閑話 正妻さんの直感力
「フィリアさん、シリウス様はお出掛けなのですか?」
「ええ、虎太郎さんと出掛けてますよ」
お昼になって、今まででは考えられない人数での食事となって、私はそれを嬉しく思いながらフローラさんの問いに答えます。
室内には、シリウス様の婚約者だけがおり、皆さんそれぞれにとっても魅力的な女の子達ですが、その中でも年齢の近いフローラさんと私は親友と言っても良いほどに仲を深めていました。
他の婚約者さん達とも、これからもっと仲良くなりたいと思いますが、同い年で話しやすいフローラさんとは、よくシリウス様から頂いた通信の魔道具で結構頻繁にやり取りをしたものです。
「虎太郎さんと言うと、背の高い、あの変わった格好のお方ですよね?」
「ええ、東の大陸ではあの衣服が普通らしいですよ」
シリウス様が雇われた、異国の剣士の虎太郎さんは聞くところによるとかなりの実力者らしく、その腕は元冒険者のセシルさんとシャルティアさん、そしてスフィアさんも認めているそうです。
あの方が護衛なら、シリウス様も前より安心して動くことが出来るでしょうし、少し安心です。
シリウス様はとてもお強いですが、それでもお一人で危険な場所に行かれていたようなので、虎太郎さんのような頼れる方が付き添えるのなら、それに越したことはないと思います。
「……女性の服も中々良さげ。シリウス様が取り寄せるために色々してくれてるらしいです」
「そうなのですか?楽しみですね」
ニコニコと微笑むフローラさん。
そんなフローラさんと対象的に無表情なセシルさんですが、どこか呆れたように隣に視線を向けて言いました。
「……シャルティア、シリウス様が出掛ける度にソワソワし過ぎ」
「だが、あの軽薄な男に何かよからぬ事を教えこまれないか……それに、私ではなくあの男を護衛として連れてったのも納得がいかない」
背の高いスラッとした美人のシャルティアさんは、シリウス様の騎士であることに誇りを持っているので、自分が置いてかれるのが少し寂しいのでしょう。
年上の方ですが、こういう所は凄く可愛いと同性ながら思います。
「うーん、シャルティアちゃんは私達ともっと仲良くなるために敢えて置いていったんじゃないかな?シリウスくんの婚約者同士、これから一緒に住むわけだしさ」
「そういう意図もあるかもしれないわね」
エルフの姉妹の妹である、セリアさんの言葉に納得したように頷く姉のスフィアさんと、ハーフエルフのソルテさん。
ここ数年で、ハーフエルフのソルテさんは、徐々に年齢相応になってきており、魅力的な女の子になってきてますが、シリウス様への依存が少し強いようで、居ない時は寂しげです。
まあ、私も寂しい気持ちもなくはないですが……私は、シリウス様の正妻なので、ドンと構えておく必要もあるでしょう。
それに、シリウス様が帰ってきたらうんと甘えるのでこの程度どうと言うこともありません。
ただ、先程から私の中の勘が何かを訴えているのが気になります。
そう、これはまるで、シリウス様の元に新しい住人が増えた時のような……
「……でも、こういう時にシリウス様は新しい嫁を連れてくる」
その言葉に皆の時間が一瞬止まります。
確かに、それは有り得るかもしれません。
「貴様はもう少し空気を読んでだな……」
「……別に、今更何人になっても変わらない」
「そうですね。仲良くなれる方だといいですが……フィリアさんはどう思いますか?」
フローラさんと、他の婚約者の方々からの視線を受けつつ、私は嘘偽りのない本心を告げます。
「シリウス様が連れてくる方なら、きっと仲良くなれますよ。でも、今日のシリウス様はお疲れかもしれないので、帰ってきてから皆さんでお疲れを癒せるように準備しておきましょうね」
その言葉に皆さんは頷いてくれたので、その後は親睦を深めつつ、シリウス様の帰りを皆さんで待つことに。
嫉妬や不安が全くないとは言いませんが、シリウス様はとても魅力的なお方なので、女性が寄ってくるのは仕方ないことです。
シリウス様が妻の一人に迎えたいという方なら、私に不満はありません。
だって、例え何人シリウス様の妻が増えようとも、一番シリウス様をお慕いしているのは、私だと……それだけは、自信を持って言えるからです。
それはそうと、こういう時、シリウス様は何かしら無茶や厄介事を片付けてきてお疲れになってるでしょうし、そのお疲れを癒すのは婚約者である私たちの役目です。
だから……無事に帰ってきてくださいね、シリウス様。
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