第233話 聖女の称号
「助けていただき、ありがとうございました」
葡萄を入手してきた虎太郎に手伝ってもらって、気絶している兵士たちを縛り上げてから裏道の隅っこに放置すると、襲われていた修道服を着たシスターらしき女の子がそんな風に頭を下げた。
「いや、たまたまだから、気にしなくて良いよ」
そう言いながらも、俺はその子に少し驚いていた。
黄金のような気品を感じさせる金髪と、優しい黄色い瞳、感じさせる雰囲気からは、どことなく優しい雰囲気を醸し出しており、『聖女』と呼んでも違和感のない感じの女の子であった。
「私は、アリシアと申します。この近くの孤児院でシスターをしております」
「俺はシリウス。こっちは相棒の虎太郎」
「まあ、お供みたいなもんだ」
お供と呼ぶには過剰戦力な気もするけど、まあいいか。
「シリウス様に虎太郎様ですね。本当にありがとうございました。あのままでしたら、私は彼らの玩具にされていたかもしれませんので」
「それはいいが、何をしてたんだ?」
「食糧の確保に出てました。何分、ここ最近は心ある方々からの支援も無くなってきていたので」
そう言いながら、貰ってきたのであろう消費期限ギリギリそうな食材の袋を見せるアリシア。
国がこの状況で、余裕が無い中で、これだけ集められるとは凄いものだ。
「確か食糧が配られてるとか聞いたが」
「ええ、確かにそうなんですが……」
「一部の人達が独占してるとかかな?」
言いにくそうなアリシアに何となく予想していた事を言ってみると、こくりと頷かれる。
「どういう事だ、坊主?」
「日々の糧が足りないのはここに限った話じゃないってことかな」
クーデター組織が今時点で表立って大きく動けない以上、ある程度は食糧を表の配る人に任せることになる。
そこで、上手いこと自分の利益をあげようとする輩が混じれば当然、足りていたはずの食糧すら足りなくなることもあるのだろう。
だからこそ、アリシア達の元に届いてないというのも考えられなくない発想であった。
クーデター組織は今現在、他所の力を借りて、何とか国家を相手にしようとしてる所で、その準備ですら人手が足りてないので、やはりどうしてもどこかに綻びは出てしまう。
そのしわ寄せにより、彼女達は大変な思いをしてるのだろう。
「どこもかしこも人間ってのは業が深いもんだな」
「ですが、人はそれだけの生き物でもありませんので。私たちは神の導きに従って一人でも多くの人を救いたいのです」
「俺には出来ない生き方だなぁ」
「普通はそうかもしれませんね」
そう苦笑するアリシアだけど、彼女としても自分の信じる神と現実を分かった上でそれでも救いたいと思ってるようなので、そういう意味では立派なシスターなのだろうと心から思えた。
うん、だからこそ俺は今こそ昔から呼ばれている『聖女』やら最近付いた『妖精聖女』なる自分のあだ名を是非とも返上して彼女のような人に与えたい。
成人前に是非とも実現したい願いの1つなので、上手いこと彼女のような人を身近に置けないか本気で思案するけど……まあ、まずはその前に目先のことからかな。
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