第472話 あくまでガーデニング

ヌロスレアの屋敷に行くと、その度に驚くことがいくつかある。


その一、毎度毎度広がる庭と増えていく花たち。


行くたびに種類も増えてるし、季節によって変えていくとアンネは凄く張り切ってる。


「自分の手で育てる……夢みたいな時間です」


愛おしそうに花たちを愛でてる姿は、出会った頃より生き生きしてており、とっても魅力的だ。


その二、俺の姿を視界に収めた瞬間に、魔法でも使ってるような速度でアンネを早着替えさせる侍女のメリア。


もう、それこそ俺の存在を認識してから、アンネへのお小言を停止して一瞬で着せ替えさせるので毎度凄まじい。


しかも、来る度に違う格好になって、どれも凄くアンネに似合ってる大したものだ。


「ご希望などありましたら遠慮なく」


要望出してもいいけど、このアンネのイキイキした姿を見てると庭仕事向きの服をチョイスしてしまう自信がある。


今だって、お土産にいくつかの花の種を持ってきて、楽しそうに眺めてるアンネの横顔をつい見ちゃってる自分が居るし。


「あの、シリウス様。実は折り入ってお願いしたいことが……」

「どうかしたの?」

「実は、その……お野菜も育ててみたいのですが、ダメですか?」


なるほど、そう来たか。


「構わないよ。でも野菜とはまた手が広くなったね」

「花の様子を見てたら、お野菜の花も綺麗だと新しく来た使用人の子が話してましたので気になって」


なんでも、最近新しく数人の侍女を雇い入れた(無論、俺も近辺チェック済み)中に、農家出身の子がいて、その子がそう教えてくれたとのこと。


「なら、次来るときは少し珍しい野菜系をお土産にするね」

「ありがとうございます」


本当に楽しそうに笑うよになったアンネ。


その様子に少しほっこり。


「シリウス様?」

「ごめんごめん。アンネの笑顔が可愛くてついね」

「……!か、からかわないでください……」

「本心だけどね。そうだ、せっかくだし手入れ手伝うよ」

「あ、ありがとうございます……」


照れるアンネに微笑んでから、一瞬で汚れても大丈夫な服(作業着)に着替えて、草むしりと害虫退治にいそしむ。


アンネは虫が平気なので、害虫退治よりも、体力的な面で大変な草むしりを頑張る。


魔法なのですぐに片付ける方法は無論あるけど、こうして手間暇加えた方が楽しいし、アンネとの時間も取れるのであえて不便をとる。


いつも楽してるし、婚約者と接する時くらいはいいだろう。


そうして、その日から野菜も育て始めたアンネだったが、その次のお願いが「農家の方に弟子入りしたい」だったのだが、本気で農民になる訳じゃないよね?


大丈夫なはず。だから、メリア、あまり心配しなくていいよ。


息抜きと趣味のガーデニングだからさ。


アンネはアンネで、ヌロスレアの屋敷の方を任せてるし、俺の婚約者だしで息抜きは必要だから、出来る限り、数少ないお願い(あまり皆お願いする機会がないから)は大切にしたい所存。


土弄りは俺も嫌いじゃないしね。

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