第464話 茜の覚悟

「わ、本当に一瞬で違う場所に居るや。空間魔法って便利だね」


茜達のスカウトに成功したので、三人を連れて領地に転移すると、そう楽しげに笑う茜。


「ここがシルくんの領地?」

「そうだよ」

「いい所だね。ここなら楽しく過ごせそう」


第一印象は大切だし、そう感じてくれるのなら誇らしいものだ。


「確か、建てたばかりの空き家が屋敷の近くにあったから、しばらくはそこで過ごしてよ。必要なら好きに弄ってくれていいから」

「あれ?シルくんの屋敷に一緒に住むんじゃないの?」


はてと首を傾げる茜。


「それでもいいけど、どうせなら落ち着ける場所があった方がいいでしょ。才蔵が運命の人に出会った時に俺の屋敷だと気を使わせるかもだし」

「お心遣い感謝します」


心底嬉しそうな才蔵に対して、茜は少し考えてから一つ頷くと何かを決めたような目で言った。


「じゃあ、親父と才はそっちで。私はシルくんの屋敷に住まわせて貰うね」


……まあ、俺はいいけど。


流石に半蔵が反対してくれるかと思い視線を向けると、半蔵は茜に何かを耳打ちされて驚いたような表情をしてから、「そうかぁ……とうとうその日が来たのかぁ……」と感涙に咽び泣いてしまう。


「親父もOKだってさ」

「本当に?めちゃくちゃ泣いてるけど」

「無視していいよ」


まあ、見た限り何か負の感情で泣いてるというよりも、まるで娘の嫁ぎ先が決まって父親して子供の幸せに感極まったような感じに見える。


「えっと。迷惑じゃなければ、姉をお傍に置いておいてください」


話ができる状態じゃないので、視線を才蔵に向けると才蔵は茜の様子を見つつも正直にそう答える。


家族の承認は一応得たようだけど……


「えっと。再度になるけどいいの?屋敷に住めば本格的にそういう目で見られるよ?」


加護紋は人目に晒すような場所には出ないので問題ないとしても、屋敷に住めば俺の婚約者扱いされることは避けられない。


そう再度確認の意味を込めて問うと、茜はこくりと頷き答えた。


「私はシルくんのくノ一だからね。シルくんの傍にずっと居るよ。その上でそういう目で見られるのは私には利にはなっても不利にはならないからね」


強いなぁ。


俺もこのくらい強い心を持ちたいものだ。


「分かったよ。なら、空き部屋があったからそこを茜の部屋にしようか」

「ありがとう、シルくん」


あとは、婚約者達と仲良くできるかだが、そこはあまり心配してない。


この通り茜はコミュ強だし、婚約者達ともすぐ馴染むだろう。


そんな事を考えつつ、半蔵と才蔵に住む家を紹介してから、屋敷に戻って茜を婚約者達に会わせたのだが、予想通り茜はすんなりと婚約者達の輪に馴染んだ。


うーむ、このコミュ力は見習いたいなぁと思いつつ、新しい住人によって屋敷が更に賑やかになりそうだなぁと思うのであった。

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