第508話 好奇心の向くままに

「すっげー!人がいっぱいだ!」


俺の領地を見たホムラの第一声はそれだった。


あまり人が多い場所にはまだ行く許可を貰ってないからか、賑わってる様子に瞳をキラキラさせていた。


まあ、力のコントロールが未熟な二人はまだ自由には出歩けないし、こういう日くらいは楽しんで欲しいかな。


「なあなあ、何人くらいいるんだ?」

「どれくらいだと思う?」

「えっと。いち、にい、さん……わかんねぇ!」


指を折ること三本目で挫折して楽しそうに笑うホムラ。


愛嬌を感じるよ。


「……沢山いて、ちょっと目がチカチカする」


兄とは対象的に、人の多さに驚きつつそう口にするのは弟のエンビだ。


エンビは賑やかな所よりも静かなところが好きなのようだし、図書館とか案内したら喜びそうかも。


「二人ともお腹は空いてる?」

「ペコペコ!」

「少し何か食べたいです」

「なら、折角だし色々露店でも回ろうか。二人の好きな物もあるかもよ」

「マジか!じゃあ、肉食いたい!肉!あと、あのシュワシュワした水も!」

「僕は柔らかいお肉と野菜がいいです。あと、兄ちゃんと同じくシュワシュワしたお水を」


この前振る舞ったサイダーが大変気に入ったようだけど、まだあんまり出回ってないんだよなぁ……まあ、それは露店を回った後で食べてる時にでもこっそりと亜空間から出しておくか。


「分かったよ。じゃあ色々見て回ろうか」


子供とはいえ、流石は龍族というべきか。


二人はよく食べるので色々と買いすぎても大丈夫だろう。


そんな風に三人で露店を見て回って、二人が食べたがるものを買って食べてを楽しむ。


俺としても、こうして街を歩くのは楽しいし、何よりも二人が龍族と知っても俺の客人として温かく迎えてくれる領民たちの姿に心が温かくなる。


本当に優しい人達に恵まれてるなぁ。


「おっちゃん!この肉うめーな!」

「だろ?ほれ、坊主ももっと肉食うといい」


何故か途中で虎太朗が混ざってきたが、虎太朗とは前も面識が一応あったし、人懐っこいホムラはすんなりと受け入れていた。


この子もコミュ力高いよね。


エンビは虎太朗に若干恥ずかしがって兄や俺の後ろに隠れていたが、虎太朗の様子に慣れた頃には普通に話せていた。


相変わらず人の心を時ほずくのが上手い男だ。


まあ、これだけのコミュ力があれば領地に来て初日に未亡人を口説き落とせたのも頷けるというもの。


虎太朗自身も、何だかんだと子供好きだから、扱いも慣れてるし、俺の付き添いで他所の子を相手する経験も沢山してるのもポイントだろう。


俺が一人で案内するよりも楽しんで貰えてるようだし、問題ないかな。


ただ、自分の娘さんにホムラが話しかけた時にちょっとおっかない顔をするのは止めなさい。


愛娘なのはよく分かってるけど、二人とも色恋にはまだ早いと思うし。


そう、その時は思っていた。


少なくとも俺はね。

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