第478話 お父さんは本気

「シリウス殿下。ようこそおいでくださいました」

「ご招待、ありがとうございます、アバルテ男爵」


本日はアロエ先生の実家、アバルテ男爵家にやってきていた。


アバルテ男爵とは以前からパーティなどで顔を合わせたことがあったが、ここ最近はそれ以上に顔を合わせる機会が増えてきた気がする。


まあ、理由は俺のせいなんだけど。


アロエ先生に婚約者になってもらった関係上、お父上であるアバルテ男爵にも色々と事情を話しておく必要があったし。


幸いというべきか、アバルテ男爵は物分りのいい理知的な人で、事情も把握してむしろ感謝の言葉まで貰ってしまった。


『娘を想ってのこととご承知しております。父として娘の心を守ってくださったこと心からお礼を申します。それと、是非ともこれからも娘をよろしくお願いします』


前半の娘への慈愛の気持ちに比べ、やや力強さを感じるよろしくお願いしますだったが、深い意味はないはず。


そんなこんなで、色々あって本日はアバルテ男爵家にご招待して貰ったので来たのだが……出迎えてくれたアバルテ男爵の隣にドレス姿のアロエ先生が並んでいた。


来るとは聞いてたけど、何故ドレス?


「お、お父様。やっぱりこの格好は……」


ノリノリで着た訳ではないのか、恥ずかしそうにそう耳打ちするアロエ先生。


「似合っているぞ。それにお前はこういう機会でもなければ着てくれないからな」

「でも、私一応、先生なんですが……」

「こういう違った一面もたまには見せるべきだ。でしょう、シリウス殿下」


ニコッとそうパスしてくるアバルテ男爵。


案外、ノリの良い人よね。


「えっと。アロエ先生、ご招待ありがとうございます。そのドレス凄く似合ってます」

「あ、う……そ、そうでしょうか……?」

「ええ、大人っぽくて凄く綺麗です。いつものアロエ先生も素敵ですがこういう格好もとても絵になりますね」

「〜〜〜っ!!はぅ……」


スっと父親の影に隠れてしまうアロエ先生。


「ははは。ほらだから言ったろ。大丈夫だと。では、殿下こちらに。妻が手料理を用意してますので。この領地の特産品はどれも美味しいですよ」

「それは楽しみです」


その後は、恥ずかしがるアロエ先生とアバルテ男爵夫妻と共に夫人の手料理をご馳走になったけど、どれも凄く美味しかった。


話を聞くに、アバルテ男爵の奥方は元は他国で料理店を経営していたプロの料理人らしい。


「この子も妻ほどではないですが、料理が得意なんですよ」

「それは凄いですね。今度是非ご馳走になってみたいです」

「では、お弁当の作り方でも教えておきますね」


アロエ先生そっくりの奥さんが楽しそうにそう言ってアロエ先生にウインクする。


グイグイくる両親に小声で文句を言うアロエ先生という貴重なシーンもみれたし、楽しそうな家庭でちょっとほっこり。


貴族家というよりも、普通の一般家庭のようなアットホームさがあったけど、このラフさは嫌いじゃない。


ドレス姿のアロエ先生は新鮮だったし、料理も凄く美味しかったし、何にしても本当に楽しい夜でした。

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