第122話 パズルのピース
「向こうに原因が無いなら、こっちを疑うのは確かに分かるが……人間には不可能なんだろ?」
はてさてと、首を傾げる虎太郎。
「そうだね。人間が生み出せる力ではそもそも世界の壁を越えることすら出来ない」
俺のような転生者も、神やそれに連なる存在の干渉無しには生まれない産物とも言えた。
手助け無しで、別世界へ渡るというのは、どう足掻いても人間にはなし得ない神の御業ということだ。
「だったら、人間側からのアクセスってのは何なんだ?」
「俺も話でしか知らないけど……自力で生まれ変わりを1万回程成功させると、その力の一端には触れられるっていう説があるね」
最も、自力で転生のハードルの高さもそうだが、そこまでして神と会う頃には、最初の人格なんて消えてる可能性が高いので、やはり現実的ではないが……数少ない可能性の一つではある。
「生まれ変わり……案外、坊主はそれ出来そうだな」
「虎太郎は俺を何だと思ってるの?」
「話の分かるダチ」
そうであったなら、何故にそんな事を思うのやら……
「まあ、でもこれもダークエルフ達が妖精と接触した原因ではないと思うよ」
「そうか?そこの族長とかがそれをやったってことも有りそうだが。見た感じ他のダークエルフとは別格だし」
それはまあ、そうだが……この生まれ変わりの方法に関しては、致命的な欠点があったりする。
「そうだけど、族長のは本人の元々のものでしかないよ。何故なら、生まれ変わりと言っても、人間からダークエルフへの生まれ変わりはほぼ不可能に近いから」
「そうなのか?」
「自力で生まれ変わりを成功させるってことは、神やそれに連なる存在の力を借りてないことになるよね?その場合、他の種族になるのはかなり難しいらしいよ」
例えるなら、野球選手がプログラマーに職を変えるような、急激な変化。
無論、それを容易に為せるような人も居るかもしれないが、子供の頃からパソコンなんて授業で数回しか触ったことの無い上に、しかも人よりも少し不器用な人という前提条件を付けると分かりやすいだろうか?
「ダークエルフは人間とは比較にならない程に優れてるし、魂に掛かる負担も当然大きくなる。それにね、彼らダークエルフの創造神はそういうのが嫌いな性質だから、ダークエルフになろうとすれば、介入してくることになるはず」
自らの子が、そのままその世界で他種族と交わり、子孫繁栄をしていくなら、文句はないが、転生のような方法で介入してくる異物には容赦ないらしい。
まあ、神の介入無しで生まれ変わりって、自然と乗っ取りのような形が強いかららしいが……俺の場合は人間なのと、女神様のお気に入りという事で特に気にしてないらしい。
「坊主はまるで、実物に会ったみたいに話すよな」
「気のせいだよ」
「ほー、まあ何にしても、それも違うってことだな。だとしたら、どういう訳でダークエルフ達と妖精が出会っても大事になってないんだ?」
「その答えは、恐らく……邪神の気まぐれの産物って所だろうね」
ちらりと視線をエデルと族長に向けると、エデルは少し驚いたような表情を浮かべており、逆に族長は何かを察したようにただただ黙して事実であるように肯定していた。
「邪神?悪い神様か?」
「そういう認識でいいよ」
「坊主、説明面倒になってきたんだろ?」
「まあね」
ともあれ、エデルと族長の反応から俺の考えはどうやら間違ってないようなので続きを説明する。
「邪神は、他の神への嫌がらせに、無数にある世界を気まぐれに掻き乱すことがあってね。この世界も標的にされたんだよ。その関係で恐らくダークエルフ達の里と妖精界を繋ぐ門が出来た」
「そうだとしても、妖精には関係ないだろ?そんな都合があろうが、消されてそうなものだが……」
「そこは、この世界の神様の意向だろうね」
前に会った、男装の麗人の女神様を思い出す。
あの人と恐らくは、俺の敬愛すべき女神様が絡んでそうだが……これは、後で前に貰った懐中時計で女神に聞けばいい事なので、ひとまず置いておく。
「さて、そんな訳でこの里に妖精界へと繋がる門があって、それを代々ダークエルフ達は守ってるってことであってます?」
「その通り。とはいえ、殆どのダークエルフの里の者は知らないがな。無用な混乱をもたらさないよう、一族の長とその後継者、そして妖精の認めた数名のみで守っている秘密だ」
そして、その秘密を俺と虎太郎も知ってしまったと……うむ、完全にやぶ蛇だったが、まあ、知ってしまったものは仕方ない。
「では、会わせて貰いますが……急にお邪魔しても問題ないので?」
「ああ、その辺は任せて貰って構わない」
「分かりました。ではお会いしましょう」
適当にはぐらかせる話でもないし、潔く腹を決めた方が早く終わりそうな案件に思えたので快諾しつつも時計を確認しておく。
夕飯までには帰れるといいけど……
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