第168話 フィリアさんは聖母

「こうでしょうか?」

「うん、そうそう。筋がいいね。やっぱりフィリアは才能あるよ」


中庭にて、現在俺はフィリアの魔法の特訓に付き合っていた。


昔から、ちょくちょく教えてはいたし、実家のアスタルテ伯爵家でも魔法の家庭教師から教わっていたが、学園の入学も目前だし復習もかねての特別授業といったところだ。


「こうして教わっていると、シリウス様の凄さが凄く分かります。やっぱり私では、シリウス様のように魔法を使いこなすのは難しそうですね……」

「まあ、フィリアはフィリアのペースでね」

「はい」


水と風の魔法適正があるフィリアだが、中でも最も才能を感じさせるのが回復魔法であった。


水と風の応用の高度な治癒魔法を1度の説明ですんなりと発動さたのだから凄い。


魔法といえば、セシルやエルフ姉妹のスフィアとセリアが抜きん出ているが、婚約者の中ではそれに続くと言ってもいいくらいフィリアは才能があると思う。


にしても、何でもこなせる才女なのにこうして努力も惜しまないのだから、フィリアさんってばやっぱり凄いよね。


自慢の嫁ですよ。


「補助と回復の魔法は大丈夫なんですが、攻撃魔法は難しいです……」

「フィリアは優しいからね。それでいいんだよ」


そんな才能溢れるフィリアであるが、実ところ攻撃性のある魔法がほとんど上手く使えなかった。


回復や補助ならかなり難易度の高いものでもあっさりと使えるのだが、こと攻撃系の魔法になると本人の気質なのか上手く発動しなかった。


まあ、フィリアは心から優しい女の子だから仕方ない。


「むぅ、でもでも、シリウス様はお優しいのに上手く使えてます」

「俺はまあ、気にすることないよ」


いつのも落ち着いた様子ではなく、どこか拗ね気味のフィリアさんもまた可愛い。


というか、俺の場合は比べる対象ですらない異端なので気にしないでくれると助かる。


そんな意図で言ったのだが、フィリア的には俺が自分自身が優しいわけないと否定したことも伝わったのか、少し真面目な表情を浮かべて言った。


「いえ、シリウス様はお優しいです。優しくて、傷つきやすくて……だから、私はお傍に居たいのですから。そんなシリウス様をお支えして……少しでも私がシリウス様の心を穏やかにしたいんです」


……相変わらず、本当にこの子はずるいなぁ。


惚れた弱みではあるが、俺の心を惹き付けることばかり言ってくれる。


カッコイイ姿を見せてあげたいのに、フィリアの前では上手くいかないこの矛盾……そして、それさえいいと思えてしまうのだから、やっぱり俺はこの子には一生勝てないのだろうと思った。


「……うん、ずっとそばに居てよフィリア」

「はい、どこまでも」


こんな風にイチャイチャしつつも、魔法の特別授業はスムーズに進むのだから凄いと思う。


何にしても、フィリアさんは俺にとって本当に大切なのだと何度も思わされるのであった。


というか、俺なんかよりもよっぽどフィリアの方が聖女とか聖母だよね?







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