第440話 選べる選択肢
ルツが俺の騎士になって数日。
魅了の力を抑える魔道具も完成したので、虎太郎とルツを連れて割と近い場所に釣りに出掛けていた。
「ほぅ、ルツの坊主は釣りは初めてか」
「お恥ずかしながら、狩りしか経験はありませんね」
「まあ、そんなに難しくないから気楽にやれよ」
相変わらずのコミュ力お化けな虎太郎は早くもルツと仲良くなっていた。
「主よ。私のためにこのような魔道具を作って頂き感謝する」
「問題なさそう?」
「付けてると安心感があります。これなら呪いによって傷つけることはないでしょう」
「なら良かった」
材料はあったので、比較的早くできたとはいえ、思った以上に喜ばれるようだ。
まあ、ルツの過去を思うとそれも当然か。
「しっかしよ。わざわざその魅了とやらを抑える魔道具作る必要あったのか?坊主なら呪い自体を解くことも出来るんじゃないのか?」
ふと、そんな事を言う虎太郎。
「可能ならそうしたいけど、それにはもう少し時間が必要でね」
「時間?」
「解けるのですか?この呪い自体を?」
「時間をかければね」
ルツに加護……呪いを与えた悪魔は余程ルツに入れ込んでいたようだ。
普通の呪いなら数秒もあれば解析して解くことも出来るんだけど、この魅了の呪いは正直時間がかかる。
魅了の呪いの力はルツの深部まで届いており、ミリでもミスるとルツの精神と肉体にまず間違いなく害が出る恐れがあった。
あの精神状態のルツに呪いをすぐに解くという選択肢を与えたら、今すぐに解いて欲しいと懇願されてもおかしくなかった。
だからこそ、あの時は抑える方向で話をしてみたのだが……まあ、今のルツの様子なら話しても問題ないか。
「一応、並行して呪いの解析もしてるけど、可能ならあと数日は欲しいかな」
「……主よ。お心遣い誠に感謝する。だが、無理はしなくて構わない」
「無理はしてないよ」
「だな。坊主の場合本当にヤバい時は恐らく手遅れ寸前だしな」
見てきたように言うね、虎太郎。
前世は割とそうだったかも。
「ちなみにだけど、呪いを解くって選択肢の他にも力のコントロールを身につけるって方法もなくはないよ」
「コントロールなんてできるのか?」
「かなり大変だけどね。魅了の呪いの定着具合とルツのポテンシャルを考えるとそういう選択肢もあるってだけ。ぶっちゃけ解いた方がルツ的には楽になるだろうけどね」
そう説明すると、ルツはその言葉に考え込んでしまう。
解く即答かと思ったけど、何かしら思うこともあるのかもしれない。
「……私は……」
「じっくり考えなよ。その上の結論ならどれでも好きにしていいから」
「……主よ。本当に何から何までかたじけない」
「いいよ。それよりも早速釣ろうか」
「だな。今夜は魚料理だぜ!」
虎太郎と一緒に釣糸を垂らすと、その様子を見てルツが小さく笑ってから続いてくる。
まだまだ心の傷は大きそうだが、少しはマシになってきたようで良かった。
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