第439話 新しい主
「これは……一体……」
「凄いでしょ。転移魔法だよ」
杞憂を取り払うにあたり、まずは領地へと転移した。
一瞬で景色が切り替わったことに驚くルツだったが、それ以上に住民の反応に驚いていた。
「領主様、お客人ですか?」
「まあまあ、素敵な殿方ですね」
「カッコイイお兄ちゃん!」
イケメン騎士に黄色い声援が聞こえてくるのは当たり前といえば当たり前だが、その質が明らかに魅了の力の産物と違うと肌で分かったのだろう。
ルツが聞いてきた。
「殿下。これは一体……」
「俺の領地には色々と仕掛けがあってね。ここともう一つの領地、あとはスレインドの王都とそれにシスタシアとヌロスレアのそれぞれの王都に居る間はその魅了の力は無効化されるんだよ」
正確には魅了だけでなく、あらゆる力に対応してるのだけど、そう言った方が分かりやすいだろう。
「そんな事が……」
「もしもに備えて、ルツに魅了無効化の魔道具も作るけど、それ無しでもさっき言った場所でなら魅了による不幸な結果にはならないと思うよ」
とはいえ、それ抜きでもルツはかなりのイケメンなのでモテることには変わらないけど、不幸な結末は避けられるだろう。
「そんな事が出来るなんて……貴方は一体……」
「さて、じゃあ行こうか」
「行くと申しますと?」
「俺の屋敷。婚約者に会わせるよ」
唖然としていたルツはその言葉に困惑したような表情を浮かべるが、その瞳にはもしかしたらという期待も浮かんでいた。
その結果通りというか、婚約者の元にルツを連れて行っても魅了の効果は効力を発揮しなかった。
「こんな事があるとは……」
イケメンの存在に沸き立つかなぁと思ったけど、婚約者達は特に気にした様子もなく挨拶をしていた。
新鮮すぎる反応にルツは驚きっぱなしだったけど、本当に効果がないと分かると心から嬉しそうに笑った。
なお、婚約者達は俺の加護紋があるので魅了の力は何があっても通じないのだが、その説明は後でもいいか。
(シャルティアのフォローも後でしないとね)
俺の第一の騎士は当然シャルティアなので、本人もそれを分かってはいるけど、それでも新しい騎士を俺自身が連れてきたとなれば思うところもあるだろう。
後できちんとフォローしておこう。
まあ、そういう所も可愛んだけどね。
「ルツ、まだ不安はある?」
「いえ……ですが、本当によろしいのでしょうか?私なんがシリウス殿下の元にいても」
そっと泣きぼくろを撫でてから、背の槍にそっと触れるルツ。
己の無力に思うこともあるのかもしれない。
それは今すぐ払拭することは出来ないだろう。
だからこそ、ストレートに俺は言った。
「居て欲しい。これから俺を……俺の大切なものを守る手助けをして欲しい」
ルツの前に手を伸ばす。
ルツは少し迷っていたが……その言葉に意を決したように俺の手を掴んだ。
そして、恭しく頭を下げて言った。
「これからお世話なります――新しき我が主よ」
「うん、よろしくルツ」
そうして、この日俺の元にイケメン騎士が一人増えた。
ロダリグアの件はそのうち片付ける必要もあるかもしれないけど、それはそのうち。
とりあえず今夜は松茸料理にしようかな。
シャルティアも皆も松茸は好きだしね。
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