第455話 戦いの隣で

「しっかし、タロくん鈍ってないみたいだね。むしろ前よりも動きにキレがあるよ」


ふと、茜が父親と戦う虎太朗を見てそんな事を言う。


「そう?だとしたら俺のせいかも」

「シルくんの?」

「虎太朗にはついつい頼っちゃうからね」


虎太朗が領地に来てからかなり経つ。


その間、色々と虎太朗を連れ回してるのでそれによって鈍るような環境にはなってないのかもしれない。


実際、虎太朗は素の実力以上にその性格からついつい頼ってしまうんだよな。


「だとしたらタロくんも好きでやってるんだろうね」

「そう思う?」

「うん。だって、タロくんああいう性格だし、興味ない人なら上手く断ると思うよ」


それはそうかも。


コミュ力が高い虎太朗はその辺も卒がないし、むしろ俺の誘いに乗って領地に来た事にも少しビックリしたくらいだ。


「弟と戦ってるのはシルくんの騎士さん?」

「まあね」

「強いね。でもまだ経験が浅いのかな?弟の相手には丁度いいみたいだけど」


ルツと茜の弟さんの戦いもまだ続いている。


実力的にはかなり拮抗してるようで、もう暫くかかりそうだが何事もなければルツの勝利で終わるだろう。


あくまで普通の相手ならだけど。


「弟さん、上手いね。身軽だし、基礎的な部分にも隙がない。それにメンタルコントロールも上手いみたいだ。どちらかといえば戦闘よりも諜報向きだ」


ルツに嫌々挑んでる割には善戦してるし、立て直しも早い。


まだまだ足りない部分はあるけど、十分忍として諜報活動を行えるレベルではあると思う。


少なくとも直接戦闘よりもそっちの方が遥かに向いてる。


「私や親父よりもそっちの才能はあるだろうね。まだまだ私も負けてないけど」


そう答える茜もまた、一流のくノ一だ。


こんな風にフランクだけど、いざとなったら何処にでも入り込んで情報を持ってくることも出来るのだろう。


それは、向こうで派手に虎太朗とぶつかり合ってる親父さんにも言えることだ。


「ははは!少しは成長したな!だがまだまだ甘い!」

「ぐっ、相変わらずウザイ攻撃ばかりしやがって」


……うん、そのはずだ。


格闘家顔負けの手合わせを見ればやや不安にもなるが、話によると茜の父親は元御庭番衆の棟梁だったようだしそのくらいは容易だろう。


「向こうはまだまだイチャイチャしてそうだねー」

「なら、こっちはまったりといこうか。甘いものは好き?」

「大好き!」


大変良い返事を貰ったので、空間魔法の亜空間にストックしているものをいくつか取り出して渡す。


ついでに飲み物もせっかくだし紅茶でもいれるか。


遠くでは虎太朗とルツがまだ戦ってるが、そちらはもう暫くかかるだろうし、早く終わったこちらは終わるまでのんびりお茶をして待っても問題ないだろう。


互いの力量を確かめたからこそ落ち着いて話もできるというもの。


そう言いつつ、俺としても久しぶりの術比べで楽しかったので茜に感謝の気持ちを返す意味合いもなくはないが、それはそれということで。

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