第232話 ちょっとした憂さ晴らし

裏市場を回ってから、王都の中心地に戻ってくると、先程は行かなかったお店を回ってみる。


全体的に高めの設定だけど、それはまあ、仕方ないので、気になる商品だけをいつも通り買うことにする。


「これ、美味しいね」

「ヌロスレアの葡萄はかなり美味いとは聞いてたが……ここまでとはな」


中でも、葡萄が凄く美味しくて、思わず買い占めそうになってしまうが、何とか人数分だけに抑えた。


食糧不足な場所で買い占めとか、流石にそんな空気の読めない真似は出来ないし、この国が安全で豊かになったら定期的に仕入れよう。


「嫁さんと娘が甘いもん好きだし、葡萄は良いな」

「ウチも婚約者たちが喜ぶよ」

「坊主の所は数が多いしな。また増えるんだろ?」


なんでさも当然のことのように聞かれたのかは不明だが、俺としては今でも十分幸せなので、そういう未来はなるべくなら避けたいものだ。


「離してください!」


そんな事を思っていると、何やら近くでそんな声がする。


振り返ると修道服を着た女の子が兵士たちに路地裏に連れてかれる所のようで、思わずため息をつく。


おそらく、この国の正規兵だろうけど、自警団は近くには……居ないみたいだな。


「虎太郎、葡萄の交渉よろしく」

「坊主が行くのか?」

「ここに来てからモヤモヤが凄くてね。それに俺の方が上手いこと片付けられるでしょ」

「だな。なら坊主のためにも葡萄の入手を優先するか」


物分りの良い虎太郎と話をつけると、俺は一瞬で路地裏に入ってから組み敷かれているシスターの救出に向かう。


数人でシスターを嬲ろうとその修道服を脱がそうとしている男達は何とも下卑た表情を浮かべていたので、思わず強めに気絶させてしまう。


「な……なんだ貴様!」


三人ほどを一瞬でノックダウンすると、何とか反応できた他のメンバーが剣を構える。


「こんな大人数で女の子を襲うなんて、感心しないね」

「テメェ……俺らが誰か分かっててやってるんだろうな?」

「自己紹介してくれたら分かるかもね」

「俺らはクズリアス公爵の知り合いだ!お前とは身分が違うんだよ!」


まあ、確かに身分は違うかも。


「そっかそっか。つまり貴族の知り合いを名乗るただのゲスって事だね」

「ざけんな!テメェ舐めてっと痛い目に……ぐぼっ!」


思わず飛び蹴りをしてしまうけど、それだけで意識をなくすその男を見て、呆れ返ってしまう。


「痛い目に合わせるのは結構だけど……俺が先に口止めしたら、それは難しいかもね」


そうして、俺は彼らを一瞬で気絶させるけど、その程度にしたのは襲われていた女の子に血なまぐさい現場を見せたくないのと……この程度なら殺す意味もないだろうという気持ちもなくはなかった。


まあ、未遂とはいえ、後で被害者の女の子にビンタくらいはさせないとバランス良くないかもだし、どうせクーデターが成功したら職が無くなるか、場合によって悪事が明るみに出て死刑とかもあるかもだし、俺が手を下す必要性もなかったんだよね。








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