第457話 くノ一の定めと後悔

茜は出したお菓子を美味しそうに食べつつ、俺の淹れた紅茶も珍しいと美味しそうに飲む。


「それにしても。子供か……タロくん羨ましいなぁ」


だからというか、落ち着いてきたからか虎太朗の話の途中で不意にそう思わず心の声を呟いた。


本人も言ってから気づいたのか、少し照れくさそうに笑みを浮かべる。


「ごめんね。声に出ちゃってた。意味わからないよね。キッパリと諦めたつもりだったんだけど、タロくんの話を聞いちゃってつい……ね」


ふぅと、息を吐いてから茜は俺に視線を向けてきた。


「ねぇ、知ってる?くノ一になるとね、子供が作れなくなるんだ」


どこか遠くを見るように視線を向けて茜は続ける。


「昔はそんな事気にせずにくノ一になるって望んでなったんだけど、大きくなると考え方も変わるんだね。ちょっと後悔もしてるんだ」


茜がくノ一になるための修行を開始したのは五歳の時だったそうだ。


「叔母さんの使う術が凄くて、憧れたのが始まり。叔母さんには『後悔するからやめなさい』って言われたんだけど……その時はその言葉の意味も分かってなかったから」


茜には才能があったから、叔母以外では反対する者は居なかったそうだ。


茜の母は早くに亡くなり、父親もあの通りなのでその道に進むことに対する障害はほぼなかったのだろう。


「男と女で忍者って呼び方が違うんだ。その理由の一つは多分古くから『くノ一は女であって母にはなれない』っていう意味も込めて普通とは違うと区別する為の言葉でもあるんだろうね」


忍者は男と女で身体能力の差もあるが、女の方が有利な点がある。


それは忍術の適正が男よりも女の方が高いということだ。


「シルくんは知ってるかもだけど、忍術を使うには特別な手術が必要なんだ。力を得るための代償っていうか、術の源をこじ開けるための秘伝の技術。それをすると男は特に問題ないのに何故か女は子供が出来なくなるんだ」


手術を受けたのは七歳の時らしい。


「叔母さんが受けたのも同じくらいで、くノ一になる子は遅くても十歳までにはやらないとくノ一にはなれない。私は特に才能もあって叔母さんみたいになれるならって喜んで受けたんだけど……この歳になって後悔も少ししててね」


そっと自分のお腹を撫でる茜。


「羨ましいって思っちゃったんだ。今更遅いのにね」


何と重ねてるのかは定かではないが、自分には無縁と思っているその光景……恐らく子供がお腹にいる妊婦さんでも想像してるようにそっとお腹を撫でる茜は諦めの中に自分の過去の選択への後悔も混じったような複雑な表情を浮かべていた。


「叔母さんも亡くなる前にもっと言って欲しかったな。こんな気持ちになるの知ってただろうにね」


そう話してから、ハッと茜は話しすぎたと思ったのか、慌てたように笑みを浮かべた。


「あはは。ごめんね、暗い話して。なんでか、シルくん相手だと心の底まで出せちゃったよ。不思議な人だね、シルくんは」


そう笑う茜に、俺は少し考えてから一つ尋ねてみた。


「茜。もしも、くノ一でも子供を宿す方法があるって言ったら信じてくれる?」

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