第277話 ちょっとしたボランティア
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
「いえいえ、沢山あるので遠慮なくどうぞ」
ヌロスレアの王都の一角、事前に調べたその場所はクーデター組織の食糧配給の管理外と言っても良い場所なので、そこで俺はアリシアと数人のシスターさんと一緒にボランティアをしていた。
まあ、ただの食料配給だけど、その食料自体は俺の空間魔法に腐るほどにあるものを使っていてるので材料費はほとんどタダのようなものだった。
「大盛況だな」
「お陰様でね」
無秩序な場所で唐突にやればあれこれと問題も色々出てくるだろうけど、その辺は上手いこと根回しが聞いていたようで落ち着いたものであった。
隣で堂々と立っている虎太郎の存在も大きいのだろうけど、その虎太郎はいつもの比較的親しみやすい笑みは薄くなっており真顔に近かった。
強面の虎太郎の場合、真顔でもかなりプレッシャーを感じさせるものだけど、面倒な手合いを抑えるにはこれ以上なく助かるのでその調子でお願いします。
「ありがとうございます、アリシアさん」
「いえ、私はシリウス様のお手伝いをしてるだけですから」
顔の広いアリシアは俺と一緒に食料配給を手伝って貰っていたけど、かなり慕われてるようで好意的な声掛けが多かった。
最も、色恋の類は少なさそうなのが少し不思議ではあったけど。
アリシアみたいな美少女ならそれこそ気のある男がかなり居ても違和感ないのだけど……まあ、そんなゆとりがないくらいに国民は疲弊してるのかもしれないね。
「あの、この配給は本日だけなのでしょうか……?」
そうして皆に行き渡るようにせっせとボランティアに務めていると、ふとそんな事を尋ねてくる奥様が。
その声にどこか不安そうに伺ってくる周囲の空気もあったけど、俺は特に気にした様子もなく答えた。
「これから毎日ここでやりますから大丈夫ですよ」
「毎日……大丈夫なのですか?」
「ええ、勿論」
必要なら虎太郎と森に入って新たに色々採ってくれば良いだけだし、そもそも空間魔法に無駄に仕舞われている食料でさえこれだけ使ってまだ0.1%も使ってないのでこの程度で俺の懐が痛むことはなかった。
大丈夫と少し堂々と言ったからか、どこかホッとしたような様子の奥様方。
その安堵には、こちらのことを思いやってるようなものも含まれてるように思えた。
こんな状況でも、他人を慮れるのだからこの国の民は生来、皆善性が強いのかもしれないなぁと思ったけど、そんな彼らを助けられるように今は動けるだけ動こうと自然に思えるのだから、不思議なものだ。
そうしてそこそこの時間、食料配給というボランティアをアリシアとこなしたのだけど、翌日以降は更に混み合うことになるだろうし、助っ人を呼ぶべきかもしれないと少し考えるのであった。
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