第240話 前向きな気持ち

「しかし、分かっちゃいたが坊主は本当にお人好しだよなぁ」


落ち着いたアリシアが恥ずかしそうにしていたので、少し出掛けると言って虎太郎を連れて外に出るとそんな事を言う虎太郎。


「それって褒めてるの?」

「まあな。結局この件に関わる気なんだろ?」

「本当は関わる気はなかったんだけどねぇ……」


アリシアのあの様子や、子供達と直に接してしまうと流石にスルー出来るわけもないので、仕方ないとは思うが……こういう所でも前世を引きずってるのだろうかと少し考えてしまう。


いや……それだけじゃないか。


ここでアリシアやあの子たちを見捨てるようでは、俺は家族や婚約者達に合わせる顔がないし、貰った優しさを人に分けられるような懐の深い人間にもなりたいし、前世の呪いだけではないだろう。


そう考えると、不思議と前向きになれるのだから、今世は本当に素晴らしいよね。


女神様やフィリア達に感謝しかないよ。


「んで?どうするんだ?」

「まずはアリシアや孤児院の子供達の安全確保からになるかな。それからクーデター組織の状況確認」

「坊主がこの国の主要人物を暗殺した方が早くないか?」


その発想が真っ先に出てるのが恐ろしいが……まあ、それは本当にその通りなので思わず頷きそうになってしまう。


とはいえ、英雄時代の前世では多少汚いことも出来たけど、大切な人達がいる今はそんな博打や無駄なことはしたくないので、殺す以上に多くの人を助ける方向にした方がいいだろう。


「虎太郎が一緒に手を汚してくれるなら、それもいいかもね」

「……父親として清く生きねぇとなぁ」


虎太郎としても、汚れた手で愛する人を抱きしめたくはないのか、そう前言を撤退するが……虎太郎的には敵に容赦するような性格でもないだろうし、いざって時は一緒に手を汚してくれそうなのは容易に想像できた。


まあ、とはいえ俺がそれを強要することはないだろうけど。


人を殺すなんて、非生産的な所業よりも生きて償わせる方がよっぽど罰にもなるだろうし、俺としても荒事はそこまで好きでもないからね。


「頼れる兄貴たちにも相談するだろ?」

「勿論するよ。ただ、クーデター組織の現状を確認してからにはなるけどね」


元々、ヘルメス義兄様にはこの国の偵察のようなことを頼まれてはいたし、その事は父様にもレグルス兄様にも一応報告はしているので、話も通しやすい。


というか、ヘルメス義兄様も、父様もレグルス兄様も俺のこの決断まで見越してそうではあるけど……やはりまだまだ尊敬する人達には遠く及ばないのだろうと、遥か高みを見上げるが、それが悪くないと思えるのだから父様や兄様達は凄い。


「何れにしても、少し動き回るかもだけど……付き合ってくれるよね?」

「おう、任せろ」


ニカッと笑う虎太郎に頷くと、とりあえずそろそろアリシアも落ち着いただろうと孤児院に戻るのであった。






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