃんがめちゃくちゃ美人で凄かったんす」


手で形を作って何が凄かったかを説明するタムランはスルーするとして、生まれ変わったことに驚きつつも前世よりも家族仲が良くて悪くないスタートを切れていたようだ。


「俺が十歳の頃だったかな?母ちゃんが流行病で死んじゃいましてね。その後は父ちゃんが一人で育ててくれたんですが……ある時変な女に入れ込んで、騙されてかなり多額の借金を背負いましてね。それで俺を道連れに無理心中しようとしまして」


結果として、父親は死にタムランは何とか生き残ったとのこと。


「まあ、正直父ちゃんの気持ちも分かるんで一緒に母ちゃん追いかけても良かったんですが……流石に女を抱くまでは死ねないと見送りましてね。その後がまあ大変で……」


父親の借金を返すために社畜のような人生を送ることになり、なんとか返済の目処がたったのがほんの数年前のことらしい。


「ようやく重荷が消えて俺のターンが来た!と思ったんすけどね……」


精神的なものなのか、はたまた何かの病気なのか男としての機能が働かなくなってしまったらしい。


「色々試したんすよ?でも、こっちじゃ前世よりも医学が発展してなくて魔法に頼ろうにも庶民に手の届く値段じゃないしでマジで詰んだなと」


こんな状態じゃ生きる意味もないとタムランは結論を出した。


そんな訳で誰にも迷惑がかからない山奥で自殺しようとこうしてダークエルフの里の近くまで来たらしい。


……マジでよく来れたな。普通に一般人が来れるような難易度じゃないんだけど……里の結界やらごたごたで運が良かったのもあったのかもしれないな。


「でも、こうして先輩に会えたのはびっくりすっわ。母ちゃん以外だと先輩が一番俺の中では会いたかった人だったんで」

「そうなんだ」

「そりゃあ、命と人生の大恩人っすからね。あの時に先輩に止められてなかったら前世はマジで自殺してましたし、苦しい時は何だかんだ母ちゃんや先輩の言葉が頼りでしたから」


「それがこんなに小さくなるとは……」と最後に失礼なことを付け足す前世の後輩。


わざとらしく手で背丈を図るように動かすのが何とも腹立つが、わざとじゃないのは分かってるのでスルーしておく。


こういう性格なのはよく分かってるしね。


まあ、事情は理解したけど……何にしてもだ。


「タムラン。頑張ったね」


色々とツッコミどころはあるし、自殺を選んでこんな所まで来たのは褒められないが、母と父を見送って一人で頑張ってきたのも事実。


素直にその事実を褒めると、照れるように話を逸らすタムラン。


話を逸らすのは構わないが、何でも直ぐに下ネタに走るのはやめた方がいいと思うよ?


好きな人は好きだろうし、男ならいいけど女性相手でもこのノリなのが何とも残念なところだ。


まあ、この後輩らしいといえばらしいけど。

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