第503話 市丸達の事情

烏天狗三兄弟の長男……名前を市丸というらしい。


市丸の話によると、市丸達三人は烏天狗の中でもそこそこお偉いさんの家に生まれたらしい。


「父が厳しい人でして。母も随分前に亡くなったので、兄弟仲良く……といきたかったんですがね」


三人ともそうは思っても、それぞれ性格が違いすぎて話にならないことが多いらしい。


「次男の弟の蓋丸は脳筋、三男の弟の歌丸はマイペース。私もまあ……ちょっと父親譲りで頑固なところがありまして」


三人でいると周囲に被害が出る喧嘩に発展することも多々あったらしい。


「僕ら別々で何かしてても、思考が重なるのか鉢合わせることが多くて……仕事についてからも、仲の悪さで別部署に配置されてたんですが、仕事中や休憩中に顔を合わせて大喧嘩……なんてことも沢山やらかしまして」


仕えていた一族の長は寛容な人で、そんな彼らのやらかしも有能さで多少目を瞑っていたらしいが、日頃からだけではなく、職場でさえやらかしたのが父親の我慢の限界を超えてしまったそうな。


「『まともになるまで外で暮らせ!』って、それはもう大怒りで追い出されまして」


三人も正直、父親が怒った理由も理解しており、追い出されたことは仕方ないと割り切って外で暮らすことに決めたらしい。


「まあ、外に追い出されたくらいで治るならとっくに治ってるんですがね」


帰れなくても大丈夫なようにとにかく住む場所と食事、それと仕事を手に入れようと三人は行動をはじめた。


「やっぱり思考が同じなんでしょうねぇ。向かう方向が皆同じで、解散してからこのシスタシアの国の上で鉢合わせて喧嘩になりまして」


口論から手が出て、最終的に止める者が誰も居ない上空で大喧嘩になりそれはもう盛大に空から落ちてきたそうな。


「そんな訳で、何か悪さをするために落ちてきた訳じゃないんです。私たちは仕事が欲しいんです」


そう説明を締めくくる市丸。


自分たちは無害で、雇って欲しくてここにやって来たとそれはもう真剣に説明をされたが、魔法などで心の読める俺や、ナチュラルに人の心を読むヘルメス義兄様から見ても嘘はついてないのはよく分かった。


「ふーん。なるほどねぇ」


むしろ、ヘルメス義兄様は市丸の言葉に納得したような顔をしていた。


俺としても、面倒な悪神の嫌がらせでないのが分かってちょっと一安心。


とはいえ、朝食を抜いてまで来たのにこれかぁ……まあ、仕方ないな。


むしろ、悪さをしにきたとかじゃなくて良かったと思うべきだろう。


その気ならシスタシアに入ることすら出来なかっただろうから当然といえば当然だけど、何かしら俺の力を凌駕する神的な手引きがあれば分からないからなぁ。


そういうイレギュラーでないだけマシとしよう。

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