第131話 思わぬ提案

「何にしても、色々と気にかけてくれたようで、ありがとうございます」

「ふん、そなたが居ないとこのお茶と甘味を味わうことが出来ぬからな」


そう言いながらも、どこか照れたように視線を逸らす妖精女王。


ストレートな感謝の気持ちというのは、受け取る側も気恥しさがあるのかもしれないなぁ、なんて思いつつも、野暮なことを言うつもりはなかった。


そう……俺はね。


「ふふふ〜、女王様照れてます〜」


それをハッキリと言えてしまうのが、ミルという少女であった。


妖精達にとっては母であり、種族のトップの存在にそんな事を言えるのはミルくらいであろう。


「違う。全く違うぞ。妾は別に……」

「女王様、普段から凄く人間さんのこと気にしてましたし、人間さんのことになると照れちゃうんですよね〜」

「なっ……!」

「今だって、人間さんと話してとっても幸せそうに……むぐっ」


何故か自分で自分の口を抑えて言葉を遮ってしまうミルだが、恐らく妖精女王がミルを操って言葉を止めさせたのだと思われる。


その気になれば、妖精達全てを意のままに動かせるし、意思も伝え放題だが、基本は自己の判断や気持ちを優先させている……何だかんだと、優しいとも甘いとも言えるところもあるのが、妖精女王なのだろう。


「……それでだ。そなたのその手腕は今からでも我らの仲間に欲しい。我らの元に来る気はあるか?」

「ありがとうございます。でも、今の人生で大切な人達が居るので、難しいです。それに……死後は予約も入ってしまっているので」


今世の家族や、フィリアたち婚約者、虎太郎や俺の領地の領民たち……今世は大切なものが沢山出来てしまった。


それらに別れを告げて、こちらに来るのは正直気持ち的には難しいし、それに、死後も女神様に予約を入れられているので、応えることは出来そうになかった。


「……そうか。ならば仕方ないな」

「すみません。ただ、女王様にもミルにも、また会えて嬉しいんです。良かったら、定期的に会い来ても良いですか?お菓子もお茶も持ってきますので」

「うむ、待っておるぞ」


先程の大人の女性の妖艶な笑みではなく、どこか無邪気な美少女の笑み。


長い時を生きるのなら、これくらいの方がいいのかもしれないなぁ、なんてふと思った。


人間と違って、寿命という概念が無いので、ある程度マイペースな方が長い時を楽しく過ごせるのかもしれない。


「ふ〜、ふふふ〜」


和やかな空気になると、ミルが口を塞いだまま何かを伝えようとしてくる。


「おっと、すまんな」

「ぷはぁ〜、ありがとうございます〜」


肉体の主導権をミルに戻したのか、手で塞いでいた口を離すと安堵したように息を吐くミル。


「人間さん、人間さん。また会いに来てくれるんですよね?」

「うん、許可は貰ったしね」


流石に婚約者達や虎太郎を連れてくるのは難しいだろうけど、俺一人でならそう負担にもならないので、そこそこの頻度で来れるかもしれない。


ここの景色を婚約者達に見せてあげたい気持ちもあるが、それには妖精達の許可が必要だし、彼女達の意志を無視して連れてくるのは違うと思うのでしないつもりだ。


まあ、仮に許可が出たとしても、婚約者全員を魔力で保護しながらここまで連れてくるだけで途方もない手順と力量が必要だし、あまり現実的とは言えないので、それは叶えばということで、後回しにするしかない。


とりあえずは、友人に気軽に会いに行く感覚で差し入れに来ればいいだろう。


「なら、人間さんに御提案です〜」

「提案?」

「はい〜、私を人間さんの側に置いてください〜」













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