第482話 たまには髪を

魔法薬の調合を間違える……なんてベタな真似はあまりしたことがなかったんだけど、今回久しぶりにやってしまった。


具体的には1ミリ単位の誤差だったんだけど、それをミスって飲んだ薬で髪が物凄く伸びてしまった。


母様譲りの茶髪は嫌いじゃないし自慢だけど、ロン毛にするつもりはないのでちょっと困る。


「……じゃあ、整えるね」


屋敷の人間に知られる前にしれっと切って整えようと思っていると、いつの間にか部屋に入ってきていたセシルが実にやる気満々の様子で後ろに立っていた。


「……セシル、言っておくけどこれは事故だから。決して髪を伸ばして遊ぶためにやった訳じゃないから」

「……知ってる。でも、私がシリウス様の髪弄りたいから弄るだけ」


ワクワクしてるその瞳を見てしまうと何も言えないのが俺という男。


要するに婚約者にダダ甘ということだが、まあそれはそれ。


「……まずは、シンプルにまとめてみる」


そう言って手早くサイドに纏めてみせるセシル。


凄いな、相変わらず器用だ。


「どう?似合ってる?」

「……王女様って言われても違和感ない」


流石にそれは違和感あって欲しいけど、元々中性的な容姿よりだからなぁ……まあ、今後凛々しく成長してみせるので期待しといておこう。


「……次は三つ編み」

「流石にそれはキツくない?」

「……大丈夫。絶対似合うから」


そう言われて一瞬で編み込んでみせるセシル。


なんていうか、年々この手の作業が手早くなってるけど練習でもしてるのだろうか?


ちなみに割と似合ってる気がしてちょっとへこみました。


三つ編みの似合う俺とは一体……。


「……最後はストレート」


そう言って綺麗に整えると、鏡の中には母様を幼くしたような子供が。


……改めて見ると、俺ってすっごく母様似なんだなぁ。


「……元がいいからなんでも合う」

「似合う似合わないはともかく、こうしてセシルに髪を弄られるのは悪くないね。特別感あるし」

「……ご所望なら毎日やる」

「ロングはこれっきりだと思うよ」

「……残念。でも、シリウス様のいつもの髪型好きだから元に戻るのも楽しみ」


……そういう事サラッと言うからなぁ、セシルは。


「お礼に今度は俺がセシルの髪を整えるよ」

「……じゃあ、シリウス様とお揃いで」

「いいの?別のペアルックでもいいんだよ?」

「……こういうのも悪くない」


まあ、セシルがいいならいいけど。


ちなみに、いつもの髪型からストレートにしたセシルは正直かなり可愛かった。


いつも可愛いけどストレートだとシンプルな可愛さが出ていいね。


「……今度のご褒美。髪整えるチケットいい?」

「そんなの出さなくてもいつでもやってあげるよ」

「……特別感あった方が楽しそう」

「それもそうか」


まあ、きっとあってもなくてもタイミング次第で多分こうしてイチャつくけど、それはそれ。


雰囲気は大切だからね。

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