第237話 大聖女
「大聖女様、ありがとうございます」
お腹いっぱいになって、快適になった寝床に嬉しそうにはしゃいでいた子供たちの何人かが、そんな風にお礼を言う。
……俺に向かって。
とうとう、『聖女』や『妖精聖女』の他に『大聖女』という呼び方まで加わってしまい、思わず引き攣った笑みになりそうになるのをぐっと堪えてポンポンと子供たちの頭を優しく撫でる。
「なあ、大聖女ってのは何だ?聖女の上の存在か?」
「概ねその認識で問題ありませんよ」
「なるほどなぁ……坊主、昇格おめでとう」
「ありがとう」
ここまで嬉しくない格上げはかつてあっただろうか?
……いや、沢山あったわ。
冷静に考えなくても、前世の方がもっと理不尽な格下げと格上げがあったからなぁ……英雄の前世なんてモロそれだし。
「ねぇねぇ、大聖女様。外のお話聞かせてー」
「そうだね、じゃあそれをしたら少し休もうか」
好奇心旺盛な子供たちにせがまれて、なるべく明るくてテンションの上がりそうな話(ほとんどが今世で仕入れたもの)をするけど、久しぶりに遠慮することなくお腹いっぱいになれたからか、比較的早くにスヤスヤと夢の世界に旅立つ子が多かったのは微笑ましいものだ。
ティファニーやスワロ、他にも兄様や姉様の子供たちの相手に、ウチの領地の孤児院の子供たちとも接する機会が多いから、子供相手の相手はかなり好きだし、話のネタにも困らないので、今日のこの地に来て溜まっていたモヤモヤが少し晴れるのが分かった。
子供はやっぱりいいものだねぇ……。
「あの、本当にこれらの食材も頂いても宜しいのでしょうか?」
スヤスヤと眠る子供たちを微笑ましく眺めていると、それまで見守っていたシスターの一人がそう潜めた声で先程渡した食材の一部を指して尋ねてくる。
「うん、俺には必要ないし、数日分ならこれで足りるでしょ?まだ足りなそうなら、余剰分はまだまだあるから、言ってくれれば渡すよ」
「何から何まで本当にすみません」
「いいって。子供たちには健やかに育って欲しいし、それが俺たち大人の役目でもあるんだからね」
そう言うと、大半のシスターがなんとも言えない表情をするけど、まだまだ見た目が子供の俺が大人を気取っておかしく思ったのかもそれない。
「シリウス様は、本当に大聖女様のようですね」
そんな中でも、アリシアはそうしてくすりと微笑むのだから、実に器が大きいと思う。
とはいえ、それは絶対違うので訂正して貰わねば。
そう思って奮闘はしてみるが、ニコニコと笑ってはぐらかすアリシアに勝てる気がしなかったのは、アリシアの意外な強かさを垣間見た気がした。
俺なんかよりも、やっぱり聖女の称号が相応しいと思うので、是非とも新しく出来た『大聖女』の称号も引き取ってもらえると助かるんだが……中々世の中上手くいかないなぁ……。
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