第556話 タムラン

「いやー、まさか先輩も生まれ変わってたなんでびっくりすっわ。あれっすか?やっぱりあのクソドブラック会社で過労死したんですか?」


まさかの再会に驚きつつ、お互いが誰か分かったのか実に砕けた口調で何とも失礼なことを言ってくる後輩だった男田村。


まあ、事実だけど言語化されると何とも言えない気持ちになるから止めて欲しいものだ。


「まあ、色々あってね。それよりそっちはどうなの?仕事辞めてから。あの後まさか自殺した訳じゃないでしょ?」


田村という後輩は最初の前世、社畜人生の頃に一時面倒を見ていたことがあった。


要領が良い方ではないが、割と真面目に働くので一見すると悪くない人材なのだが……それはあくまで仮の姿。


本性は実に怠惰で欲深く、女好きでモテないことにコンプレックスを抱きまくりで自殺願望が強いちょっと……というかかなり面倒な性格をしている後輩だった。


まあ、俺は嫌いじゃなかったけどね。


悪いヤツじゃないし。


「勿論すよ!ちゃんと先輩の言葉覚えてしましたし、精一杯生きましたよ!」

「ならいいけど」

「先輩が止めてくれたから、俺、そこそこ有名な会社に転職出来てちゃんと彼女も出来たんすよ!」


「まあ、二週間でフラれたんすけど……」と実にどんよりと答える田村。


「へー、こっちではどうなの?」

「あ、こっちでは俺はタムランって名前になりました」

「タムランか。俺はシリウスだよ」

「……なんかカッコイイ名前で羨ましいっすね」


タムランも悪くないと思うよ?


うん、口には出さないけどね。


「まあ、正直死んだのに違う世界に生まれ変わるなんて想像してなくてびっくりしたっすけど……母ちゃんがめちゃくちゃ胸大きくて役得でしたわ!」


田村……いや、タムランは自分の今世での生い立ちをチョロっと話してからは如何に自分の母親の胸が素晴らしかったかをじっくりねっとりと語り出した。


うーむ、ここまでストレートに下世話な話を広げてくる輩は久しぶりだなぁと思いながら適当に相槌を打つが、時おり見せる母への愛情は確かなものがあるようでその時だけ顔が下世話から優しくなるので何とも言えない気分にさせられる。


マザコンと言うのは容易いが、男とは皆マザコンだと言うし、俺も今世は家族への愛情が強いのでそこを茶化す気は一切ない。


ないのだが……念の為に加護の繋がりには気をつけておく。


まだまだ婚約者側からこちらの状況を全て知るまでの段階にはないが、一番繋がりの強いフィリアが僅かでもこの話を感じとるのは避けたかったし、俺としても好きな人に間接的にセクハラされるのは耐えられないし普通の配慮だとは思う。


いくら前世の後輩だろうと、今世は今世。


その辺も踏まえてなんでまた自殺したがってたのかを聞く必要もあるだろうなぁ。


察しはつくが、一応ね。

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