第551話 弟分の春

メナは俺の領地に住むことしたようだ。


才蔵の家に近い場所の家を貸すことにしたけど、行く行くは押し掛けるつもりのようなので、貸家ということに。


お金がない訳ではないようだけど、メナ曰く『退路があると甘えが出るかも』という理由と、押し掛けるための理由作りの一つとしてのプランもありそうだ。


女性というのは本当に逞しいものだ。


「才の奴もとうとう春が来たのか」


ラナの店にて、虎太郎と飲んでる時にその話をすると、虎太郎は何ともしみじみとした様子で頷く。


「こりゃあ、あの親父が是が非でも息子の嫁にするために動きそうだな」

「まあ、頑張りそうではあるよね」


才蔵的には迷惑極まりないだろうが、半蔵のことだ。


絶対この事を知ったら色々とお節介を焼くことだろう。


「んで?そのエルフの嬢ちゃんはどうなんだ?」

「悪い子じゃないと思うよ。友達思いだし」


少々、話を聞かない時がありそうだが、自分の婚活よりも妹を失って彷徨う友を心配してやってきた時点で人柄については文句はないだろう。


「ほーん。まあ、才の奴が惚れたならそうなんだろうなぁ」

「可愛い弟分の春にご機嫌な感じ?」

「可愛くはないが、まあ世帯を持つのは悪くないしな。男として生きてく覚悟が違くなるし、仕事もこれまで以上にやる気になるだろ。それで早死する奴はかなり見てきたが……まあ、才なら問題ないだろ」

「だね」


何だかんだと才蔵は良い性格をしている。


無茶してメナを悲しませるようなこともないだろう。


「かぁー、しっかしこのタイミングで相手が見つかるとは……つくづく持ってるよなぁ」

「あぁ、例の件?」

「流石に坊主には伝わってたか」

「茜からそれとなく聞いてたしね」


茜が俺の婚約者となり、残るは息子のみとなった半蔵が近々俺に息子の嫁候補の紹介を直談判するつもりというのは茜から聞いてたが、それ前に決まったのは確かに何か持ってるのかもしれない。


「まあ、仮に俺が紹介しても才蔵は納得しないでしょ?運命の相手が居るって信じてたし」

「まあ、そういうのは傍からだと分からんからな。俺が嫁さんや娘と出会った時しかり……そのキッカケのおもしれー坊主との出会いしかり」


おもしれー坊主ってなんやねん。


「まあ、嫁さんと娘の出会いには負けるがな」と笑って酒を飲みほす虎太郎。


いつもよりペースが少し早いので、それなりに上機嫌なのはよく分かるが、おもしれー要素があるような男ではないので軽く抗議しつつ、ラナの出してくれたおつまみを頂く。


忙しいのに、ここに来る時と寝る時は本当にいつも俺の傍によく居てくれるラナに感謝しつつ、俺も義弟のお相手が決まったことに少し嬉しそうに見えたと覗いていた茜から後で聞くのだが……まあ、確かにそれはあるかもと思うのだった。

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