第132話 ファンシー化が止まらない
「えっと……側って、人間の世界に着いてくるってこと?」
「はい〜、その通りですよ〜」
ニコニコと、何とも楽しげに微笑むミルだが、思わぬ提案に俺は正直ビックリして思わず妖精女王に視線を向けてしまった。
妖精女王は、ミルの気持ちを分かっていたのか、その言葉に対する驚きはなく、何とも堂々とした姿でお茶を楽しんでいた。
「俺は構わないけど……ミルは大丈夫なの?妖精界から離れて暮らすことになっちゃうけど」
妖精にとって、妖精界とは故郷であり楽園であり、家なのだ。
そこから離れるというのは、一部気の変わった妖精以外にとってはかなり辛いことのはずなのだが……ミルは変わらぬ笑みで頷く。
「はい〜、人間さんの側は楽しいですからね〜、それに、私が居れば妖精界にも行きやすいですし、女王様ともお話しやすいですよ〜」
俺の場合は、転移の魔法でダークエルフの里まで来れば済むのだが、それもダークエルフ達に気を遣わせることになるし、ミルが側に居れば、向こうとの連絡も取りやすいか……なるほど。
「そなたの甘味とお茶は楽しみなのでな、ミルがその気なら好きにするといい。そなたなら、何かあってもミルを守れるであろうしな」
親公認のようなので、益々現実味を帯びてきた話だが、まあ、妖精に危害を加えられる存在自体、早々人間の住める世界には存在しないし、ミル自身が力を使えば、何かしら世界に妖精の力の影響が残ることになるので、ミルが側に居ることは、ある種のリスクもはらんでいたが……俺としてはその程度なら些細な問題なのでその事に関しては全く気にしていなかった。
要するに、ミルに力を使わせずに過ごして貰えればいいのだから、それは大した問題ではない。
ただ、先程から気になっているのは、何かを期待するようにチラチラと俺に視線を向けてくる妖精女王の様子がどうにも気になる。
「……それでだな、そなたにミルを任せる代わりに頼みたいことがあるのだ」
「頼みたいことですか?」
「うむ……シロよ、そなたは言ったな。妾の元に来るのは難しいと」
「ええ、まあ」
何を言いたいのだろうと、首を傾げていると、妖精女王は少しだけ照れくさそうに言葉を続けた。
「ならば、そなたと『妖精の誓い』だけはしておきたいのだ。どうだ?」
妖精の誓い……それって確か、精霊が人間に加護を与えることに近い意味合いを持つものだったかな?
「勿論構いませんが……それって、かなり大事なことですよね?いいんですか俺で?」
精霊が人間に加護を与えるのことは、本当に稀であっても実例が存在するのだが、妖精の場合は下手すると無数の世界の中で片手で数える限りのレベルの本当に特別な状況に思えたので、思わずそう問うと妖精女王はこくりと恥ずかしげに首を縦に振ると言った。
「そなたはなら構わぬ。甘味もそうだが、ミルと……妾もそなたに惹かれてるのは事実だからな」
「そ、そうなんですか……ありがとうございます」
「うむ……」
面と向かって言われたからか、少し照れくさくなってしまうが、妖精女王も同じ気持ちなのか顔を逸らしていた。
「人間さん、人間さん。私とも『妖精の誓い』しましょうね〜」
そんな空気の中で、平然とそんなことを言えるミルは最強なのかもしれないと思った。
そうして、その日俺は妖精の歴史の中でも、非常に特異な存在として名を残すことになったらしいが……そんな事を知る由もないのは、仕方ない事だろうと思うのであった。
にしても、俺の周りがファンシーになっていくのが止まならい件について。
妖精まで側に居るとか、そのうちミスターファンシーと呼ばれそうだけど、その時はその時かな。
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