第169話 入学式

「諸君、入学おめでとう。この学び舎にてこれから3年間諸君は様々なことを経験することになるだろう。だが、それが自身の……引いてはこの国の未来を明るく照らすものであることを切に願う。力を持つとはどういうことなのか、何を学び何を活かすかそれは諸君自身で決めること。私からは以上だ」


想像の数倍手短な学園長の挨拶。


だが、その言葉にはそれなりの重みがあって、長々と語らない所に人柄が現れている。


ふむ、流石は父様の選んだ学園長だ。


そんな事を思っていると、隣のフィリアが少し緊張しているようだったので、軽く手を握って解す。


俺のそんな些細なことで安心して頬を緩ますのだから、フィリアさんってば可愛すぎ。


さて、もう分かると思うが、本日は我がスレインド王国の王都にある最大の学園……トーラス学園の入学式の日だ。


本来は13歳からの入学になるのだが、俺とフィリアは飛び級で入学出来ることになった。


10歳での入学となると、この学園の歴史でも数える程度のものだが前例があるのだから凄い子もいるものだ。


基本的には魔法科に入学することになったが、俺は視察も兼ねて貴族科などにも顔を出す予定である。


護衛として、セシルとシャルティアを連れてきているが、俺が第3王子であるのと、フィリアの目立たつ容姿と婚約者達の可愛さに視線が集まっているのを感じる。


殆どは好奇の視線だが、フィリアのことを良く思ってない輩何かも居るらしく、そんな奴には軽く圧を掛けておくことは忘れない。


顔は覚えたから、フィリア達に何かしたら容赦しないよ?


『続きまして、新入生代表挨拶』


そんな事を思っていたら、俺の番が来たらしい。


柄ではないのだが、不本意ながらも新入生代表挨拶を任されてしまったのだった。


「少し行ってくるよ」

「はい、お気をつけて」


婚約者3人に見送られて、壇上に上がると無難に挨拶をこなしつつ、壇上から新入生たちの様子を観察する。


何人か……面白そうな子達も居そうかなという結論になりつつ、俺とのコネを作るためか本来入学式には来る必要もなさそうな貴族科辺りの生徒と教師を眺めていると、ふと一人の生徒と視線があう。


真っ赤な紅髪と鋭そうな目つきの美しい女子生徒……どこかで見たような気もするが今ひとつ思い出せない。


「――これからの3年間、自己を高めこの国で生きる人達の力となれるよう励むことを忘れず、また愛する人達を守れるようこの学園にて、精一杯学びたいと思います。簡潔ではありますが、私からは以上です」


そんな事を思いつつ、適当に挨拶を終えるが、思いの外大きな拍手を貰ってしまう。


王子への気遣いかと思ったが、妙に好印象を与えられたらしくその瞳からはどこか敬うようなものが感じられた。


適当な挨拶だったのになんかすみません……。


『では、続いては生徒会長からの挨拶を』


そんな事を思いつつフィリア達の元に戻って、静かにチヤホヤされていると、先程の紅髪の美少女が壇上へと上がって挨拶をする。


「皆さん、ご入学おめでとうございます。生徒会長をしております、エレン・ルナティックと申します。今年も才ある生徒が沢山集ってこの学園の生徒会長としてとても喜ばしく思います。是非、その才をこの学園にて存分に伸ばして頂ければとそう願っております」


エレン・ルナティック……ああ、確かルナティック公爵家のご令嬢か。


何故かこの学園にもある、生徒会というシステムにおいてその最上位の生徒会長を実力で務める才女だとか。


そんな風に思い出していると、またしてもその才女と視線があう。


その視線にはどこか楽しげなものが含まれてるように思えたが……気のせいかな?


「……シリウス様、知らぬ間にまた口説いたの?」

「いや、記憶にはないかな」


セシルから見ても、明らかに俺を見ていたように見えたらしい。


というか、セシルさんや、俺はそんなジゴロでも女たらしでもないのだけど?


そんな事を思いつつも入学式は無事終わった。


やたらと飛んでくる視線は、社交などで慣れているが、念の為フィリアやセシル、シャルティアとの仲睦まじい姿を見せておくことは忘れない。


『この子達は俺の大切な婚約者だから、手を出したら許さないよ?』という、無言の圧だが、フィリアはそれにどこか恥ずかしそうに、でも嬉しそうに受け入れて、俺の意図を完全に把握しているセシルはむしろノリノリで甘えてきて、そしてシャルティアは分かってはいないが、素直に従ってくれていた。


うん、三者三様だけど、皆可愛い俺の婚約者です。


そんな俺の様子に、大半の生徒達は納得したような様子だったが不穏そうなものも若干名確認できたので、警戒しやすくて助かる。


そして、紅髪のご令嬢と偶然と言いきれない程に視線が合う……というか、俺を見ているようだが、その視線には害意はなく、どこまでも興味などの意味合いが強そうだ。


よく分からないが、俺としても生徒会長とは仲良くするに越したことはないし、今度時間を作って話してみようかと思いつつも、入学式を無事終えてホッとしているフィリアがとても可愛かったことは日記に書こうと決めておいた。


うん、オアシスだよねぇ。










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