第558話 生きていく道

タムランの自殺の原因は男性としての機能の停止。


まずはその自殺理由を消すことにした。


魔法で治る程度で助かったというべきか、何にしてもタムランは歓喜していた。


「おお、分かる!分かるぞ!男としての自信が蘇るのが!」


そう言ってブリッジしながらカサカサと動き回わるタムラン。


喜びの舞にしても気持ち悪い動きなので流石に止めさせる。


「魔法って凄いっすね。俺は才能ないって分かって諦めてましたが、使えたらめちゃくちゃ便利そうすね」

「まあね」

「やっぱりあれっすか?師匠が良かったとか?」

「……まあ、それはあるかな」


チリッと脳裏を焼き付くのは忘れさせられていたはずの遠い前世の記憶。



――筋いいね。きっと凄い魔法使いになれるよ



記憶の中のその人はそう小さく微笑んでいた。


……本当に今日は古い記憶が蘇る日だな。


「それで?これからどうするの?」

「勿論、まずは実践すよ!大きな町の夜のお店にハシゴしてきます!」

「お金は?というか、帰れるの?」

「……先輩、お願いします!」


無計画だったか。


まあ、分かってたけど。


「前の仕事は辞めたんだよね?」

「一応筋通して辞めてきました。お金も一部覗いて使い切って家も売ったのでマジで一文無しす」

「うーん、とりあえず仕事の紹介と家の紹介は出来るけど……その前に」

「なんすか?」

「俺の事は人前では先輩と呼ばないようにね」


そう念の為に言っておくと、キョトンとしてからタムランは納得したように頷いた。


「ああ、確かに前世持ちって言うのはあれですしね。了解す。えっと、確かシリウスでしたよね?ん?ていうか、シリウスってどこかで聞いた名前のような……魔法が達者な大国の王子様にもそんな名前の人が居るとかいないとか……」


……詳細は省くが、軽く発狂するタムランを宥めるのに時間を使ったとだけ言っておく。


「前世の先輩がハーレムクソ野郎に成り下がってた件について」

「事情があるし、なんて呼ばれてもいいけど、とりあえず落ち着け」


とりあえずあれだな。婚約者達に紹介するには刺激が強いししばらくは接近はなしだな。


婚約者達に手を出すような真似はしないだろうけど、フィリア達に会わせるには危険物過ぎるし。


とりあえず仕事と夜のお店が盛んな場所を紹介して落ち着いてもらうとしよう。


そう思って知り合いの仕事と住む場所とついでに夜のお店のクーポン券も渡したのだが、それであっさり落ち着いたあたり流石と言うべきか。


口は硬いし、悪いやつじゃないし、仕事もそこそこ出来る。


女関連でトラブルだけ起こさないように注意は払っておくとしよう。


こんなんでも前世の後輩だし、俺としても知り合いを見捨てるのは後味悪いしね。


そんな訳でちょっと変わった後輩とまた交流が出来たのだが、昔話というのもたまには悪くないのかもね。


こういう縁は大切にするべきなのだろうとしみじみと思うのだった。

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