第278話 些細なご褒美
食料配給という名のボランティアはおやつの時間を過ぎる頃にようやく一段落した。
初日だし、もう少し色々厄介事もありそうだと想定していたけど、住民たちの生来の気質なのか大きな揉め事なく食料を行き渡らせる事が出来たようで良かった。
近くで護衛という名の暇人をしていた虎太郎の威圧感も十分に役立ったし、やっぱり虎太郎を連れてきたのは正解だったと思いながら、俺は隣に座るアリシアにお礼を言った。
「お疲れ様。アリシア達が手伝ってくれて助かったよ。ありがとう」
「いえ、お礼を言うのは私の方です。私達だけじゃくて、皆さんを救って頂いて感謝しかありません」
他にも日々の糧に苦しんでいる人達の事が気にかかっていたアリシアは俺の感謝にさらに上乗せで感謝を返してくる。
俺としては、大量の在庫の処分を手伝ってもらったくらいの感覚なのだが……まあ、感じ方は人それぞれということかな。
「でも、本当に大丈夫なのですか?あれだけの食料を毎日となるとシリウス様の負担も大きくなりますけど……」
「大丈夫だよ。万が一に備えて色々備蓄してたし、あと数年は余裕で持たせられるよ」
そう言うとアリシアは少し驚いたような表情を浮かべてから、くすりと笑みを浮かべた。
「シリウス様は本当にすごいお方ですね」
「そうかな?」
「はい。年下なのに私よりも大人びてて、凄く……カッコイイです……」
照れつつそう褒められる。
今世で初めて知った人から褒められるという行為だけど、中々慣れそうにないのは何でだろう?
前世では出来て当然、出来ないとペナルティか罰か罵倒辺りが待っていたからだろうけど、今世の家族や婚約者達は皆優しいから、お叱りどころか感謝ばかりされてる気がする。
まあ、それはそれとして。
「シスターさん達には後で別でお礼をするとして……アリシアにもお手伝いのお礼をしないとね」
「いえ、そんな……」
何がいいかと少し考えてから、ふと俺は思い出したそれを空間魔法の悪間から取り出してアリシアの口に放り込む。
「いいから、いいから。はい」
「あむ……ふぁ……おいしい……」
「でしょ。ウチの特産品だからね」
アリシアに食べさせたのは、俺の領地の特産品である白銀桃のクッキーだ。
手軽に食べれるクッキーと白銀桃の相性は抜群なので、きっとどんなグルメな甘味大臣をも唸らせるポテンシャルがあると自負している。
現に、アリシアはめちゃくちゃ嬉しそうに食べてくれてるし、追加で口に運ぶともぐもぐと美味しそうに食べてくれた。
そんな俺たちの様子を少し遠くからシスターさん達と虎太郎が眺めていたが、何故か温かい視線が多めだったのが不思議だ。
虎太郎なんて、ニマニマしてるし。
というか、そんな顔されるようなことしただろうかと考えてしまうが、まあ、いいか。
それよりも、美味しそうに食べてくれるアリシアを見てると凄く和むのでもう少しだけこの時間を楽しむとしようかな。
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