第471話 ダークエルフの頑張り
銭湯の評判が良すぎたからか、それとも嗅ぎつける身内が相変わらず素早かったからか、各地で銭湯を作ることになる感じになったが、それはそれ。
「むぅ、やはり難しいですね」
「初めてにしては上出来ですよ」
屋敷の庭の木の上でうとうとしていると、近くの部屋からそんな声が聞こえてくる。
気配を探らずとも、声だけで誰かすぐに分かった。
フローラとダークエルフのシエルだろう。
珍しい組み合わせ……ということもなく、俺は知っている。
修行から帰ってきてから、シエルが密かにフローラから教えを受けてることに。
「すみません、フローラ殿。出来の悪い教え子で」
「シエルさんは筋がいいですよ。ただ、ほんのちょっと覚えるのがゆっくりなだけですよ」
シエルがフローラから教わってるのは、編み物や料理など家庭的なことのようだ。
たまにクーデリンも混じってるようだけど、料理に関してはフローラよりもクーデリンの方が腕があるので、そういう時はフローラも生徒になってて何だか楽しそうな集まりだと思う。
俺も参加したいけど、空気は読む。
誰のためにシエルが頑張ってくれてるのか分かるからこそ、不粋なことはしたくないというのが正直な気持ちだ。
「痛っ」
「あ、また刺しちゃいましたね。待っててくだい、すぐに治します」
そう言って、フローラが軽くシエルの手を包むと優しい光が溢れて、シエルの指先がすぐに治る。
治癒魔法……ではなく、俺の持つ治癒系のスキルの一つだ。
加護の影響か、フローラが最近練習してるようだが、大分上手く扱えてきてるみたいだ。
「流石ですね。ありがとうございます」
「いえいえ。シエルさんならすぐに治るでしょうけど、私も練習になりますから」
「クーデリン殿も同じことを言ってました。私は師に恵まれてますね」
「師匠ですか……なんだか、ワクワクする響きですね」
楽しげに笑うフローラ。
ああ見えて、意外と茶目っ気が強い子だからなぁ。
そういう所も可愛いんだけど。
「せめて、護身術の稽古で返させて貰いますね」
「頼りにしてます、シエル先生」
「今はフローラ殿が師匠の時間ですがね」
「そうでしたね。では、続きをしましょうか」
「よろしくお願いします」
そう言って、編み物に戻る二人。
まだちょっと危ない手つきだけど、シエルは格段に腕を上げてる。
その様子を見守りつつ、俺はまたゆっくりとそのうとうとに身を任せる。
シエルが何を思って編み物などを習い始めたのかは恐らく実家の方で何かしら吹き込まれたのだろうけど、俺のために頑張ってくれてるのは素直に嬉しいので楽しみにしておく。
ただ俺は俺でその頑張りに報いたいので、後で差し入れでもクーデリンに託すとしよう。
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