第303話 歌ってみた
テントの外には急ごしらえで作ったステージがある。
そこから少し離れて住民たちがこれから何が始まるのか気になるようで集まってくれている。
それを見ながら、まずはオリジナルの俺が変化した架空の歌姫――スイレンさんが舞台に上がる。
容姿はおっとり系のお姉さん。
かなりの美女に我ながら惚れ惚れするけど、老若男女問わずに目を引くことには成功したらしい。
『皆様、こんにちは。この度歌わせて頂くことになったスイレンと申します』
俺――いや、スイレンはゆっくりとマイクを持つとそう自己紹介をする。
『ヌロスレアは今、大変な状況だと伺いました。私には歌しかありません。なので……皆様のお心を少しでもとき解せるような歌にしたいと思います』
そう言ってから、マイクを持つ。
最初の曲には楽器は使わない。
ゆっくりとアカペラで歌い出す。
『――――』
自分の設定した誰が魅了される歌声。
そして、歌いながら同時に俺は魔法を発動。
心を落ち着かせる魔法+疲労回復の魔法、拡声と複数の魔法を使って無理やりに人々の心に届かせる。
本当は本物の歌姫を使いたかったけど……このヌロスレアの現状で他国の高名な歌姫を引っ張ってくるのは不可能に近い。
スレインドやシスタシアには有名な歌姫は居ないし、探してる時間もない。
ならば、俺が全てを賄おう。
それこそがこの計画……『ディーヴァ・プロジェクト』だ。
なお、ディーヴァと言いつつ、女性歌手だけでなく男性歌手も出すのだが、それはそれ。
計画自体に意味があるので、名前なんてそこまで気にしなくてもいいのだ。
約4分程の歌だった。
歌い終わると同時にその場は歓声に溢れていた。
これまでの暗かった人々に僅かながらも光が宿る、そんな予兆。
(よし、これなら大丈夫かな)
チラリと視線を近くのアリシアに向けると、アリシアも楽しそうに拍手をしていた。
シエルも拍手はしていたが……何故かよく分からない顔をしていた。
虎太郎……笑ってる。
正体が俺だと分かっているからか、笑いを必死に堪えようとして出来てなかった。
まあ、虎太郎はさっきの癒し系の魔法はレジスト出来るし、分かりきってきたけど……頑張ってる俺に対して笑いそうになってるって酷くない?
虎太郎らしいけど。
『皆様、ありがとうございます!』
きちんと頭を下げてから、笑顔でそう言うと更に声援が強くなる。
そのまま、今度は音楽あり(勿論、弾いてるのは俺の変身した分身)で二曲を歌い終えて、スイレンさんの出番は終わる。
幕に下がるスイレンさんに名残惜しい声が響くが……まだ始まったばかりなので焦らないように。
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