第553話 秘密の実験(合法)
屋敷の一室。
普段使われないその部屋には小さいがキッチンが備え付けてある。
その部屋にて、俺は一人こっそりと秘密の実験をしていた。
無論、ヤバい兵器とか薬やヤバい魔法や魔道具なんかでは決してない。
だが、バレたらちょっと大変に(一部の人が)なる可能性のある実験をどうしてもしてみたくなる好奇心に勝てなかったという事実もある。
責めるなら責めるといい。この軟弱な意志を。
ピーピーっと、新作の魔道具から出来たという合図の音が鳴る。
それを聞き取り、そっと開けると――中には炊きたてのお米が。
いいね、これだけで美味しそうだ。
だが、ここで妥協はなしだ。
贅沢にも白米を三角に握っていく。
くっ、このまま塩も混ぜてしまいたい。
もっと言えば、鮭や昆布やおかかなんかも良さそうだ。
だが、我慢だ。
そう自分に言い聞かせて、握ったおにぎりを七輪で焼いていく。
煙?魔法でどうとでもなるし、匂いも消せる。
健康と安全に気を使いつつ、本来は室内でやれない作業を黙々と行うこの罪悪感……凄まじいね。
だが、ここで折れたりはしない。
七輪で香ばしく焼き上がるおにぎりに――しょう油を混ぜたタレを塗っていく。
嗅ぐだけで分かる……美味いやつだと。
最後に小さな台所で仕上げたワカメのスープをそっと添えて……完成!
「いやぁ、やってしまったなぁ」
時間はお昼前。
こんな時間にこんなものを作ると絶対お昼に響いてしまう。
分かっているが、作ってしまったものは仕方ない。
「おう、出来たか」
「うん、食べようか」
「へへ、悪いヤツだぜ坊主は」
「虎太郎にだけは言われたくないよ」
ちゃっかりと忍び込んできた虎太郎と一緒にこっそりと昼前の秘密の実験の産物を食べる。
当たり前のように見張りをスルーして、当たり前のように俺のこの奇行を察してこうしてやってきた事は気にしない。
虎太郎という男はこういう奴だし、鼻が聞くのも今更だろう。
現実問題として、ここで少し食べても俺も虎太郎もお昼に響くことはほぼないだろう。
だが、これだけ美味しいものを少しでセーブできるかと聞かれると難しい。
虎太郎は帰れば奥さんがお昼を作って待ってる。
俺も婚約者達とお昼を取る。
セーブしないとと思いつつも……この焼きたての香ばしいしょう油の香りと温かなワカメスープをスルーすることは出来ない。
「美味いなぁ」
「美味しいねぇ」
シンプルイズベストとはよく言ったものだ。
これだけシンプルだからこそ、圧倒的に美味しい。
手の込んだ料理もいいけど、たまにこうして突発的に作るシンプルなものもいいものだ。
そんな感じで秘密の実験を二人で楽しむのだったが、案の定余裕でセーブをはみ出して食べてしまってお昼が少し苦しくもなったが……お残しはダメなのでちゃんと美味しく頂きました。
結論、くだらない事をやる時は時間を選びましょう。
そんな感じの時間でした。
なお、デザート系だと100%甘いものが好きな妖精のミルや婚約者達にバレるのだが、それはそれ。
美味しいものは皆我慢できないものだよね。
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