第502話 烏天狗

最初に向かったのは三兄弟の長男と思われる人の部屋。


部屋に入ると、クッキーを美味しそうに頬張る人型をしたカラスの姿が。


顔は完全に鳥系で、カラスなのだが、手足がすらりと伸びてており、体が黒く、翼も全体の印象通りの暗めの黒色。


来る前からどんな種族か、検討はついてたけど予想通りだったか。


「おや?これは陛下。この度は面倒をおかけして申し訳ありません」


三兄弟の兄という人は、ヘルメス義兄様の姿を視界に入れると、居住まいを正してそう頭を下げる。


なるほど、確かに話が通じそうに見えるな。


「そちらの方は……もしや、スレインド王国の第3王子殿下でしょうか?」


俺の姿を見て、少し考えてから思い出したようにそう尋ねてくる長男。


「知ってるなら話が早いね。そうだよ。この子はシリウス。僕の可愛い義弟だ」

「義弟……そういえば、前に調べた情報にありましたな。確か第八王女殿下のご婚約者でもあると」

「まあね。こちらの自己紹介が不要なようだけど、そちらの自己紹介は聞いてもいいかな?天狗族の人だよね?それも烏天狗の人に会うのは久しぶりだ」


天狗族。それが目の前の人の種族だ。


天狗族は空を飛べて、少し特殊な力を持つ種族なのだが、それ以外にも少し変わった種族だ。


カラスのような姿を持つ、烏天狗と呼ばれる者たちや、誰もがイメージする鼻の長い天狗の姿、他にも何種類か姿の違う者たちを総称して天狗族と呼んでいる。


目の前の彼は天狗族の中でも、烏天狗と呼ばれる種類だろう。


英雄時代の前世では、天狗族とは何度か会ったけど、一族の長と内密に会うことが多かったので、比較的種類が多いはずの烏天狗と会った回数は意外と少ない。


今世では天狗族と自体、まだ会えてなかった。


山深い所に住んでおり、あまり会う機会がないというのもあるけど、まさかこんな場所で会えるとは。


「第3王子殿下は、どうやら我らの種族をご存知のようですね。確かに私は天狗族です。ただ、追い出されたのでそう名乗るのは禁じられておりますが」

「追い出された?」

「ええっと……簡単に説明すると、仕事でトラブルを起こしまして。それで親にも外でまともになって来いと家から追い出されました」


追い出されたねぇ。


「具体的に何をやったんだい?」

「その……陛下はさっきも見てたでしょうけど、私達兄弟は非常に仲が悪くて。ああして顔を合わせるとどうしても喧嘩になりまして。それは仕事してても変わらなくて、それで……」

「……なるほどね」


どうやらその兄弟喧嘩を見たらしいヘルメス義兄様はやや困ったような笑みを浮かべて頷く。


なかなか盛大な喧嘩の様子だったのだろう。

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