第456話 料理と毒

「わぁ。ね、これ……うん、これさ……わぁ」


折角なので紅茶と共に出したケーキに対する茜の感想である。


何か言葉にしようとして出来なかったくらいには、気に入ってくれたようで、何度か唸ってから言葉にするのは諦めたようで、美味しそうに食べてる。


「これってシルくんの手作り?」

「よく分かったね」

「わぁ、まさかと思ったけどお菓子まで作れるんだ」

「趣味の範囲だけどね」

「十分凄いよ。私もおはぎなら作れるけど、ここまで凄いのは覚えられる気しないなぁ」

「茜なら覚えられると思うよ。今度一緒に作る?」


そう聞くと、茜は少し考えてから一息ついて軽く首を横に振った。


「やめとく。こういうのは作ってもらうからこそ美味しいんだし。それに料理してると仕事のこと考えちゃいそうだし」

「職業病かぁ。まあ、なくはないか」

「でしょ?料理は目標に近づくための手段って考えちゃうし、それじゃあ美味しくならないと思うからね」


くノ一として、何かと任務として作ることもあればその中に何かしら混ぜ込むこともあったのだろう。


それ故にあまり私生活では触らない方が良いと思ってしまう気持ちも分からなくはないかな。


「気分転換程度でもいいから、気が向いたら言ってよ。付き合うから」


無理強いはしないけど、せっかくならマイナスなイメージを払拭する手助けくらいはるすると軽く言うと、茜はくすりと笑って頷く。


「うん、ありがとう。シルくんは優しいね」

「茜ほどじゃないよ」

「私、優しいところなんて見せたっけ?」

「腕試しとか言いつつ、毒使わなかったこととか?」

「あはは。それは優しいって言わないよ。それに仮に使っててもシルくんに通用したとは思わないけどなぁ」


やはり鋭いな。


「実際、何を使われても効かったかもね」

「やっぱり」


大抵の毒には耐性があるし、無効化する術もいくつもある。


大抵は前世の英雄時代のことだけど、人だけでなく毒を使う相手は自然界にも多ければ、神さえも殺すと言われた毒も解析して無効化した事もあった。


だからこそ、知らないものでも数秒もあれば無毒に変えることは出来るだろうけど、使われないに越したことはない。


「シルくんは毒の味よく知ってそうだよね」

「物によるけどね。美味しいのも多いから困るんだよね」

「貴族……っていか、王族か。そういう偉い立場も大変そうだもんね」


今世ではあまり毒を盛られたことはないけど、前世では日常的に飲んでたようなものだったからなぁ。


「まあ、美味しいに越したことはないけどね」

「それは確かにね」


そう言いながら美味しそうにケーキを平らげる茜。


食べるの結構早いけど、お代わりも必要かもな。


なんにしてもこれだけ美味しそうに食べてくれるのを見てると作った甲斐があったというものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る