第302話 変幻自在なシリウスさん

「テントはこの大きさで問題なかったかしら?」

「うん、ありがとう」


本日のために用意した大きなテント。


その中に居るのは現在、俺とマッチョで乙女な店主だけだ。


「人の方は問題なさそう?」

「ええ、アリシアちゃん達が上手く宣伝してくれたお陰ねぇ。それにしても、シリウスちゃんってば、本当に人をたらし込むのが上手いねぇ」

「そう?」

「クーデター組織、スラムの住人だけじゃなくて、まさか王子様まで射止めちゃうなんて驚きよ」


ケイオスに関しては、ケイオス自身の考えの元の行動だし、むしろ事前に存在を把握していた兄様達の方が凄いと思う。


先の先まで見据えていて、しかも俺の勝手気ままな行動さえ読んでる節がある。


父様は更に先が見えてそうだけど、あえて兄様達の経験のために黙ってる感じかな?


まあ、危なくなったら何とかしそうだし、父様自身は既に次世代の行く末を見据えてるようだし、文句はない。


「それで?面白い取り組みだけど本当に一人で出来るのかしら?」

「化かす程度なら大して問題ないよ」


そう言ってから、俺は魔法によって自身の分身を作り出す。


とりあえずは10人ほど。


「まあ、凄いわね。これって魔法よね?」

「「「まあね」」」

「あら、シンクロしてるけど大丈夫なの?」

「今のはわざとだからね。さてと……」


俺は再び魔法を使う。


すると、10人にそれぞれが別々の人物へと変身する。


美少女、美女、イケメン、イケオジと多種多様。


万人受けする容姿で、今回の主旨にあうようにしておく。


とりあえず発声練習をそれぞれやる。


うむ、想定していた声が出せてる。


体の動きも悪くないし、これなら問題ないかな。


「……シリウスちゃん一人で、ヌロスレア支配できるじゃない?」


そんな風にして準備を進めていると、何故かそんな事を言い出す店主。


「残念ながら、俺は自領があるからね。ここを支配する気はないよ」


それに、ヌロスレアはケイオスの方が上手く統治出来ると思う。


ケイオスは確実にレグルス兄様や、ヘルメス義兄様達と同種の匂いがするし。


だからこそ、手を貸す価値がある。


まあ、そうでなくても、アリシア達を見捨てる気がないから何とかするけどね。


「アリシア達は所定の位置に?」

「ええ、そうみたいね」

「なら大丈夫かな」


個人的にはこのプロジェクトにはアリシアが相応しい気がしたのだけど、本人からやんわりと断られてしまったので仕方ない。


目立つような真似は得意ではないという気持ちはよく分かる。


それに、家庭的なことをしてる方が性にあっているというところも同じだ。


「さてと……じゃあ、始めるよ」

「ええ、行ってらっしゃい」


店主の応援を受けて、俺はステージへと向かうのだった。

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