第227話 ブレない姿勢

お店を出ると、時間も良い感じになってきたので、ラナを送ることにしたのだが、その前に俺は元の姿に戻る必要があった。


ずっと大人モードなので、生身が恋しいところ。


とはいえ、この子の前で解いて良いものか迷っていると、先に向こうからこんな事を言ってきた。


「あの、英雄さん。この世界の姿ってどんな感じなんですか?」

「普通に子供だよ。見る?」

「是非とも!」


予想外の食いつきに驚きつつも俺はそれに頷いて、近くの路地裏で変身を解く。


今世のシリウスとしての悪くない低さに何処と無く安心感を覚えていると、ラナは俺を見て表情を輝かせた。


「可愛いです!凄く可愛いです、英雄さん!」

「……ありがとう」


喜んで良いのだろうか?


「あのあの、抱きしめても良いですか?」


ソワソワした謎の手の動きは気になるけど、とりあえず頷くとラナは実に嬉しそうに抱きついてきた。


「可愛い!英雄さん可愛すぎです!ギュッーってしたいです!」


もうしてますよね?


にしても、こんな感じの子だっただろうか?


直接会ったのは助けた時だけだし、その後も手紙やら忙しい俺の代理人として人を使ってフォローはしてたはずだけど、ここまで熱烈な慕われ方をしてただろうかと不思議になる。


「すんすん……英雄さん、甘くて良い匂いです……」


そして匂いまで嗅がれてしまう。


いや、俺は気にしないけど……ひょっとしてこの子は危ないところもあるのだろうか?


気のせいかもだが、何にしても俺の姿が今世になっても姿勢がブレないどころか、むしろグイグイ来てるのでそこは素直に好感が持てた。


というか、一応人目があるので、そろそろ離した方がお互いためな気も……いや、あれか、この場面は弟を可愛がる姉にも見えるからギリセーフか?


「ずっと、英雄さんに会いたくて、触れたくて……転生して本当に良かったです」


涙をうっすら浮かべてそんな事を言われると、流石に振り解けなかった。


英雄時代の前世はあまり好きではなかったけど、こうしてここまで慕ってくれる子を助けられたのは良かったのかもしれない。


まあ、もっと早く行ければこの子のお父さんも助けられたはずなので罪悪感すらあるけど、それを言うとまた拗れそうだしとりあえずは胸の内にしまっておこう。


何れ、また謝る機会もあるだろうし。


にしても、これは憧れの恩人に会えてのテンション……で良いのかな?


何だかそれ以上に思えてしまうけど、流石に異性としてどうこうではないと思うので、その辺は勘違いしないようにしないとね。


そうして、俺に英雄時代の前世を知る転生者仲間のラナが出来たのだけど、彼女との関係がどうなるのか……それはある意味決まりきっていたようだ。


少なくとも俺には知る由もないのだが、それはそれ。







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