閑話 くノ一茜は恋をした

生まれた時から、私の家は忍びの家系。


亡くなった母以外の殆どの親戚がそうだったから、運命というやつだったのかもしれない。


幼い頃に母を亡くした私は、叔母によく懐いていた。


叔母さんはくノ一の中でも格が違うくらいの凄腕で、くノ一の歴史においても事忍術においては右に出る者は居ないほどの天才だった。


そんな叔母さんに私は憧れた。


正確には叔母さんの使う忍術に魅了されたのかもしれないけど、どちらでもあまり変わらないかも。


それくらい叔母さんは私の憧れだったから。


私がくノ一になると決めると親族は皆喜んだ。


『茜。くノ一になるのは止めた方がいいよ。絶対に後悔するから』


ただ一人、叔母さんだけはそう言って反対していた。


それでも、この頃の私には何故叔母さんがそんな事を言って反対したのか分かるわけもなく、叔母さんもそんな私を悲しそうに見ながらも最後には色々と教えてくれた。


きっと、叔母さんには分かったていたのだろう。


くノ一になることで失ってしまうものの大きさと……それに対する私の後の思いを。





七歳になってしばらく。


私はくノ一になるための手術を受けた。


忍術を使うためには術の力の源を秘伝の技術にて引き出す必要があり、忍者になるのなら男だろうと女だろうと受けないといけなかった。


手術自体はちょっと怖かったけど、終わってみると呆気なく終わったように感じた。


その代わりというべきか……力の代わりに何か大きなものが消えたような変な感覚もあった。


本能というやつだろうか、自分が子供を宿せなくなったのだと実感していたが、その時はほんの小さな喪失感なんて気にならないくらいに、私は忍術を使えることに喜んでいた。


夢中で術を覚えて、本格的に開始されたくノ一としての訓練に励む。


『茜は才能があるね。私なんてすぐ追い越しそうだ』


教えてくれた叔母さんはそう笑っていたけど、どこか寂しそうだった。


叔母さんの言葉だけでなく、私自身もこの道に確かな手応えを感じていた。


才能があると自惚れてる訳ではなく、自分がこの道に向いてるという確かな自覚。


術を覚えるのが楽しいので覚えることは苦にならないし、体術はまあ少し面倒くさいけど忍術との併用を考えると覚えるのは悪くなかった。


ただ、体術は親父が口を出してくるから鬱陶しい。


『忍の本質は術にあらず。肉体を鍛えて地道な鍛錬を積みいざと言う時に主の役に立つ。それこそが忍の本質だ』


親父は一族のトップと言ってもおかしくない位置にいる重役。


御庭番衆という組織の棟梁だ。


忍術では叔母には適わないが体術においては国において誰一人として勝てる者が居ない使い手だと思う。


忍術もかなりのレベルで使えるはずだけど、親父は叔母と違ってほとんど術は使わない。


圧倒的な身体能力と隠密術で暗殺の方が得意らしい。


最強のくノ一が叔母なら、最強の忍が親父だと姉弟子の弥生さんは言ってたっけ。


『茜〜。たまにはお父さんと風呂入ろうぜ〜』


親父の方はとてもそうとは思えない顔ばかり私は見てるので実感はないけど。


『半蔵様は茜のこと心から愛してるからね。亡くなった遥様に瓜二つで可愛いんでしょ』


私と亡くなったお母さんはかなり似てるらしい。


どんな人なのか、私はよく覚えてない。


物心がつくまえに亡くなってしまったから、ほとんど記憶がないのと、何かと世話を焼いてくれる叔母さんの方がお母さんみたいに思えてしまうからかも。


『弥生さん。また胸大きくなった?』

『あ、分かる?薬でちょちょいっとね』

『師匠がまた怒るよ』


対外的に、教えを乞うてる時は叔母さんのことを師匠と呼んでいる。


弥生さんは叔母さんの目を盗んでよく、規制されてる薬をこっそり飲んで肉体を弄っていたみたいだけど、その薬の効果は確かなようで、月日を経る事に妖艶になっていった。


『師匠程ではなくても、私も房中術極めつつあるからね。ていうか、それしか茜にずっと勝てそうなジャンルないし』


忍者……くノ一には房中術、正式名称房中陰陽術と呼ばれる所謂大人の男女の夜の技が存在する。


かつてくノ一は忍術よりもこの技を叩き込まれて、ハニートラップに利用されてきたのだけど、その文化も今は昔。


時代の流れと共にくノ一の形も変わり、現存する今のくノ一で正確に過去の技を全てを身につけているのは叔母さんくらいと言われている。


『茜も遥様に似てるからきっと胸が大きくて男ウケすると思うけど、興味ある?』

『あんまり』


興味が無い訳ではないけど、それよりも私は忍術の方に興味があったからだ。


『まあ、茜はまだまだお子ちゃまだものね』

『弥生さん重い』

『茜もそのうちこうなるから、今から重さになれておかないとね』


そう言ってよく私の頭の上に胸を乗っけてきてたけど、弥生さんの言葉の意味が大きくなって本当に分かるようになるとはこの時は思わなかった。


それはそれで弥生さんは私の胸を見て『天然めー!』と威嚇してたのは理不尽だと思う。





十歳になった頃から本格的に任務が入ってきた。


子守りから暗殺まで任務は幅広いけど、暗殺はあまりなかった。


親父が手回ししてるのかと思ったけど、それ以上に私には隠密任務が向いてると評価されてのことだったらしい。


『茜、若様にご挨拶を』


そして、数々の任務の評価により私は仕えるべき将軍のご子息にも顔見せした。


それが虎太朗こと、タロくんだ。


タロくんは変わった人だった。


『若様は止めて。大きくなったら出てくから。敬語とかも面倒だから普通で』


将軍の嫡男なのに、偉ぶった所が微塵もなく、大らかな人柄で一部の人間に人気がある感じ。


様々な事情から、自分が親の跡を継ぐことがないのを分かっており、それら全てを小さいながらも普通に受け入れていて、その上でその後のことを考えてタロくんは動いてる感じだった。


変な子というのが正直な感想だった。


『虎太朗は筋がいいな』

『そうか?』

『ああ。うちの息子よりも鍛えがえがある』


親父はタロくんを大層気に入って、嫌がるタロくんに武術を叩き込んだ。


それを見て、弟はタロくんに非常に同情の眼差しを向けていたけど、人柱が出来てホッとしてる様子は我が弟ながら良い性格をしてると正直思った。




十五歳、成人の義を終える頃には私は親父の補佐として、御庭番衆の棟梁補佐という立場になっていた。


くノ一の中では多分二番目に偉い立場。


一番は叔母さんかな。


私は現将軍の御庭番衆補佐のくノ一だけど、叔母さんは旧将軍の大御所の専属なので、命令系統がかなり違う。


どっちが偉いという訳でもないけど、大御所とタメ口聞けるのは叔母さんだからこそなのだろうと思う。


まあ、私は今の将軍とそういう仲になれる気は全くしないけど。


かなり幼い頃に、今の将軍をそうとは知らずに会って告白を断ったから、それを根に持って未だに会うと苦い顔されちゃうくらいだし。


『ドンマイ』


姉弟子の弥生さんはますます妖艶になっていた。


この前は大御所の夜のお相手をしてきたとか。


『あれは化け物だよー。あの歳であの腰さばきはかなり女を泣かせてきてるね』


そんな感想を言われても……


『ああ、そういえば茜はそのなりでまだ生娘だったね。勿体ない』


知識だけなら色々と教えてもらったけど、生憎と実践する機会はなかった。


『くノ一なら一度くらい男を知っとかないとね』

『弥生さんは知りすぎて師匠に怒られたくせに』

『なにをぅ、生意気なこのこの』

『ゆ、揺らさないでよ〜』


弥生さんは房中術に全振りしてる人なので、男性経験だけでいえばこの国のどんな女よりも圧倒的に上だと思う。


房中術だけなら叔母さんを越えるかもと言われてるけど、越えたと言いきらない辺り叔母さんは更に凄いのだろう。


正直、興味はあっても私には次元が違いすぎて出来る気がしないというのが正直な感想だった。




順風満帆な生活。


忙しい任務も忍術の修行も楽しい。


だけど、少しだけ物足りない感じがしていた。


何でだろうと思っても理由はよく分からない。


忘れては時々思い出して首を傾げるを繰り返していることしばらく。


昔よく遊んでいた友達の一人が嫁いで子供を宿したという知らせが来た。


任務の途中で立ち寄ると、友達は大きくなってきているお腹を気遣いながら会ってくれた。


「大きいね。この中に赤ちゃんいるってなんか凄いなぁ」

「私も不思議だけど、産む時はもっと大変だってお義母さんに聞かされてちょっと緊張してる」


そう笑いつつも、友人は心から幸せそうにお腹を撫でる。


その姿に足りなかったものが何か何となく分かった気がした。


その時はちょっと羨ましい気がするくらいだったものだったのは間違いない。


それが確定的になったのはタロくんと遊びに出掛けていた時に道端で妊婦さんが蹲ったのを見かけた時だった。


慌てて家に運んで、医者を呼びに行って貰ったんだけど近場の医者は立て込んでて来るのが難しいとのこと。


旦那さんは遠征に出ていて他に家族も居ないという中で、タロくんは私に言った。


「よし、じゃあ茜が取り上げてやれよ。できるだろ?」


確かに、助産の知識も経験も一応はある。


必要だからと叔母さんが特に強く教えてくれたものだ。


とはいえ、タロくんに命令口調で言われるのはなんかムカつく。


「じゃあ、タロくんは邪魔だから外で門番ね」

「……この寒空で?」

「ガンバ」


私が成長して大人っぽくなってるように、タロくんもかなり大人っぽくなっている。


そんなタロくんに見られながら子供を取り上げるのは旦那さんに悪いし追い出すことにした。


親父に鍛えられたタロくんから、一晩くらい問題ないしね。


そんな訳で、私はその妊婦さんの子供を取り上げることになった。


ちょっと難産気味だったので不安にもなったけど、子供は何とか取り上げられた。


「生まれましたよ。元気そうな男の子です」

「はぁはぁ……ありがとうございます」


疲れ切りながらも隣に赤ちゃんを置くと心底愛おしそうに涙ぐむその人の姿に私は心から『羨ましい』と思った。


助産をしてて出産の大変さはよく分かる。


妊娠してからも凄く大変だし、羨ましい要素なんてそんなに無いはずなのに、心から愛おしそうに我が子を見るその人の姿は私には凄く幸せそうに見えた。




妊婦さんの件から、何かと私は助産の手伝いに参加する機会が増えた。


前に手伝って生まれた子もたまに顔を見に行く。


すくすく育つ様子は見てて凄く楽しいし、子供の相手も悪くなかった。


「茜。最近助産の手伝いによく行ってるみたいね」


修行や任務以外で久しぶりに会った叔母さんがそんな事を言う。


「うん。なんか子供可愛くてついね」

「よく分かるわ。私も茜の歳の頃に同じことを思ったから。今でもそうだけどね」


くすりと少し寂しそうに笑う叔母さん。


その言葉と笑みで昔、叔母さんが私がくノ一になるのに反対した理由がようやく分かった。


「叔母さんはこうなるのを心配してくれたんだね」

「くノ一になると子供は望めないからね」


それはくノ一になるための手術が理由だ。


その手術は男にしても特に支障はないのに、女にすると何故か女は子供を宿せなくなってしまうという副作用があったのだ。


この副作用、当時は私は気にしてなかったけど叔母さんは私がこんな気持ちになると分かって反対してくれたのだろう。


「子供、羨ましいでしょ?」

「……うん、凄く。大変な部分が大きくても、自分の産んだ子は凄く可愛いんだろうなぁ……って想像しちゃった」


もう望めない選択肢。


くノ一になったことによる遅すぎる後悔のようなものだ。


「弥生さんみたいだったら、気にしなかったかな?」

「弥生はまあ、ただの色欲魔だから例外だけど、確かにあの精神がもう少し私たちにあれば思うことも少なかったかも知れないわね」


弥生さんはくノ一になったことに後悔は微塵もない様子だ。


むしろ子が出来ないので余計な手間がなくて男と交わりやすいと言ってたのは聞かなかったことにしたいくらい前向きだと思う。


「私がもう少し強く止めてれば良かったね」

「……でも、選んだのは私だから。叔母さんに憧れたのは間違ってなかったと思うよ。この道も多分私の天職だから」


その言葉に叔母さんは寂しそうに笑ってから、私の頭を優しく撫でる。


叔母さんに憧れたことは間違いでないと思う。


それは心からの言葉だけど、後悔がないかと言われると後悔はある。


あの時は私が自分の子にこれほど心が焦がれるとは思わなかったし、安易に選んだことも否定できない。


それでも選んだのは私だし、今更変えることは出来ない。


本音を言えば、子供が欲しい。


自分の子を産みたい。


そんな気持ちを押し殺して、私は叔母さんのようにくノ一としての任務に全うする。


その傍らで、助産の手伝いや孤児達の支援なんかもしてたんだけど、これも多分私の諦めきれない気持ちの現れなのかもしれない。





タロくんが国を出た。


「適当に外の世界をブラブラして、良さそうな場所で家族作って幸せになる!」


そんなノープランな言葉と共に出て行ったタロくんだけど、その自由さは少し羨ましい。


タロくんが出て行っても、生活に変化はない。


ただ、忍術の方は最近物足りなく感じてきている。


叔母さんとの訓練ですら心が踊らなくなってきていた。


「概ね、茜は教えることなくなってきたね」


叔母さん曰く、忍術においては私は叔母さんから教えてもらうことはないレベルになってるらしい。


だからか。


「房中術はいいんですか?良ければ私が教えますよ」

「あんたはダメ。茜が喰われても困るから」

「てへっ」


姉弟子の弥生さんは最近、同性にも興味を持ってるようで私も少し狙われてるようだ。


前まで威嚇されてた胸に欲の籠った視線が混ざりつつあるのはその為だろう。


「茜も興味あるでしょ?」

「男性の方には少しだけ」

「ムッツリだなぁ。せっかくだし私の友達貸そうか?練習にはうってつけだし。くノ一である以上、ずっと生娘って訳にもいかないでしょ?」

「それはまあ……」


分かっているけど、弥生さん達を見てると容易に足を踏み入れていいのか悩んでしまう。


いや、言い訳か。


きっと、心のどこかで普通の女として、嫁いで子供を宿すという夢が捨てきれてないのだろう。


とうの昔にそんな夢は叶わないと知ってるのに、醜く縋ってしまう。


「茜には茜のペースがあるのよ」


叔母さんも気持ちがわかるのか、そうフォローしてくれる。


「師匠は茜に甘いなぁ」

「反動で私やあなたみたいにその道も極めても困るでしょ?」

「負けたくはないかな。負けないけど」


そう笑う弥生さん。


反動か……叔母さんみたいに私も反動でそっちの道に行くことになるのかな?


諦めきれないのとどっちがマシなのか。


そんな風に思っていた頃だった。


親父が失脚し始めたのは。





きっかけは新しい将軍問題。


タロくんが出て行ったことで、歯止めが効かなくなり親父の立場も危うくなった。


御庭番衆の棟梁とはいえ、親父の人徳はそれ程ではない。


忍は主の道具という持論から一歩引いてるせいもあるのかもしれない。


親父は力こそ将軍に買われてはいても信頼は第二隠密部隊の隊長に負けており、あっという間に下克上された。


「そんな訳で、出ていくことになると思います」

「茜、わざとでしょ?」

「なんの事だか」

「全く。外の方で良い男居たら紹介なさいよ。味見までは許すから」

「弥生さんの頭はそればっかりですね」


実の所、私としてもくノ一としてこのままでいいのか悩んでいた。


叔母以上のくノ一は知らないし、私の心情的にも忍術の拠り所がなくなれば弥生さんルートに向かいかねない。


まだギリギリ保ってる諦めの悪さがなくならないうちに、どうせなら外の世界は知っておきたい。


だからこそ、あえて親父の失脚に見て見ぬふりをしたのだが、弥生さんはじめ、家族は皆分かっていたようだ。


先日、亡くなった叔母さんも多分そうだったのだろう。


『茜。くノ一だけが生きる道ではないからね。自分の進みたい道を進みなさい』


そんな遺言を残してあっさりと叔母さんは向こうにいってしまった。


最近、調子が悪そうだとは思っていたけど、こんなにあっさりと早くにいくとは思わなかった。


でも、だからこそ余計にこの場所への未練は消え失せたのかもしれない。


「せっかく自由になるし、虎太朗に会いにくか!腕なまってたら叩き直してやる!」


親父は分かっていて流れに身を任せたようで、実に楽しそう。


元々、棟梁の座には微塵も未練がないからなのだろうが、そんな中でよく棟梁をやれてたものだ。


叔母さんが居たからというのもあるのだろうけど、男泣きしてスッキリしたのか親父はいつも通りだ。


「継がなくていいとなると気楽でいいや」


弟はタロくんが出て行ってから、人柱が居なくなって大変だったので一刻も早くタロくんかそれに準ずるものを見つけたい様子。


まあ、らしいといえばらしいけど。


叔母さんの墓に挨拶をして、私は親父と弟と三人で国を出る。


少しだけ、枷が外れた気がしたけど、少しは重圧を感じるくらいの心が自分にもあったのかと少し驚く。


まあ、それでも欲しいものが手に入ることはないんだろうけどね。






途中、追っ手が来たり、親父が猛者の噂に踊らされてチャレンジに行ったりしたけど、タロくんの行先は比較的すぐに分かった。


スレインドという大国、その国の第3王子の噂と共にタロくんの話もあった。


「あの虎太朗が仕えてるのか?」


かなり半信半疑な親父。


「虎太朗さんの性格で宮仕えは無理だと思う」


弟も同じ意見のようだ。


私はどうかといえば、普通の王族にタロくんが仕えるのは無理という結論。


だが、件の第3王子は面白い話が多く着いてきている。


タロくんの性格を考えるとなくはない……かな?


何にしても、現地に行ってみないと。





思わぬ偶然というか、途中のヌロスレアという国でタロくんを発見した。


同行者は他に二人。


騎士らしきかなり顔が整った人と、少年とも少女とも言えそうな中性的な……どちらかといえば少女にも見えるけど、多分少年らしい育ちの良さそうな子。


情報収集をしながら、この地での話も聞いていての、本当に偶然の発見だったけど親父と弟と三人で着ける。


「気づいてるな。全員」

「あ、やっぱり?」

「ああ。特にあの少年。虎太朗より早く気づいてた様子だ」


悔しいけど親父と同意見だった。


タロくんや騎士よりも早くにこちらに気づきながらも、悟らせる様子を一切見せない立ち振る舞い。


タロくんと騎士の動きを見てないと確信すら持てなかったかもしれない。


「あれが噂の第3王子だとしてだ……茜、どう見る?」

「タロくんより強いと思う。なんていうか、底知れない感じがするし」

「同意見だ。ふむ、仕掛けるなら俺が虎太朗、茜があの少年だな」


親父の場合、タロくんと久しぶりに手合わせしたいだけだろうけど、私としても未知な存在なあの子は凄く気になる。


「誘ってるな」


しばらくして、タロくん達の行き先と足取りからそう予想する親父。


「やっぱり?」

「ああ。虎太朗の案か、はたまたあの少年か。何にしても折角だ。乗るとしよう」

「あんまり乗りたくないんだけど……」

「後で激重メニューとあの騎士に挑戦とどっちがいい?」

「後者で……」


親父の殺人的訓練メニューを知ってるからこそ泣く泣くそう選択した弟。


頑張れ。


私はといえば、久しぶりに見た事のない強敵に挑めるかとも少しワクワクもしていた。


忍具の確認と術の方も準備しておく。





三人が開けた場所に足を踏み入れた瞬間。


小手調べに親父がタロくんにクナイを投げる。


「クナイか。ってことは同郷のやつらしいな」


タロくんはそれを見てすぐにこちらの正体に見当をつける。


「主よ。見たことない武器ですが」

「まあな。俺の故郷のとある連中が好んで使う武器だからな」


すかさず手裏剣を投げる。


「わぁ、実物はえらく久しぶりに見たな」


そんな言葉が入ってくる。


タロくんはともかく、彼も私たちの正体に見当が付いてる様子だ。


手裏剣は騎士の槍に捌かれたけど、それが無くても避けられてた可能性の方が高い。


面白い人の所にタロくんは居るみたいだ。


そう思って視線を向けると、親父が意気揚々と、涙目の弟が嫌々それぞれの相手に向かっていく。


「げっ。半蔵か」

「よう、久しぶりだな虎太朗!腕は鈍ってないよなぁ!」

「面倒なのと当たったな、ちくしょう」


久しぶりの再会で大変そうなタロくん。


向こうはいいとして。


「恨みはないけど覚悟!」

「主の手前、手早く済ませます」


弟も問題ないかな。


じゃあ、私は私で行くとしよう。


「俺の相手は君かな?」


近くで見るその子は遠目から以上に不思議な雰囲気を纏っていた。


優しげな眼差しと柔らかい表情、実年齢以上に大人びてそうでありながら、それが嫌味に感じない柔和な感じ。


それでありながら底知れない力を隠してそうという直感が働く相手。


本当に面白い。


「気づかれてるのとは思ってたけど、その様子だと敵意がないのまで分かってるみたいね」

「力試しってところかな」

「まあね。面白そうだったし。でも、ようやく見つけたタロくんより更に強い相手が居るなんて予想外だったけど」


タロくんは前よりも強くなってるはずなのに、目の前の相手はそれ以上に感じる。


本当に噂の王子様なのかと思うけど、噂通りならそうなのだろう。


「虎太朗より強いと思われたんだ」

「うん、実際そうでしょ?」

「否定はしないよ。君も三人の中で一番強いよね?」

「分かるんだね。それに女だからという理由で舐めたりもしない」


くノ一として、戦う時に女だからという理由で嘗める相手は数え切れないほど見てきた。


だからこそ、そうじゃない相手は本当に久しぶりかもしれない。


「性別は嘗める理由にはならないよ」


そう平然と言ってのけるその子。


思わず笑みが浮かんでしまう。


「そっかそっか。そういう感じか。タロくんが気に入るのも分かるかな」

「それはどうも」

「それに私に見惚れて動きが鈍らない相手も久しぶりかも」


くノ一の必須スキルの一つに誘惑術がある。


弥生さんや叔母さん程ではなくても、私はこれもかなり得意なつもりだ。


女としても魅力はそこそある方だと思うけど、全く気にする素振りすら見せない人は初めて会ったかもしれない。


「術だね。素の魅力も高いみたいだけど」


忍術もひょっとして知ってるのかな?


だとしたら、ますます試したくなる。


「うんうん、いいね、そうでないと。じゃあ、少しだけお相手願うよ!」


低く構えてから私は一瞬で姿を隠した。


気配の経ち方にも気をつけるけど、すぐに気づかれてしまう。


でも、ほんの一瞬は稼げた。


そこをつくように四方を囲むようにクナイや手裏剣を飛ばす。


「よっと」


それら全てをその子はこちらの投げたクナイの一つを掴むとそれで全て弾いてしまう。


毒ではないけど、先端に塗られてる薬にも気づいてる辺り、忍者のことをよく分かっているみたい。


「そこ」


木の影に隠れていた私目掛けてクナイをくる。


速くて正確なそれをどうするか考えてから、避けることはしなかった。


グサリと刺さった数秒後――ボンッと私は木の丸太へと姿を変えた。


変わり身の術だ。


「もらった!」


その瞬間を逃すことなく、私は背後をとる。


相手が避けられる速度での奇襲。


それをどう避けるのかと楽しみにしていると、なんの抵抗もなくクナイは刺さってしまう。


一瞬驚いてから、私はすぐにそれが何のか分かってしまう。


「まさか――変わり身!?」


ぼふんっと先程のお返しとばかりに変わり身返しをされたのだ。


予想外の返しにますます私はテンションが上がってしまう。


「なら、これはどう」


印を組むと近くの木の木の葉を全て飛ばす。


実践的な技だけど、さっきの変わり身返しを見て私はこれでも問題ないと判断した。


そしてその判断は間違ってなかった。


まるで息をするように印を結んで向こうも術を発動した。


瞬間――地面から火柱が上がり、木の葉を全て焼き尽くした。


これほどのレベルの忍術、まさか本当に忍者なんじゃないかと私は思うけど、それ以上に楽しくて仕方ない。


「凄い!その術知ってるなんて君も忍なの?」

「いんや。ただの王子様だよ」

「……あはは!面白い!」


忍者でなくてこれなら益々凄いけど、それ以上にそんな事がどうでも良くなるくらいに私は彼と術比べがしたくなった。


「まだまだいくよ!」


親父や弟が見えなくなるくらい、彼との時間を楽しむ。


長らく忘れていた忍術を楽しむという感覚。


叔母さんに憧れてた頃に戻ったように私は楽しんだ。





術比べを楽しんでから。


とっておきを使っても普通に反応されて逆に笑みが浮かんでしまう。


「わぁ、びっくり。まさか初見で破られるなんて思わなかった」

「凄い術だったよ。これほどのくノ一は本当に久しく見えたことなかったよ」


そんなお褒めの言葉を貰う。


これだけの相手からの賞賛だ、悪い気がするわけない。


「その口ぶりだと私以上のくノ一を知ってるみたいだけど?」

「少し特殊な状況で会った人だから、例外にカウントしていい類だよ」

「ふーん、そうなんだ。はぁ……なんにしても楽しかったなぁ」


久しぶりに地面に大の字になってしまう。


子供の頃を思い出す。


「ねぇ、名前聞いていい?」


自己紹介すらする前に仕掛けてしまったので、改めてそう聞く。


「シリウスだよ。シリウス・スレインド」


お相手はやっぱり噂の英雄様だった。


スレインド王国の第3王子。


タロくんが身を寄せてるのも頷ける相手だなぁ。


「君の名前も聞いていいかな?」

「あ、そうだったね。ごめんごめん」


格好はつかないけど、挨拶はきちんと。


「私は茜。忍術が得意なくノ一だよ。元御庭番衆、棟梁補佐で第一隠密部隊の副隊長でもあったかな」


過去の肩書きだけど一応そう名乗っておく。


「元ってことは今は違うんだね」

「うん、辞めてきたから。親父も弟もそうだよ」

「お父さんの方はひょっとして……」

「うん、元御庭番衆の棟梁だよ。辞めたというよりはクビになったの方が近いかもだけど」


ノリノリで下克上されたけど、そこまでは言わなくてもいいかな。


「あ、一応言っておくと罪人じゃないよ?現に退職金もほんの少しだけ貰ってるし、穏便に国からは出られたから」

「そうなんだ。再就職先に困ってるならウチに来てほしいけど話は聞いて貰えそう?」

「多分大丈夫だよ。向こうは……まーだ、イチャイチャしてるんだ」


私の方が思ったよりも早く片付かれちゃったのもあるけど、久しぶりに親父はテンションが上がってる様子だししばらくかかるかな。


「向こうが落ち着くまで、お話ししようか。色々聞きたいだろうし、私も君のこともっと知りたくなったから」


隣に誘うと、彼は素直に従いつつ何も無い所から、飲み物と軽く冷えてるらしきタオルを取り出して渡してきた。


「空間魔法ってやつだ。実在したんだね」


魔法の存在は知ってたけど、これって使い手がほとんどいないものなんじゃないのかな?


シリウスくんって凄い人なんだなぁと、しみじみ思いながら飲み物を遠慮なく頂く。


美味しいー、涼しいー。





シリウスくん……シルくんは想像以上に面白い子だった。


王子様なのにお菓子を作れて、お茶もいれられる。


しかも凄く美味しい。


タロくんが結婚したという話も聞けたけど、タロくんが父親か……まさかあの適当な言葉を本当に実行するとは。


「それにしても。子供か……タロくん羨ましいなぁ」


気が緩んでいたのだろうか?


思わずそんな事を口に出してしまった。


「ごめんね。声に出ちゃってた。意味わからないよね。キッパリと諦めたつもりだったんだけど、タロくんの話を聞いちゃってつい……ね」


ふぅと、息を吐いてから私はついその事を口にしていた。


「ねぇ、知ってる?くノ一になるとね、子供が作れなくなるんだ」


それは誰にも口に出して言う気がなかったこと。


何故かシルくんなら聞いてくれるかもと色々と話してしまう。


叔母に憧れてくノ一になったこと。


くノ一になるための手術で子供を宿せなくなったことを今になって後悔してること。


きっと、私の資質や性格を考えるとこの道は天職で間違ってないのだろうと思う。


それでも、もしもあの時叔母さんの言葉に少しでも耳を傾けていたら……違ったのだろうか。


そっと自分のお腹を無意識に撫でてしまう。


「羨ましいって思っちゃったんだ。今更遅いのにね」


思い出すのはあの幸せそうな景色。


好きな人との子供を宿して、大変なのに幸せそうに我が子を産んでその手に抱く母親の姿。


私が求めてやまない手に入らないものだ。


そこまで話して、話しすぎたと思って私はなんとか表情を作る。


「あはは。ごめんね、暗い話して。なんでか、シルくん相手だと心の底まで出せちゃったよ。不思議な人だね、シルくんは」


本当に変わった人だと思うけど、そんな思いを消し飛ばすようなことをシルくんは口にした。


「茜。もしも、くノ一でも子供を宿す方法があるって言ったら信じてくれる?」





「……えっと、聞き間違いかな。くノ一でも子供を宿す方法があるって聞こえたんだけど」


思わずの言葉に聞き返すと、シルくんはなんでもないように答えた。


「あるよ。いくつか」

「え?選べるくらい選択肢まであるの?」

「まあね。胡散臭く感じるでしょ?」


普通の人ならそうなるのだけど……


「うーん。でもシルくんの言葉だとあながち間違いでもなさそうって感じ……かな」


シルくんのような人なら何かしら知ってても不思議ではないと思えるくらい、シルくんというのは凄い人だと私は思っている。


それ以上に……もしもあるのなら何を差し出しても叶えて貰いたいレベルだ。


「その前に、茜が受けたくノ一になる手術についてなんだけど。ざっくりと内容を聞いていい?」

「えっと、分かった」


必要なことなのだろうと話すと、前知識も当然あるようで理解したと頷くシルくん。


「うん、やっぱり」

「今ので何かわかったの?」

「まあね。まず一つ。その秘伝の技術だけど恐らく漏れがあると思うんだ」

「漏れ?」

「手順と必要なものがいくつか抜けてる可能性が高い。だからこそ、本来の技術より劣る分欠陥があるんだと思う。そうでなければくノ一が子供が出来ないなんて事態にはならないから」


……話を聞いただけでそこまで分かるものなのだろうか?


でも、理解してるってことはそうなんだろう。


「まあ、そっちの方は後で正しい手順を書いておくよ。必要なものも今の時代なら手に入ると思うし」


そんな事よりもとシルくんは私の方に視線を向ける。


「まず、今の茜の状態から子供を普通に宿せるようにするには大きく三つの方法がある」

「三つもあるの?」


諦めていた分、前のめりに聞いてしまう。


そんな私を気にせずにシルくんは答えてくれた。


「まず一つ目。俺の手による手術による方法。この方法だとくノ一の力……まあ、忍術をこれまで通り使えるようにも、逆に無くすこともできる」


シルくんはこの方法の懸念点は私の素肌を見てしまうという事をあげてたけど、その程度で子供を望めるなら安いものだ。


「シルくんなら別にいいよ。むしろその程度でいいならどんどん見てよ」


何よりもシルくんなら肌を見せても悪い気はしない。


「二つ目は、魔法による方法。ちょっと力技かな」


魔法について詳しくないけど、シルくんは魔法が得意だという。


そんな事も出来るというのなら出来るのだろう。


「魔法って凄いね。そんな事まで出来るんだ」


あくまで、シルくん限定ではあるっぽいけど、それでも出来るのだから凄い。


「最後の一つは?」


その言葉にシルくんは少し困ったように言い淀む。


「……これは少し特殊な方法でね。茜の今後に影響が出てしまう恐れもあるんだ。だからこそ前の二つで納得できるならそっちの方がいいとは思うんだけど……」

「うんうん。それでどんな方法?」


シルくんは少し考えてから、周りに防音らしき結界を張って答えた。


「俺の加護紋を与えてそれによって解決する方法。それが三つめ」





「加護紋?シルくんの?」


シルくんの話では、シルくんは相手と繋がりを作って加護を与えることができるらしい。


……神様かなにかなのかな?


何にしても凄いけど、ノーリスクでなんの問題もなく子供を宿せるようになるというのは凄い。


ただ、シルくん的には懸念する点もあるようだ。


「俺の加護を持ってるのは俺の婚約者だけ。だからこそ、これを持つと俺の婚約者扱いされるかもしれないし、俺と繋がりが出来るから嫌でも距離が近くなる」


前者ふたつとは違ったリスクがあると説明される。


「だから、この方法は茜に良い相手が居るなら使えないし、今後その可能性を潰しかねないんだ」

「そっか。じゃあ、三つめの方法でいいよ」


迷うことなく即答する。


「あ、勿論、シルくんが嫌じゃなければだけど」


頼む側として、シルくんの気持ちを蔑ろにはしたくないのでそう付け加えると、シルくんはあくまでこちらを案じて言ってくれた。


「俺は大丈夫だけど……その、茜はいいの?好きでもない男と心の距離が近くなるんだよ?しかも婚約者扱いされるかも」

「気にしないよ。シルくんなら大丈夫。それに、私モテるけどそういう相手居なかったからむしろ楽しそう」


本心だけど、それだけではない。


「まあ、でも……何よりも諦めてた選択肢が出てくるならどんな方法でも飛びつくかな 」


シルくんが嘘をつくとは思ってないけど、それでも少しでも可能性があるのならダメでも飛びつきたい……それくらいに私は子供が欲しいと心から思っているんだと思う。


「それでどうすればいいのかな?私から何かする事あるの?」

「いや。必要なら今すぐにでも出来るは出来るけど……本当に三つの方法でいいの?」


自分のことではなく、あくまで私の身を案じての言葉。


その言葉に胸が温かくなる。


「まだ出会ったばかりだけど、シルくんが凄い人なのはよく分かった。それ以上にとっても優しくて私好みってこともね。シルくんにとって私に価値があるかは分からないけど、少なくとも仕えるならシルくんしか居ないって思うんだ 」


そう笑うと、それでもシルくんは悩む様子を見せる。


私が嫌とかではなく、多分私の今後を思ってのことなのだろう。


どこまでも優しい人だ。


「シルくんは優しいね」

「そう?」

「うん。私のことばかり気にしてるけど、その選択肢ってシルくんが私を信じてくれてないと話してないでしょ?」

「まあね」


シルくんは私を信じて話してくれた。


だったら、私は私でシルくんを信じたい。


「婚約者にしてとまで言わないからさ、傍に置くくらいの気持ちでシルくんは居てよ。そのうちシルくんの子供を私が宿したら私の勝ちってことで」


それは半分冗談のような本気の言葉。


「後悔するかもよ?」

「しないよ。シルくんとなら」

「その根拠は?」


その言葉に私は自信を持って答えた。


「女の勘」







「分かったよ。手を出して」


しばらく考えてから、シルくんは決めたようでそんな事を言う。


その言葉に従って手を出すと、シルくんの指が私の手に触れる。


「ん」


それは若干無意識に出てしまった声だった。


シルくんの柔らかい指先からの温もりに変にドキドキしている自分がいる。


年下なのに妙に大人びていて、それでいて私を救おうとしてくれてる凄い人。


そう考えるとますます変な気持ちになりそうになる。


「はい、お終い」

「なんか不思議な感じ。シルくんに包まれてるみたいな温かい感じ」


離れる温もり以上に不思議な感覚がある。


これがシルくんの加護。


「わっ。これが加護紋なんだ。凄いね」

「……うん、それは分かったからいきなりは止めて」

「シルくんにしかこんな事しないよ」


分かる。確かに欠けてたものが……大切な欲しくてやまなかったものが取り戻せたのが。


感覚だけど、それは間違いないと思う。


「シルくん」

「ん?」

「ありがとうね」


心からの感謝。


これ以上口にしては飾りになってしまう気がしてそう端的に伝えたけど、シルくんには伝わったようで優しく笑みを浮かべてくれた。


そんなシルくんに照れ隠し込で思わず言ってた。


「これで私はシルくんの女ってことだね」

「言い方に悪意がない?」

「まさか。でもシルくんの物って言葉はちょっと素敵かも」

「そう?」

「征服欲っていうか、私ってこう見えて支配されたいんだと思うんだ」


昔、タロくんに命令されたりするのは嫌いだったけど大切な人からはそういう扱いを受けてみたかったという気持ちも正直あった。


「ねぇ、シルくん。まだ向こうはもう少しかかりそうだし、どうせならシルくんの話もっと聞かせてよ」

「いいよ。代わりに茜のことも聞かせてよ」

「うん、勿論だよ。私の全てをシルくんには知って欲しいから」


偽らざる本音がそれだった。


そして、こうして話してるうちに私はシルくんに惹かれていることに気づいた。


ずっと前から分かってたけど、シルくんは私の理想過ぎるのだろう。


年の差とか関係なく、シルくんの子供が欲しい。


そう思ってしまった。


シルくんはまだ成人してないしそういうのは早そうだけど、婚約者が多いようだし女の子が嫌いじゃないはず。


だとしたら、私はシルくんのくノ一として傍にいて、あわよくば奥さんの末席に、子種だけでも貰えるようにシルくんに尽くそう。


歪んでるようだけど、多分これが私の初恋。


それだけ、シルくんは私にとってベストということなのだろうけど、重い女過ぎるかな?


何にしても、くノ一としても女としても、私はこの人の傍にずっと居ると思う。


だから――上手くいったら、シルくんとの子を連れて叔母さんのお墓に顔見せに行くから、期待しててね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る