第517話 派生と気術

「そういえば、虎太郎殿が言っていたのですが……何やら闘気には身体強化以上の先があるそうですが、それはどのようなものなんでしょうか?」


一通り基礎を話終えると、ふとそんな事を聞いてくるルツ。


ふむ、まあルツなら遠からず身につけるだろうしイメージのためにも説明は必要か。


「先というか、派生や応用が色々あるんだよ。例えば闘気は武器に纏わせることもできる。修練次第だけどこれも応用と言えるかもね」


空間魔法の亜空間から手頃な剣を取り出すと、武器に闘気を纏わせてみる。


それだけで大岩だろうと分厚い鉄の壁だろうと余裕で切り裂く力を持っている。


まあ、虎太郎やラウル兄様は闘気なしでも普通にできる事だけど……この点、最近開花したばかりのルツも同類かもしれない。


「他にも体の1箇所に闘気を集めて強化を倍増したり、致命傷を回避するための受けに使う事もできるね」


ただ、それらはあくまで応用や派生の領域だろう。


虎太郎のことだ。この手の説明がめちゃくちゃ下手でもルツの才能を知ってるからこそその先まで匂わせたのかもしれない。


「闘気を使う術、気術なんて呼ばれることもある力があるんだよ」

「気術ですか?」

「うん。人によっては奥義や志向の領域、あるいはもっと分かりやすいのだと必殺技ってやつかな」


それらは人によって無限の可能性を持つ。


正解は自身にしか分からない上に、自分でしか導き出せない闘気の使い方の答えのようなもの。


闘気に目覚めて、その上で更に限られた者しかたどり着けない場所だが……まあ、ルツなら問題なく行けるだろう。


「闘気は中々奥が深いからね。例えば俺の知ってる人だと闘気を練り上げてハンマーの形にして使うなんて人もいたし、面白いのだとそうだな……斬撃を具象化して操ったり、闘気を炎の形に変換する……なんてのもあったかな」


魔法とは違った形で現象として表すこともできる。


だからこそ、極めるのは中々大変だが、俺としては魔法の方が好きかな。


使うにも自然なのは闘気よりも魔力だし。


まあ、そんなことは口にしないけど。


「我が主や虎太郎殿にもそれがあるのですね」

「まあね。見せてもいいけどどうする?」


そう聞くと、ルツは軽く首を横に振ってから答えた。


「いえ。何となく私の向かう方向とは違う気がするので遠慮しておきます。どうせなら自分で見つけたいですし」

「うん、それがいいよ」


ルツがどんな答えを出すのかはまだ先の話だろうけど、少なくとも俺や虎太郎のような方向性ではないだろう。


地道にコツコツと闘気を磨いて、その果てに辿り着くのが最良だしね。

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